農業、社会インフラ、人権…業界を超えた対話で見えた、宇宙産業に求められているものとは【WARP STATION Conference Vol.1 レポート総集編】
「宇宙産業以外の分野のスペシャリティを持っている方が出してくださる意見が価値を持つ時代になってきました。だからこそ、今回のカンファレンスではあえて、他分野でご活躍されている方々を主役にしたのです。私もどういうディスカッションになるのか、直前までワクワクした反面、ドキドキもしました」(常間地)
こう話すのは、CEOの常間地です。ワープスペースは、10月8日・9日の2日間に渡ってカンファレンスイベント「WARP STATION Conference Vol.1」を開催しました。
コンセプトは、“ダイバーシティ&インクルージョン”。
これまで宇宙産業のステークホルダーは宇宙産業内に閉じていましたが、商業化が進むにつれて、様々な業界へと広がりつつあります。
そのステークホルダーと多様なベクトルで対話し、取り組みを始めていくことが今後の宇宙産業にとっては重要になるのではないか。潜在的なユーザーの意見を聞くことで、現実感を持って、宇宙産業が社会に貢献できる可能性を探れるのではないかという意図で、ダイバーシティ&インクルージョンをコンセプトに設定しました。
この記事では、各セッションで伝えたかったメッセージをCEOの常間地が振り返ります。
セッション1.地球社会のサステナビリティに対するこれからの宇宙産業の貢献
セッション1のパネリストは、ESG重視型のベンチャーキャピタルMPower Partners ゼネラル・パートナーの村上由美子さん、「Forbes Japan」Web版編集長の谷本有香さんジャーナリスト、ALE代表取締役社長の岡島礼奈さんの3名です。地球規模のサステナビリティに対して、宇宙産業はどのように貢献できるのかブレインストーミング的にディスカッションしました。
セッションの最後は、組織作りやチームビルディングなど、よりミクロな視点でのサステナビリティに話題がシフトしていきました。
「多様な価値観が発揮できるチームビルディングが大事だというのが大きなメッセージのひとつでした」(常間地)
ダイバーシティやサステナビリティは、表面的な部分でしか語られていない場面が日本ではまだ多くあります。男女比など、単純な数値にとらわれるのではなく、多様な価値観を持ったチームを作り上げていくことが求められているのです。
セッション2.インフラモニターを変える衛星データ活用
セッション2のパネリストは、衛星データを使ったインフラモニタリングを実践したご経験がある2名です。常間地はセッションの内容をこう振り返ります。
社会インフラの点検や調査で、人が見回るのが難しい場合に、広範囲に地球を観測できるソリューションが選択肢としてあれば、もっと世の中が効率的に持続可能になるだろうなという感覚を、改めて認識できたセッションでした。(常間地)
愛知県豊田市・上下⽔道局で⽔道の維持管理を担当されている岡田俊樹さんは、国内で初めて、衛星データを活用した漏水検知調査に乗り出しました。結果的に、作業員が歩いて全ての区域を見回る手法では5年かかっていたのが、衛星データを活用することで約2カ月に短縮できたそうです。
政策効果の検証や途上国支援事業の評価を手掛けるメトリクスワークコンサルタンツの石本樹里さんは、入手が困難な途上国の経済成長率を、衛星が撮影した夜間光データを使って算出しているといいます。
ふたりに衛星データを利活用する上での課題を聞いたところ、画像自体のコストが高いことが共通して挙がりました。衛星画像を地上にダウンロードするための通信機会不足を解消することで、データ1枚あたりの原価は下がっていくのではないかと考えられます。
セッション3.サステナビリティに沸く市場に訴求する衛星データ活用
いわゆる衛星データ利活用という一つのスペシフィックな課題に取り組むのではなく、農業全体をどのように発展させていくかの議論で、テクノロジーのひとつとして宇宙産業があるんだろういうところがリアルに見えてきました。(常間地)
セッション3のパネリストは、米農家の金子健斗さんとリンゴ農家の会津宏樹さん、そして宇宙ビジネスに新規参入しようとする企業向けにコンサルティングを行うsorano meのCEO城戸彩乃さんです。
農家のふたりは「衛星データ事業者と意見をすり合わせながら、ソリューションをより良いものにしていくのが大事」だという意見が出た一方で、ソリューション開発側からは、「開発に協力してもらえる農業従事者がなかなかいない」という課題が出ました。業界を超えた対話の余地が十分にあることが垣間見えたセッションでした。
セッション4.衛星データ×Human Rights
セッション4のパネリストは、政府関連業務や衛星関連のコンサルティングを行うProvidence Access Companyの代表・Andrew D'Uvaさんと、Secure World Foundationの宇宙利用プログラムでディレクターを務めるKrystal Azeltonさんです。
違法漁船のトラッキングは、衛星データ利活用の代表的な事例のひとつですが、そこから違法労働といった人権的課題が見えてくるケースもあるというのです。
私たちが地球観測データで見ているものの背後には、思いがけず人権問題の検出に繋がることが隠されている場合があるというのがインサイトとしてありました。(常間地)
セッション5.衛星データ×サイバーセキュリティ
政府だけではなく民間企業が安全保障にも利用できる、汎用性が高いデータを撮影・入手できるようになりつつあるなかで、攻撃者の能力も向上しており、宇宙サイバーセキュリティへの対策が急がれています。
セッション5にパネリストしてご登壇いただいたのは、日本サイバーディフェンスのCEO・Cartan McLaughlinさんとSecure World Foundation ワシントンオフィスのディレクター・Victoria Samsonさん、そしてサイバーセキュリティの専門家である名和 利男さんです。
宇宙産業とはいえ、ベーシックな脆弱性ポイントをしっかり守ることが、見落としがちなポイントとして強調されていました。(常間地)
宇宙空間のアーキテクチャは、当然地上のアーキテクチャに接続されるため、地上インフラのセキュリティ対応も欠かせません。衛星のサイバーセキュリティ対策など、宇宙レイヤーのセキュリティに対応するのでは不十分だというのです。オペレーションを担当する“人”が、実は最大の脆弱性の源なのではないかという話も出てきました。
今回のカンファレンスを通じて見えてきたのは、持続可能な地球社会の実現に宇宙産業全体が大きく貢献できるということです。
エンドユーザーに、そして社会全体に対して、宇宙産業がどう貢献できるか。インタラクティブにアイデアを出し合いながら、幅広い業界と議論しながら、ひとつずつケースを実現していかなければならない段階にあります。ワープスペースは今後も、業界の壁を超えた対話を重ねることで、宇宙産業のマーケットのパイを拡大していくことに取り組みます。
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