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おいしい×環境にやさしい。土壌づくりから始める社会課題との共存【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#25】
「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。
このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。
第25弾となる今回は、衛星データを利用してウェルビーイングやサステナビリティへの貢献を目指すスタートアップsorano meの代表取締役CEOである城戸彩乃さんをお迎えして、土壌の品質改善に向けた取り組みやプラネタリーバウンダリーについてうかがいました。
我慢しない、環境にやさしい活動を目指して
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せりか:よろしくお願いします!sorano meはどんな事業を行っている会社なのでしょうか?
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城戸さん:sorano meは、衛星データを用いた新たな事業開発の支援や宇宙ビジネスに関する専門的な調査・コンテンツ制作・PR支援などを行っています。
ビジョンに掲げている「わたしたちの日常を、宇宙ビジネスで豊かにする。」の「豊かにする」というのは、経済的に豊かというよりもむしろ、⼼が豊か、穏やかな⽇が続いていくことを表しています。
このビジョンを実現していくには、地球規模で課題になっていることに対して、1⼈ずつが行動していく必要があると感じていました。そこで、2023年9月にパナソニック・デザイン本部が主催する宇宙をテーマとした自主研究チームと共同で立ち上げたのが、ウェルビーイングとサステナビリティへの貢献を目指す「アースエクスペリエンスラボ」です。
そして、その第一歩として始めたのが、地球上の植物・動物・そして人間が生きていくために欠かせない「土」の観測です。
せりか:土を選んだのはなぜですか?
城戸さん:不可逆的な環境の変化を起こさないための境界を定義した「プラネタリーバウンダリー(地球の限界)」と呼ばれる、ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム博士が作った考え方があります。このプラネタリーバウンダリーには、気候変動、大気エアロゾルの負荷、成層圏オゾンの破壊、海洋酸性化、淡水変化、土地利用変化、生物圏の一体性、窒素・リンの生物地球化学的循環、新規化学物質の9つの項目があります。 下の図を見ると、すでに6項目で持続可能性の限界値を超えていることがわかります。
私たちの豊かな日常を守るために、これらの問題に取り組んでいくことは重要です。その中で、まずは私たちの日常に身近なテーマから始めよう、ということで、どちらかというと私たちの「食」を考え始めたのが、土をテーマに選んだきっかけです。穀物が育つのも、家畜たちが食べる草も、土がなければなかなか育ちません。「窒素・リンの生物地球化学的循環」についてはすでに限界を超えており、これは私たちの日常に不可欠な「美味しい食」を脅かすことだ、と考え、はじめのテーマに選びました。
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現在ほかにも、「生物多様性の損失」「気候変動」「大気汚染」についてはすでに取り組みを開始しています。最終的にはsorano meやアースエクスペリエンスラボで、9つ全ての項目に貢献していきたいと思っています。
<窒素・リンの生物地球化学的循環>
窒素・リン酸・カリは作物の育成に必要な「肥料の三要素」と呼ばれ、化学肥料にも多く含まれています。欧州環境庁(EEA)によると、窒素の循環は3.3倍、リンの循環は2倍と、すでに限界値を超えていると報告されていて、土壌汚染や水質汚染が懸念されています。
参考:地球の限界 "プラネタリーバウンダリー" & 循環型社会~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~
プラネタリーバウンダリーを超えないようにするために、まずは人々が地球環境に与えている影響を正しく知る必要があります。例えば、農地をモニタリングして、肥料の使いすぎや、生物多様性に悪影響を及ぼしている可能性があるなら、それをきちんと評価できるようにしたいんです。
まだ研究開発の途中ですが、衛星データを使って⼟壌の質を分析できないか、試しています。そして、適切な土作りを行い、大雨が降っても溢れないくらいのたっぷりとした保水力がある土壌では、美味しい作物が育つとも言われていて、「土壌の保水力」は指標のひとつになりそうです。美味しくて、栄養価が高い野菜や果物が育つと言うことは、自然の摂理から考えてみても、循環が上手くいっていそうですよね。できればすべての畑の土壌が良い土になってくれるといいのですが、土作りをじっくりこだわって行うことは資材やコスト等様々な課題があります。
衛星データを使ってモニタリングを続け、土壌の質の良し悪しがわかるようになってくれば、改善を頑張ってくれている農地をわかれば評価して、そこに付加価値をつけるようなポジティブな動きを作っていくことができるのではないか、と考えています。
しかも、良い土では美味しい野菜が育つ、となれば、美味しいものを選ぶことで地球にとっても良い土を自然に選択できるようになるはず。美味しさと地球環境を守ることをマッチングさせられれば、経済も回るし、地球環境もいい方向に進むし、人間もハッピーになれて、ウェルビーイングやサステナビリティを両立しながら経済を回せるのではないかと考えています!
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せりか:おいしさと地球環境を守ることのマッチングって素敵ですね!
スペースデブリ問題への関心から始まった宇宙への道
せりか:ところで、城戸さんはどんな経緯で衛星データに関心を持ったのでしょうか?
城戸さん:⾼校3年生のときに、宇宙飛行士の若田光一さんが国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していて、ISSにスペースデブリがぶつかりそうになったと言うニュースがありました。それを見て、スペースデブリ問題について調べ始めたのが、最初に宇宙に関心を持ったきっかけです。
大学では航空宇宙工学を学びながら、中高生向けの宇宙フリーマガジン「TELSTAR」を発行する学生団体や宇宙ビジネスメディア「宙畑」を立ち上げました。新しい宇宙技術がどんどん出てきていることをいろんな⼈に知ってもらって、関わってもらうことで、宇宙の⾯⽩い使い⽅が増える世界を作りたいと思っていたので、まずは情報発信から始めてみたんです。
宙畑は、衛星データプラットフォーム「Tellus」を運営しているさくらインターネットに譲渡し、同時に私もさくらインターネットに入社して、Tellusの開発に参画することになりました。Tellusに携わるなかで、衛星データの面白さに気づいたんですよ。私⾃⾝も衛星データを使ってビジネスやサービスを作ってみたいと思い、創業したのがsorano meです。
せりか:スペースデブリへの興味関心がきっかけになったんですね。
行動のモチベーションは?
せりか:プラネタリーバウンダリー(地球の限界)と聞くと、個人が何か行動を起こすには大きすぎる話のように聞こえてしまう方もいらっしゃるかもしれません。取り組みを推進していくにはどうしたらいいと思われますか?メディアを立ち上げや衛星データプラットフォーム「Tellus」の開発、そしてsorano meでは衛星データを使った事業開発など、宇宙を身近にする活動を続けてきた城戸さんの視点からぜひ教えてください。
城戸さん:プラネタリーバウンダリーに取り組むモチベーションは、「恐怖」と「ポジティブな体験による選択」の2種類があると思います。
恐怖というのは、環境の変化によって起きるリスクを提示して、自分を守る行動を取ってもらうことです。例えば、私は今年大気汚染関連のデータの計測のためにジャカルタに出張してきたのですが、本当に大気汚染がひどくて、喉の調子が悪くなったり、発熱したりしてしまいました(苦笑)。現地には大気汚染のレベルを確認できるスマートフォンのアプリがあるので、アラートが出ている時間帯は外出を控えるなどの行動はできそうです。
ポジティブな体験による選択は、例えば、先ほど紹介したアースエクスペリエンスラボでやっているような土壌を守りながら、美味しい野菜や果物を作る取り組み……つまり、おいしいものを選択していたら、自然と土壌を守ることにつながっているという動きですね。
最近注目しているのが、廃棄されるはずだったリンゴジュースの搾りかすから作る「アップルレザー」のプロダクトブランド「LOVST TOKYO」です。「アップルレザー」がサステナブルだという話以前に、可愛いから私も普通に欲しいと思いました。デザインが優れている上に、使うことで環境にやさしいと言われると、購入のハードルが下がります。こういう「つい選択してしまう」ことを、衛星データを使ったシステムでも作っていきたいと思います。
せりか:今はまさに、プラネタリーバウンダリーのような考え方が浸透し始めたり、カーボンニュートラルの取り組みが推進されたり、地球環境に対する社会の意識が大きく変わっている状況にあると思います。そんな中で、ビジネスを進めるにあたり、大切にしていることはありますか?
城戸さん:カーボンニュートラルをはじめとするルールや規制は、国が作っていますよね。ルールができてから考え始めても、もう遅くて。10年後に何が起きるかをまず予測すると同時に、みんな幸せになれる理想を掲げることが大切だと思います。その上で、政府がどんなルールを作るかを予測して、ビジネスが未来の社会に認められるかを考えるんです。自分たちが好きな未来を掲げて事業検討をしていくほうが楽しそうじゃないですか。「こんな未来を作りたい」と⾔っている⼈の周りには、それに共感した⼈が集まってきます。そうすると社会のルールも変わっていくと思います!
せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第25弾のゲストは、sorano meの代表取締役CEO 城戸彩乃さんでした。
次回は、ハイパースペクトル衛星のデータを用いてエネルギー関連事業のモニタリングを行うスタートアップOrbital Sidekickから、技術顧問のデヴィッド・ゴーティエさんをお迎えして、創業の経緯やデータの利活用についてうかがいます。お楽しみに。
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