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『「仮面浪人説話集」(生方聖己とされる)』 第18章



試験中のことについてあまり書くことはないが簡単にいうと、


到達した嬉しさからポジティブな感情しか湧かない状態で挑んだ日本史は、終わった瞬間に100点を確信した。とは言わないまでも97点は確信した。
というのも迷ったのは1問だけで、それ以外は全て、問題の該当部分が載っている参考書の箇所を頭に浮かべながら解くことができた。要するに、間違えているわけがない。迷った部分も8割方あっているだろうなと思っていた。


昼休憩の後の13時から始まる国語は、少し、本来あるべきの緊張が生まれていた。
日本史が終わり、1時間くらい空きがあるのだが、その時間、周りはどうやらほぼ同じ組織母体で申し込んでいたのだろうか、お互い皆顔見知りのようで、まあこれが良く喋る。
まあ内容のほとんどは、結果報告、答え合わせ、偽りの心理状況である。私服ばかりだったので(自分の高校は皆基本的に制服で受けていたため、その先入観)、浪人の集い(前の席の子を除いては)だと思っていたので、あ、同じ組織だったのか思いながら、「相変わらず受験会場で生まれる会話ってしょうもね」とも思いながらも、「自分も去年そうだったなー」とかも思う反面、慣れ親しんだ環境でやれていることに対しての羨み、受験票申し込みの際に青葉台の住所を書いたことに対しての後悔も思っていた。
急に孤独を感じ、少し不安を感じた。

次の国語で鬼難しい漢詩が出たらどうしようか、源氏物語っぽい物語が出たらどう しようか。シンプルにめちゃめちゃムズイ小説が出たらどうしようか。自分があまり精通 していない新しいジャンルの評論がでたらどうしよう。
考え出したらきりがなかった。
それでも、日本史の出来が良かったので、日本史:10割、英語:9割は取れる予定で計算していて、国語は8割さえ取れれば全体で9割を超える、ということから少し心の余裕ができた。 


そして国語が始まり、まず漢文を見て、漢詩ではないことがわかったためちょっとだけ安心。
古典はまだ見ないようにした(もし物語とわかったら落ち込むから)。とりあえず漢文に集中しようと試みた。
いつもとりあえず1周して、本文を何となく理解するついでに解ける問題は解く(基本的に本文理解してなくても文法だけで20点くらいはいける)。この日も同じやり方でやったのだが、いつもと違って、文法だけで解ける問題がなく、その上本文が全く理解できなかったため(今までで一番注釈が多かった気がする)、漢文史 上初めて1周目を終えた時点でひとつも枠を埋められないという事件が起きた。
流石に焦った。時間だけが過ぎていく。

ここでこけたら日本史の出来がパーに。
もっと言えばやっとの思いでたどり着いたセンター試験自体がパーに。

一瞬闇に落ちかけた。よく本番で「頭が真っ白になったら1回ペンを置いて1分でもいいから目をつぶって深呼吸をしろ」とある。 無理に決まってんだろ、と思った。自分には合わねえ。とりあえず焦りながら何周も高速で読んだ。
すると4周目したくらいから急にひらめいて、全てが繋がって。一瞬で解けた。
時間は15分ギリギリ。

そしてドキドキしながら古典のページを開いた。神様はそう 簡単に味方してくれない。題名の最後にしっかり「物語」と書いてあった。
ただここまできたらやるしかない。
目標をあえて下げて30点とし、心に余裕をつくる。
するとどうだろうか。めちゃめちゃ簡単だったのだ。もはや説話。
予定より7分も早く終わり、小説・評論に入る前に55分くらい余っていた。もうここからはZONEに入る。小説も評論 も時間がありすぎて、わざわざいろんな解法を使ってみたり、1つの文をめちゃめちゃ細 かく分析してみたり、もはや楽しんでいた。高校の時は、「なんで現代文に制限時間が設けられてるんだよ、おかしいだろ。そもそも人の気持ちなんてわかりっこねぇだろ、俺が思った答えが正解だろ、点数なんてつけるな」とか思っていたのに。


国語が終わった時点で正直集中力は切れていた。もうなんだかセンター試験を終えた気分。1年間の疲れがどっと押し寄せた気分。
それも仕方がない。自分を散々苦しめた、人間の機能を失わせかけた国語が終わったのだから。英語でこけることはないし。
国語が終わった瞬間、なんか周りに光があふれかえった気がしていた。元居た世界に戻ってこれたような・・・・。


そして英語を難なく終え、急ピッチで対策を進めたリスニング(当日朝の3年分)も、後に世間を騒がすことになった“野菜人間”の出現(実際試験中にあいつを始めてみた時は、 心の余裕から(後で Twitter で拾われそうだなー、にしてもこれを創った人センスあるな。 シンプルそうで実は誰にも創れるんだよな)とか思っていた)に少し慄きながらも、何事もなく終了。


このリスニングが終わった瞬間、こんな簡単な言葉を使っていいか解らないが、“最高だった”
少なくともセンター利用は必ず取れている。
どえらい安心感
2浪を回避できたことの安堵がすごかった。(ちなみにこの時は自己採点もなんもしていない。全くまだ何も決まっていない)
明日からは早稲田大学スポーツ科学部の一般だけに集中できるため、念願の早稲田合格にぐっと近づく。

その時はいいことだけが、明るい未来だけが見えていたのだが、後々、「もう絶対にこの3週間(センター終了〜早稲田一般)には戻りたくない」というような感情を抱くくらいなんとも気持ちの悪い、別の種の地獄の日々が待ち受けていることを、まだ自分は知る由もなかった。





第19章へと続く…

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