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怪物③依里が好きなんです

さすがに「怪物」3本目の投稿ですが、やっぱり注意喚起はしておきます。この文章はネタバレを含みますので絶対に怪物観てから読んでくださいね。怪物観た?まだ?

今回もネタバレ込みではあるけれど、趣味丸出しで星川依里(柊木陽太くん)の良さを書いていくよ。湊(黒川想矢くん)も好きだけど好き度で言えば依里がメインだよ。

では本題。
「怪物」は麦野早織(母)、保利先生(担任)、麦野湊(渦中の子)のそれぞれの視点を通して見え方の違いを描いた作品といえるが、どの視点においても依里が事実を掴むための鍵になる。

依里の存在と彼を取り巻く環境、その意味に気付かないと話の本筋は見えてこない。

依里は父親から虐待を受けている。理由は「豚の脳が入っている」から。それだけかは分からないけど。豚の脳が入っている、というのは同性愛者であることに対する差別的表現であるようだ。
父親は依里を「治す」ことを目標としており、言うことを聞かない依里に「お仕置」として暴力を振るっている。傷痕が見えないように、春頃の依里はずっと首まで隠れる服装をしている。

さらにクラスでは男子にいじめられている。女子には仲のいい子が割といるようだが、新しいクラスでも友だちができないかと思ったと話していることから、男子の友だちは他に居ないことがわかる。いじめの内容も陰湿で、机を汚したり、トイレに閉じ込められたり、上靴を隠されたりしている。

それでも依里は強かだ。どれだけいじめられても屈さず、決してやり返さない。それでいて矛先が友だちに向かえば立ち向かうこともある。
小説版の下校中に湊が靴を貸すシーンでは、依里が外靴を隠されたが慌てふためくような様子もなく靴下のまましれっと下校してしまって、悔しがるいじめっ子たちを湊が想像して笑う。苦しんでいる様子を見せず、やり返しもしない。いじめに加担せず反論までしてくれる。こんな子が実際にいたら絶対惚れてしまう。

湊とのやりとりもどれをとっても頬をゆるめずに見ていられない。
例えば湊が暴れるシーン。湊は直接いじめを止めることは出来ないが、キスコールでいじめっ子たちに迫られている依里を助けるために暴れて教室内をめちゃくちゃにする。保利先生は背景が分からないまま「いらいらして……」という湊の言葉をもって謝罪させるが、意図に気付いた様子の依里は嬉しそうな表情を見せる。僕は普段あまり語彙力を失う方ではないのだけれどこればっかりは「尊い……」としか言いようがなかった。

そんな素敵な2人のやり取りの中でも特に好きなシーンがある。廃線車両で転校の話をする場面と依里の家の玄関で病気が治った話をする場面だ。

廃線車両でのシーンは①でも少し書いたが、湊がぶつかったことで足をくじいた依里の手当をしながら話す場面だ。自責の念からか神妙な面持ちで手当をする湊と優しい口調で湊のせいじゃないと話す依里。このときの優しい話し方が特に好きだ。
転校すると告げる依里に冗談めかして言った「ウケる、お父さんに捨てられるんだ」というセリフをすぐに後悔して「わざと面白く言ったんだよ」と訂正する湊にも「怒ってないよ」とまた優しい口調で話す。
「いなくなったら嫌だよ」と今にも泣きそうな顔で縋りつかれ、目が合う数秒。離れようとする湊を抱きしめて「みなと……」と名前を呼ぶ。普段は麦野くんって呼んでるのに!!!この歳の子ども2人でこんなに情感あふれるシーンが産まれる奇跡……。
性的にも興奮を覚える感情があると示すようなその後のやり取りも、ふたりの関係性が「友だち」というだけではおさまらないものだと感じさせる素晴らしい描写だったと思う。狂おしいほどに好きな場面。

もうひとつは上のシーンの後、早織の乱入などによって会えてなかったと思われるふたりが星川家の玄関先で話す場面だ。
なにかすごくあわてた様子でインターホンを押しドアを叩く湊。もしかしたらLINEかなにかで動揺するような連絡をもらったのかな?扉を開けて顔を出した依里に一緒にでてきた父親が言う「教えてあげたら?」。すると依里は「僕ね、病気治った」と切り出す。「普通になったんだよ」と話す依里に「もともと普通だよ」と反論する湊。
それもそのはず、小説版でもシナリオブックでも廃線車両のシーンの後には何となく好きあっていることがお互いに分かるやり取りが描かれている。「豚の脳」が「同性愛者」を指していることに気が付いている湊からすれば依里の「病気が治る」というのは「好きあっていた事実がなくなる」ということに直結し、困惑したことだろう。
映画を観ているこちらとしても虐待親父の前ではそう言うしかないか……!と悔しく感じながら「しんどうあやかちゃん」と知らない名前を告げられ、湊と同じ絶望を抱きながら扉が閉じられるのを見届けるしかない。
ところがどっこいその直後、再度扉が開き出てきたのは依里。「ごめん、嘘。」とひとこと。
なにそれキュン死するわ……!!!と身悶える僕。この場面が好きすぎて好きすぎて。
すぐに親父がとんできて依里は家の奥へと連れていかれてしまうが、そうなることを覚悟の上で湊に嘘をついたままにしないことを選んだ依里。やはり強い子だ。

キリがないので好きなシーンについて語るのはこのくらいにしておくが、星川依里というキャラクターが本当にずっと魅力のかたまりで、何度でも見たくなるシーンが盛りだくさんだった。

脚本、演出が素晴らしいのはもちろんだけれど、子役の2人の演技が素晴らしかった。僕は芝居について詳しいわけじゃないけれど、依里役の柊木陽太くんも湊役の黒川想矢くんも、演技っぽく感じる部分が全然なくて、依里も湊もそういう子が実際にいるんじゃないかと思えるほどだった。

小学生がセクシャリティについて悩んだり、隠したり、自分を受け入れられなかったり、受け入れるきっかけを得たりしていく、虐待にもいじめにも負けず気丈に振る舞う、2人だけがお互いのことをよく知っていて、深いところまで理解し合う。どこをとっても完璧なそれらしさがあった。憧れてしまうほどの関係性が2人の間には確かにあった。

ラストシーンは希望に満ちた2人の心象風景だと監督が話されているようで、そんな希望に満ちた2人の未来を祝福したい。

まだまだ本当は語り足りない部分も多くあるけれど、僕の今の力量ではまとめきれない。というか、「怪物」はまとめきれないほど魅力にあふれた作品だからこれにて怪物について書くシリーズは一旦終わりにします。感情が溢れたらそのうちまた書きます。

ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
もしまだ観ていなく、観る予定もなかったためにこれを読んでくれた人、是非とも映画を観てくださいな。ちょっと体力は使うかもしれないけど、素敵な映画でした。

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