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Top Gun : Maverickに観るスピーチ力

WaSh

昨日観賞してきました。これで6回目です。
元々35年前の1作目からして大好きな作品だったのですが
(中学校で友人とふざけたコールサインを付けて呼び合ったりしましたw)
今作を繰り返し何度も映画館で観賞する目的は2つあります。

まず1つ目は、上映方式による違いから
ZoomやTeamsなどを使ったオンラインコミュニケーションの
臨場感に影響する要素を考察するという目的です。
今作には映像、音声や体感(シートが揺れたり風が吹いたり)など
様々な点に工夫を凝らした特徴的な上映方式がいくつかあります。
何に力を入れている方式が観ていて最も臨場感を感じさせるか?
ボクはこれまでの6回を
IMAX Laser
Live ZOUND
4DXScreen
4DX
IMAX Laser GT
DOLBY CINEMA
の順で観賞してきました。
それぞれの詳細説明はリンク先の公式情報に譲ります。
ボクの中では順位が決まりましたが、それはまた別のお話として。

次に2つ目は、作中の俳優たちが演じるセリフや演技から
スピーチやプレゼンテーションの作成や実践に活かすことができる
言語表現や身体表現を盗むという目的です。
映画のト書き(セリフ)は元々、上映時間の長さが決まっている上に
好きなときに前のシーンに戻って確認できないという制限があります。
その中でストーリーを十分に理解させ、しかも強く心を打つ表現を
口語で実現するものであり、その言葉は細部まで磨き抜かれています。
その点において本質的にスピーチやプレゼンテーションと共通します。

※翻訳された字幕を読みながら観る場合は、少し話が変わってきます。
字数という制限の中でどうしても弱まってしまう力があるのです。
今回の話は原語で観ている前提で進めます。

まず、主人公のピート・「マーヴェリック」・ミッチェル大佐を演じる
トム・クルーズは表情、とりわけ眼まわりの演技力が素晴らしい俳優で
今作中でも「なんだその顔は」「その顔をするのはやめて」と
ストーリーでフィーチャーされるほど表情が多くの情報を伝えています。
Non-verbal(非言語的)な表現力はスピーチの重要な構成要素で
そのスピーチを「理解できる」から「共感できる」「好感する」という
レベルへ引き上げるためには不可欠
なものです。

次に、若手のトップガン卒業生の中でズバ抜けた操縦技術を持ち
その腕と容姿の良さを自分でも高く評価していることがビシビシ伝わる
自信家のパイロット、ジェイク・「ハングマン」・セレシン大尉。
演じているグレン・パウエルの演技が本当に素晴らしい
映画の登場人物は通常、それが現実であるかのようにごく自然な
話し方や所作、立ち居振る舞いを演技するものです。
今作も基本的にそうなのですが、その中で彼だけは違うのです。
自信がみなぎりまくって、話し方や振る舞いが「芝居じみている」のです。
これはグレン・パウエルが大根役者だということでは決してありません。
イイ気になってるハングマンは「こんなオレってどうよ感」を
その性分としてプンプン漂わせてしまう。
そういうイヤミな役柄を演じる、見事な演技だと思います。
この「芝居じみている」匂いはスパイスとしてスピーチには絶対必要です。
「猿芝居」と感じるまでに過度な芝居感はダメですが
スパイスとして適切な量を適切な瞬間に効かせることができれば
そのスピーチは非日常的な「ショー」の色を帯びてきます。
そしてそれは観衆にとって、演者がその見え方を
徹底的に意識しているという印象を与えることができます。
・そのスピーチは相手のために周到に準備されている
・演者はポッと出てきてテキトーに喋ってるわけではない
・それが聴衆にどう届くかについて全力の配慮をしている
・そのスピーチが他でもない自分のために為されている
そう聴衆に思わせる絶大な効果があります。
作中、彼が初めてスクリーンに登場するバーのシーンで
彼の喋りが作るリズムと間。そしてモデルのように作為的な笑顔。
あるいは中盤に発生する諍いのシーンで彼が見せる余裕の表情。
英語でスピーチやプレゼンテーションをするときは
視線を浴びていることをしっかり認識した上で
どう見えたいか、聞こえたいかを意識して表現をコントロールする。
この訓練を重ねると観衆を惹きつける力はグッとアップします。
「ハングマン」はそういう自意識の塊みたいなヤツです(笑)
日本人はそう言われると
「ああいうのは欧米の人がやるからカッコいいわけであって
日本人には似合わないし、恥ずかしくてできない」
と言う方がいますが、決してそんなことはありません。
それは自分がやり慣れていないだけです。
相手は「日本人のくせに欧米の真似事みたいなことを」だなんて
決して思いません。そもそもそういう偏見を持っていません。
そこをしっかり訓練した日本人の演者が、英語のスピーチにおいて
欧米人の演者に勝る評価を得ることは実際にあります。

さらに、今作のテーマとなる秘密作戦の責任者である
ボー・「サイクロン」・シンプソン中将(演:ジョン・ハム)。
彼は一匹狼で奔放なマーヴェリックのことを最初良く思っておらず
この2名が応酬するセリフも今作のひとつの見どころです。
そんな彼がいよいよ中盤の終わりにある重大な決断をする際に
マーヴェリックにひとつの問いかけをします。
その問いに驚き、湧き上がる答えの衝動が抑えられなくなって
あたふたと話し出そうとするマーヴェリックに対して
チャールズ・パーネル演じるソロモン・「ウォーロック」・ベイツ少将が

"I think the Admiral is asking a rhetorical question."

と制します。
このひと言を聞いたマーヴェリックはあわわわわ…と口を閉じます。
スピーチやプレゼンテーションを仕事にするボクにとっては
これが今作ナンバー1のセリフです。

このrhetorical(修辞学の、修辞的な)という単語はもともと
名詞のrhetoric(レトリック:修辞学、修辞法)から派生した形容詞です。
修辞というとちょっと分かりにくくて難しい響きですが、要するに
「自分のスピーチの印象を強め、相手にそれを受け入れさせるために
言葉や文章の表現をあれこれ工夫すること、あるいはそのやり方」です。
答えは自分の中で決まっているけれど、あえて質問のカタチにすることで
熟考し悩み抜いているという印象を強めて、その答えの説得力を増す。
それがrhetorical questionです

例えば「当然、そのことは誰も知らなかった」と主張したいときに
「一体その場の誰がそのことを知り得たでしょうか?」と表現する。
日本語の古文なんかでは「反語」として習った方が多いかも知れませんね。
このrhetorical questionには「果たしてAか、それともBか」という
選択疑問文のカタチをとることもあります。
シェイクスピアの「ハムレット」で訳し方がよく取り沙汰される
"To be, or not to be, that is the question."
(取りあえず「生きるべきか、死ぬべきか」の俗訳を置いときます)
も、心の中で答えが決まっていながらそう言っているのであれば
それはその場にいる人々にスピーチとして印象を力強く残すために
あえて自問自答の体をとったrhetorical questionです。
スピーチやプレゼンテーションに興味がある方や生業にしている方は
このワンフレーズを聴いて「まさにそう!😆」と合点したはずです。
レトリックという言葉自体、日本語ではあまり使われませんから
ここでそれが出てくるかー!!!的な嬉しさもボクにはありました。

なおこの場面、サイクロンはもう答えを決めていたようです。
だから質問と真に受けてマーヴェリックが何かを答える必要はない。
このウォーロックのフレーズは字幕では確か
「ここは黙っていた方が良い」という感じで訳されていました。
吹き替え版は
「答えなくていい質問だ」
だったかな。

 (7/26 23:21 追記)
 読者の方から「今のは答えを必要とする質問じゃない」という感じの
 吹き替えだったとの情報をいただきました。ありがとうございます。

いずれもrhetoricalの言葉の妙味がもう少し欲しいかな…
ボクの感覚では
「これは質問の形をした命令だ」の方が近い気がしますし
「答えを求めてはおられないんだ」とか
「もう答えは決めておられるんだ」とかだったら、もっと頷けたかな。

ちなみにこの話をしていて
「軍人がスピーチとしての言葉遣い云々を気にするか?」
と疑問に感じたという知人がいたのですが
こと米国では職業を問わず、強いリーダーシップを発揮すべき人の
重要なスキルのひとつにスピーチ力が挙げられます。つまり
「軍人、とりわけ位が高い軍人にとってスピーチ力はマスト」
ということです。
以前、米国の空軍士官学校で起きた人種差別インシデントについて
校長である中将が生徒全員と教職員に行った訓示が話題になりました。

真摯で、力強く、心を打つ素晴らしいスピーチです。
実はこの原稿にはスピーチを専門に学んだ人が書いたことをほのめかす
レトリックがふんだんに含まれています。
果たして彼本人が書いたものか否か、それは分かりません。
しかし、こうやってその原稿をほとんど見ることなく生徒を見据えて
淀みなく、そして揺るぎなくこのスピーチを実演できる時点で
彼は十分に優れたスピーチ力を持った人物ですよね。
そのための訓練をきちんと受けた人であろうことも明らかです。

その他にも、序盤でエド・ハリス演じるケイン海軍少将が
マーヴェリックにパイロットというキャリアの終焉を説くセリフを始め
「Top Gun: Maverick」にはスピーチやプレゼンテーションの
上達に繋がるセリフのリズムや間の作り方、英語表現がたくさんあります

未だに観るたびに発見があるので、今週中に7回目を観に行ってきます。
最終的にはすべてのセリフを暗誦しようと思っています。

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