【PTA回想録(10)】学校の側で社会的役割を果たす―「放課後の過ごし方」アンケートの思い出―

(前回 【PTA回想録(9)】先生方への労いと感謝の気持ちを伝えるために より続く...)

私の暮らす街では,教育委員会とPTAの共催で,放課後や週末の学校施設を遊び場として活用する事業があります.この事業は学校単位で実施を選択でき,わが小学校でもコロナ禍以前から実施していました.この事業は,活動の管理責任者である運営主任を複数配置した上で,活動実施のお手伝いをPTA役員や保護者に広く募り,地域のボランティアと協力して運営しているものです.私とPTAとの接点を作ってくれた活動,といっても過言ではないものです.子どもたちからは絶大な支持がありまして,大人にとっては「こどもたちのための活動」に貢献できた実感を持てるものでもあります.

PTA会長は,この事業の運営委員長を務めることになっていて,年一回,運営委員会が開催され,運営主任の委嘱と年間計画の決定,教育委員会の職員との意見交換を行うことになっています.私が会長になって1年目は,コロナ禍の影響もあり夏に運営委員会に招集され,校長先生・教頭先生ほか,出席者と話し合いと意見交換することになりました.

この時にどんな話をしたのかはほとんど記憶に残っていません.ただ,出席者の世代が幅広かったこともあり,コロナ禍で子どもたちの「遊び」が大きな制約を受け,そのことの影響などが話題になったような気がします.当時は,感染症の心配が大きく,友人宅を訪問して遊ぶことが難しくなり,自宅からのオンラインゲームでの遊びが主となっている状況でした.学校のグラウンドや公園などの屋外スペースでの遊び場はあるものの,数や面積に限りがあるうえ,特に冬場は風雨の日が多く,外遊びが難しいのです.一方で,保護者と教育委員会が協力して学校施設を「遊び場」として活用する事業は,たくさんの子どもたちの受け入れが可能なうえ,季節を問わず体を動かせることから,子どもたちの体力向上の面からも大きな可能性を感じるものでした.ただ,当時はコロナ禍真っ最中でもあり,学校でも大人数の子どもたちが交わって活動することが,感染症対策から困難な時期.こちらの事業も実施継続が困難になりつつありました.感染症の感染拡大によって活動できなくなることはやむを得ないにしても,コロナ禍がきっかけでこの活動が大きく衰退し,ダメになってしまうことは絶対に避けたいと思っていました.

私は,委員会の席でいろいろと話を聞き,話をしながら,「子どもたちの公共の遊び場の確保のために,現状でPTAには何ができるか?」と思って,会議の最後にひらめいたのが,「子どもたちの放課後の遊びについてのアンケート」を実施することでした.学校の教育活動に直接矛先を向けることなく,保護者の責任で対応せねばならないことに関し,子どもたちの実態や保護者の意向や意識を調査すれば,PTAは学校に迷惑をかけることなく,保護者にとって有益な情報を保護者に直接還元することができます.アンケート結果をうまく活用すれば,保護者の皆さんに負担を強いずにPTAの新たな活動を見つけるきっかけになりますし,社会教育団体として行政に働きかけるエビデンスとしても活用できます.そこそこの回答数があれば,そこそこ信頼できるものになるので,失敗のリスクが小さいのです.そして何より,google formの登場で,アンケートの実施と集計,結果の分析に必要な手間が大きく削減されています.「これはいける」と思いました.

委員会が終わって,校長先生に対して提案してみました.
「コロナ禍も長期化しているので,子どもたちの放課後の過ごし方の実態や,保護者の意向・意識などを調査するアンケートをPTAで実施したいんですが,よろしいでしょうか?」
校長先生はご快諾くださいました.
早速,この事業の運営主任を兼ねているPTA副会長のお二人にアンケートの設問を準備していただきました.設問とgoogle formの回答フォームはほぼパーフェクトにできあがっていて,「アンケートの意義もしっかり理解してくれていて,すごいなあ」と思い,さまざまな経歴や能力を持った大人が集まるPTAの「可能性」を感じたことを思い出します.

アンケートは,最後の数問に「保護者同士の人間関係の実態と,保護者同士の望ましい距離感」を問う設問を加えて,実施することにしました.6割ほどの保護者の皆さんがご回答くださいました.私は,「本当にありがたいことだ」と思いながら,アンケートの集計結果を眺めてみました.すると,保護者の皆さんは,
・コロナ禍により子どもたちの「遊び」の形態に変化を感じていること,
・子どもたちには体を動かして遊んでほしいこと.特に,天候に左右されずに,自由に体を動かしてのびのび遊べる場所を望んでいること,
・子どもたちの体力向上に関心をもっていること,
・子どもがよく遊ぶ友人の保護者とは,面識を持ちたいと思っていること,
などが浮かび上がってきました.

このアンケートは,当初の目算通り,うまくいきました.時間の自由度と得られる効果を最大化する意味でも,成功だったと思います.そもそも,私が半分仕事で対応している学会活動では,全国に仲間が散らばっていても,作業全体を分担作業のユニットに切り分けて各自で対応すれば,何度も人を集めずして,かなりのことがやれます.そのノウハウを活用すれば,うまくいくのは当然ではあるのですが...

本業もそれなりに忙しい中,アンケート結果を報告書にまとめ,校長先生にお渡しし,PTAホームページにもアップロードして,保護者の皆さんを含め,どなたでも自由に閲覧できるようにしました.今回は,このアンケート報告書の緒言を引用して,筆をおくことにします.

およそ100年ぶりとなる新型ウイルス感染症の世界的流行が始まってから,長い時間が経過した.「行きたいところへ行けない」「会いたい人に会えない」行動制約は,のびのびと育ってほしい子どもたちにも少なからぬ影響を及ぼすことが懸念されている.そこで本校PTAでは,放課後の「子どもの遊び」及び「遊びに対するコロナ禍の影響」についての現状把握と保護者からの意見聴取を目的として,在籍児童の全保護者を対象としたアンケートを実施した.本報告書は,当該アンケートの結果をまとめたものである.

今回,放課後の「遊び」をテーマに取り上げたのは,以下3点の理由がある.第一に,子どもの放課後の過ごし方は子ども自身が考え行動しつつも,主に保護者が見守る必要のある事項であること.第二に,子どもの「遊び」の内容や体力の低下が問題になることが日常生活の中で多々あること.第三に,保護者にとって地域の大人とつながる機会は,幼稚園・保育園や各種学校の保護者会・PTA,習い事やクラブ活動のほか,子ども同士の日常的な交友関係を通してのものが考えられるが,コロナ禍の長期化により子どもたちの学校外での「遊び」に対する制約が長期に及び,児童及び保護者に対する影響が懸念されること,が挙げられる.

今回のアンケートでは,企画・構想,設問の準備,回答方法の検討・準備,アンケートの回答,結果の集計・分析,報告書の作成と,すべての活動を保護者のみで実施した.私をはじめとして,関わったほとんどの保護者にとってアンケートの実施および結果の分析においては「ずぶの素人」であり,本報告書も改善すべき点が多々あろうかと思う.また,専門家や先生方のたくさんのアドバイスや助力のもと,さらに質の高い成果や分析結果を残すこともできたかもしれない.ただ,本会にとって,今回のアンケートは,会の活動のために単に現状を把握するためだけに実施したものではない.与条件を無視して「仕事」のような高い完成度を追求することはほとんど意味を持たないであろう.ごく普通のお母さんやお父さんが,わが子の生活を自分の眼で眺めなおして感じたことや考えたことをまとめ,全体を見渡して気づくことを整理・分析したうえで,私たち大人が子どもたちにできることやなすべきことを考え,できることから少しずつ改善・工夫し「よりより育みの環境」を整えていくことこそが,未来の社会を担う子どもたちに対する私たち大人の最大の責務ではないだろうか.また,私たちにとっても,このような営みを通して得た「気づき」や「学び」は,社会を構成する一個人として,一人の親としての自己の成長につながるものであり,皆さんにとって意義深いものであると信じている.

昨今,PTAに関する様々な報道や意見を目にすることも多くなり,批判的なものも少なからず存在することは否定しない.その一方で,学校で学ぶ子どもを間近で見つめる保護者が集い,教育のプロフェッショナルである教職員と向き合い協力して子どもの学びを支え見守る組織を,PTAのほかに探し出すことは極めて困難である.「いま」を生きる保護者の「気づき」や「経験」,「学びの成果」を整理・統合し,次世代の親たちに「知の蓄積」として記録を残すことは,私たちの会の社会的使命の一つであるし,私たちにしかできないことでもある.今後もそんな「社会的使命」を見失うことなく,子どもに寄り添う大人の会でありたい.
 
PTA会長 紅露一寛

「放課後の過ごし方アンケート」実施報告書 緒言より

(次回 【PTA回想録(11)】「必要なこと」を見つけて形にする―通学路雪かきの協力呼びかけ― へ続く...)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?