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世界のスタートアップ4社が登壇。NATO関係者が注目する地理空間情報技術は?「DGI 2022」レポート

宇宙開発は、各国が安全保障を目的として多額の予算を投じることで成長してきました。政府が顧客となることで技術がより成熟し、民間市場に浸透していく流れは、宇宙産業の近年の主流になってきています。

近年民間による開発が大きく進んできた地球観測技術も、安全保障において重要な役割を果たしています。対象地域を遠隔でモニタリングする衛星データや解析ツールは、安全保障関係者にとってなくてはならない存在です。

アメリカやイギリスの安全保障関係者が多く出席する「Defence Geospatial Intelligence 2022」(通称DGI)に参加したワープスペース・CSOの森が、会場の様子や話題になっていたトピックを振り返ります。

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地理空間情報に特化した「Defence Geospatial Intelligence」とは

DGIは毎年ロンドンで開催される、地理空間情報に特化したカンファレンスです。イギリスの関係者ともネットワークを広げようと、ワープスペースは今年初めて参加しました。

今年の参加者は300人規模で、そのうち6割程度は安全保障に関連する機関で地理空間情報を扱っている人……特にシニア層や管理職層が多かった印象です。そのほかは衛星画像を販売するサプライヤーなど。PlanetやMaxar Technologiesをはじめとする有名企業が参加していました。主催者によると、例年日本からの参加者は数人程度いるようです。

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2月7日から9日までの3日間、複数のセッションが同時に開催され、様々な話題について議論が交わされたのですが、特に面白かったのは、国家地理空間情報局(NGA)のChief Standards Officerであるスコット・シモンズ氏が登壇していた「How to Work With Your Partners to Best Leverage New and Emerging Trends in Standards and Interoperability」です。

国家地理空間情報局(NGA)
 アメリカの国防総省傘下の情報機関です。地図や航空画像、衛星画像などの地理空間情報を収集し、関係部局や機関に提供しています。

衛星データのフォーマットは標準化が進みつつありますが、画像の補正や解析の手法はバラバラです。それを長年のノウハウがある安全保障に関連する機関がオープンにし、メタデータを共通化することで、ユーザーにとって使いやすいものになっていくのではないか。さらに、衛星画像の補正や解析の自動化が進むのではないかとシモンズ氏は語っていました。

スタートアップ4社によるピッチ

今年はやはり国際情勢の影響を受けて、衛星データによるモニタリングに関する技術に注目が集まっていたように思います。

アーリーステージのスタートアップ企業によるピッチには、Cognitive Space(コグニティブ・スペース)、Encord(エンコード)、Pixxel(ピクセル)、そしてワープスペースの4社が登壇しました。

まずは、ソフトウェアを扱うCognitive SpaceとEncordから。

Cognitive Spaceは、コンステレーションを構成する各衛星の位置や姿勢を自動で制御するソフトウェアを提供しています。Cognitive Spaceのソフトウェアを導入することで、衛星コンステレーションを最適化し、画像を撮影できる機会を増やせるわけです。

CEOのスコット・ハーマン氏は、アメリカのNGAに衛星画像を提供しているBlackSky(ブラックスカイ)のCTO を務めていた人物で、業界からの信頼はかなり厚いのではないかと思われます。

EncordはGoogleでディープラーニング(深層学習)による衛星画像の解析を研究していた有名なエンジニアが立ち上げた企業です。衛星画像を解析して、自動で車両を検知するサービスを提供しています。

少し前までは、ディープラーニングはIT業界では利用が進んでいるのに対し、衛星画像の解析では遅れているような印象を持っていました。それが直近の数年で一気にキャッチアップが進んだように思います。

やはり彼らのようにソフトウェアを扱う企業はピッチでサービスのデモを見せられるので、イメージが伝わりやすいです。

ハイパースペクトルカメラで季節を問わずモニタリング可能に

続いて、Pixxelはハイパースペクトルカメラを搭載した衛星のコンステレーション構築を計画している企業です。Pixxelの衛星画像の強みは、コストパフォーマンスがいいこと。インドの企業なので、アメリカやイギリスと比べて人件費が安いことがコストパフォーマンスの良さにつながっているのかもしれません。

なぜ安全保障関係者がハイパースペクトルカメラに注目しているかというと、雪深い地域もモニタリングできるからです。

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雪が降るということは、空を雲が覆っている時間が長く、写真と似たような原理で撮像を行う光学衛星では地表の様子を観測できません。また、晴れていたとしても、降り積もった雪の下はどのようになっているかがわからないのです。さらに、雪が積もって地表の高低差がなくなると、SAR衛星の強みも活かせなくなってしまいます。

一方、ハイパースペクトルカメラは細かい波長ごとのデータを取得できるため、雪が多い地域の観測にも有効です。ディープラーニングによる解析手法も色々とあるので、今後利用が進むのではないでしょうか。

そして、ワープスペースは、ピッチで地球中軌道に衛星を3機打ち上げて、地球低軌道の観測衛星コンステレーションに通信を提供するサービスの計画を紹介しました。ピッチの後は、サービスインまでの具体的なスケジュールやセキュリティ面についての質問をいただき、多くの方に関心を持っていただけたのではないかと感じています。

DGIを振り返って

このように、DGI 2022は国際情勢の影響を色濃く受けたものとなりました。そのような安全保障上における喫緊の課題をカンファレンスに参加した政府や安全保障関係者が抱える中で、民間企業が注目を集めるようにったことは大いに注目するべき点かもしれません。

まず、はっきりと言えるのは、これまで政府や安全保障関係者しか持ちえなかった精度の技術や情報を、民間の企業が提供できるほど実力をつけてきたということです。さらに、民間の企業が高度な情報を持つということは、そのような情報に対するアクセシビリティが一部の関係者から、より広範な対象へともたらされてくる可能性があるとも言えます。

実際、近年は記者を派遣するにはリスクが高い地域は、メディアが衛星画像を用いて状況をチェックし、その地域で実際に何が起きているのかを報道する動きが出てきています。また、海外ではCopernicusや日本ではTellusなどのように、衛星画像を無料で民間に提供する流れが加速してきています。

このような動きは防衛や安全保障のために研究開発をされてきたテクノロジー、例えばインターネットなどが、これらが社会全体へと浸透していった過程と類似しているように思えます。宇宙開発がどう進展し、それぞれどのように社会に貢献していくかについて、今後も目が離せません。

ワープスペースは衛星間の光通信ネットワークサービスを世界で初めて実現させることを目指しています。

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©︎ワープスペース

このサービスが実現すれば、地球観測事業者はさらに多くの撮像データを、より早く地上におろすことができるようになります。そうすると、今まで以上に衛星画像に対して深く、即自的な分析ができるようになり、安全保障の面だけでなく、防災や物流、農林水産業などにおいても貢献ができると考えています。そのようなサービスの実現へと向け、開発に一層力を入れていくことはもちろん、世界中の方々に私たちを知ってもらうために様々な展示会やイベントに参加していく予定です。

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