『「仮面浪人説話集」(生方聖己とされる)』 第16章
俺:「この受験番号ってここですよね?何号館ですか?」
警備員:「ここは玉川学園だから君そもそもここじゃないよ」
俺:「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
俺:「じゃあ昭和薬科大は一体どこに・・・?」
警備員:「うーん、知らないねぇ・・・。下に交番があるからそこで聞いてみて」
俺:「(知らない・・・?知っとけよ・・・)わかりました」
俺の頭:「1回整理しよう。俺はなぜか玉川学園にいる。要するに道を間違えた。迅速な訂正を求められている。1回落ち着こう。予定通り来ているから時間はまだたっぷりある。取り敢えず今の時代どうにでもなる。携帯があれば・・・?携帯がねぇ・・・!あ、でも切れた時はまだ15%くらいあったな。使えるぞ!!!」
言われた道をたどり交番に向かいながら、俺はありとあらゆる、今まで培ってきたすべての技術を駆使して5Sを温めた。そして、ドキドキしながらまだ上にある電源ボタンを長押しする。すると、あの見慣れた白塗りのりんごマークがでてきた!!
とりあえず一安心。
ただ安心も束の間、最短距離でマップアプリを開き、最高速度で“昭和薬科大学”と入力する準備をした。そしてパスワードを解除し、マップのコマンドに指を最短距離で、最高速度でスライドさせている途中、画面が真っ暗に。まだ冬眠中であったようである。
丁度交番が見えたため、何かあったかいものに5Sをくるんでいったんリュックに入れた。
まあ今の時代何とかなる。
時間もまだ十分あるので、特に焦ることもなく、むしろ堂々と交番に乗り込んだ。
中には誰もいなかった。
「不在の場合はこちらの電話から連絡お願いします」 と書いてあったので、言われた通りそうした。
俺:「もしもし、道を聞きたいのですが」
警官:「はい」
俺:「昭和薬科大学ってここからどうやって行くんですか?」
警官:「え!?昭和薬科大!? ・・・ ちょっと待ってて・・・」
俺:「(すぐわからないのか・・・急いでくれ・・・こちとら人生かかってんねん・・・。まあまだ時間はある。落ち着け。1年間何してきたんだ。安心しろ。にしても遅いな・・)」
警官:「えーっとね。昭和薬科大は結構歩きますね。交番を〇手に見て、その道を真っ直ぐ歩いて下さい。」
俺:「(ここを真っ直ぐか)なるほど、次は?」
警官:「えーっとね、その後はね、その道を小田急線沿いに真っ直ぐ歩いたらね、突き当りに○○があるから、そこを○に曲がって、そこをもう少し進むと坂があって、そこを登って少し行くと細い道があってそこから*△%□#△$△□%□・・・・・」
俺:「えっ!?(なんて??)この道を小田急線沿いに真っ直ぐ行ってそっからどうすればいいんですか?」
警官:「えーっとね、だからね、*△%□#△$△□%□・・・・・」
俺:「(要するにそこからは気合で行けってことか。だめだ、もうどうしょもねぇ)了解です。 ありがとうございました。」
警官:「はい」
受話器を置いて交番を出る。とりあえず言われた通りに真っ直ぐ歩く。
俺:「(どこまで歩けばいいんだ)」
ちょっと焦ってきた。まだでも時間はあるし、最悪試験開始何十分前かに設定されている集合時間までに座れていればいいやと思い、とりあえず歩いてそれらしきところに来たら。誰かしらここらに住んでいそうな人に聞けばいい。
何のために言語があるのか。まさに今が使い時ではないか。
(ちなみにウォーミングアップがてら交番を出てすぐそばで歩いていた人に聞いたところ、分からないと言われ時期尚早なのだなと理解した。)
なんとなく覚えていた“坂”というワードを頼りにひたすら歩く。ちょい早歩きで。
時々5Sを起こすことを試みながら。起きたと思ったら即座に二度寝する。
俺:「(そろそろだな、お、あの夫婦めっちゃこの土地に詳しそう)昭和薬科大ってどこか知ってます?」
奥様:「私は知らない」
旦那様:「昭和薬科大学でしょ。この道をちょっと戻っ・・・」
俺:「(戻る!?地獄だ・・・あれ、俺ちょっとやばくないか・・)」
旦那様は続ける。
旦那様:「・・・て、○○が見えたらそこを右に曲がって真っ直ぐ行くだけだよ」
俺:「(○○なんて見あたらなかったけどな、でも割と簡単そうだ。そろそろたどり着けそうだ)ありがとうございます。」
先程、“最悪”その何十分前かに間に合えばいいと思っていたが、割と現実味を帯びてきた。 でもまだ早歩き。
だいぶ歩いた。
旦那様のおっしゃっていた○○が見当たらない。それっぽい所で曲がってみても、なんか聞かされてていた特徴のある道と違う視界にはスタート地点であった交番近くの踏切が見えている。根拠はないが戻りすぎたということは確実な気がした。
俺:「(あれ、ちょっとやばくない?俺)」
しびれを切らして旦那様を裏切ることに。もう結構焦っている。最悪センター開始に間に合うえばよいという思考に切り替わる。
次は犬の散歩をしている優しそうなおじさんに。
俺:「昭和薬科大ってどこにあるかわかりますか?」
優しそうなおじさん:「昭和薬科大学でしょ。この道をちょっと戻っ・・・」
俺:「(戻る!?地獄だ・・・あれ、俺ちょっと、いや、まじでやばくないか・・)」
優しそうなおじさん:「・・・て、○○を左に・・・」
俺:「ありがとうございます」
走る。俺は走る。誰よりも走る。何よりも走る。
すでに最初”最悪“つけばいいと思っていた時間を回っていた。日本史開始までだいたいあと30 分。とにかく走る。
まず、最初に自分が辞めるって言った際にがんばれって言って応援してくれた日体の先輩や友達やコーチが、次に親をはじめとした身内、そして高校のサッカー部の友達、監督、中学 の友達、小学校の友達、保育園の友達、佐藤病院の看護師さん・・・。日体の図書館、本の 家、高崎の図書館、高崎中央公民館、マック、ウイング高崎、ポポロ・・・
次から次へと頭に、今まで応援してきてくれた人・モノ、またはそうでない人、または全く関わりのない人が、次から次へと浮かんでくる。
皆:「センターどうだった?」
俺:「いやぁ、道に迷って日本史受けられなかったんだよね〜」
少し面白いが、情けないにもほどがある。
もし、最悪日本史が0点だとして、英語と国語で満点、いや満点は無理だとして9.5割とれたとする。センター利用の配点に換算すると、600/390=6.5割・・・
受かりっこねぇじゃねぇか。それを知りよりスピードを上げる。
3・4 時間しか寝ないで朝練に行って、身体の重い状態で図書館に向かい、古典をやっているのを見られたこともあったが、午後練開始ギリギリまで籠って、午後練で走り、疲労困憊になりながら、家に向かい洗濯をして風呂に入ってストレッチの時間を削り、ご飯はカップ焼きそばにせざるを得ない時も多々あり、朝2〜4 時まで勉強したあの日々が、“あの日々が”、充電器を忘れたために、5Sの充電が足りなかったがために水の泡になるのか・・・
あの日々の出来事が感覚を伴なって思い出された。
なんかだんだん面白くなってきた。
私:「(やっぱ人の性格ってなかなか変わらないないんだなぁ。そういえば最後の模試も遅刻したなぁ。1年で断トツ早く3回目の遅刻をしたのも必然的であったのだなぁ。今日を機に時間に余裕を持つタイプの人間に変わるのか?とか期待していたけど、最後は結局自分なんだなぁ。なんだか最後まで自分らしいなぁ。やっぱこれが俺だよな ぁ!!!」
笑いながら、にやけながら走っていた。
よくわからないけど、全く疲れない。これがランナーズハイってやつか。
とりあえずいる人いる人に片っ端から、その人がこの地域に住んでそうかそうでないかはもう関係なしに訪ねた。もう取り返しのつかない時間なので、合ってることを祈るばかり。 確か開始後20分であればまだ入室も許される。これにはどうにか・・・!
5人くらいに聞いた。突き当りに差し掛かる度に聞いた。祈りながら。
すると、「ここを左あと○○mで昭和薬科大」という看板が見えた。嬉しさでランナーズハイのそのまたピークに達してスピードを一瞬爆上げした。
今思えば最後に聞いた5人すべてが、正確に昭和薬科大までの道を知っていて、わかりやすく自分に教えることができたことはとても運がいい。
看板に沿って真っ直ぐ進むと大学の入り口が見え、大学の係員先生が3人いた。
相当嬉しかったので多分にやけていたから、あちらからしたら、遅れているうえににやけている自分をみて何か感じたものがあったに違いない。
時間は開始10〜15分前。
係員に受験票を見せ、案内される。そして小さい教室であることを祈りながら、にやけている顔をリセットし、到着したうれしさを抑えながら、自分は強く扉を開いた・・・。
第17章へと続く…
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