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注目の衛星光通信技術、災害対応への貢献に期待。「Satellite 2022」レポート

世界最大級の衛星産業カンファレンス「Satellite」が今年もワシントンD.C.で開催されました。ワープスペース・CSOの森は、アメリカの宇宙開発局(SDA)のデレク・トゥルネア局長らとともに、パネルディスカッションに登壇。衛星間通信や光通信の動向について議論しました。本レポートでは、カンファレンスの様子やパネルディスカッションのダイジェストをお届けします。

2021年に衛星業界で大きな功績を残した企業幹部として、MynaricのCCO・ガタオール氏が表彰

「Satellite」は40年以上続く、歴史があるカンファレンスイベントです。「Satellite 2022」は3月21日から3日間にわたり、現地とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。

日本からは、衛星通信サービスを手掛けるスカパーJSATがスポンサーとして参加していたほか、水を推進剤として利用する超小型推進技術の開発を行うベンチャー企業Pale Blueが出展していました。

展示ブースの様子

森は以前も「Satellite」に参加したことがあったのですが、今年は特に衛星間通信や光通信分野に注目が集まっていたといいます。

2021年に衛星業界で大きな功績を残した企業幹部を表彰する「Satellite Executive of the Year Award 2021」に、スペースデブリ除去技術の開発に取り組むアストロスケールのCEO・岡田光信氏や通信衛星コンステレーションの構築を進めるOneWebのCEO・ニール・マスターソン氏が同賞にノミネートされる中で、 MynaricのCCOであるティナ・ガタオール氏が受賞しました。Mynaricは衛星に搭載する光通信装置を製造するドイツのベンチャー企業です。

さらに、森が登壇したパネルディスカッション「Laser, RF, and the Future of Inter-Satellite Links」は、場外に列ができ、立ち見客が出るほどの盛況ぶりでした。

注目の衛星光通信技術の適用先は?

「 Laser, RF, and the Future of Inter-Satellite Links 」の登壇者

「 Laser, RF, and the Future of Inter-Satellite Links 」の登壇者は、SDAのデレク・トゥルネア局長、MynaricのCEO ビュレント・アルタン氏、BridgeCommのCEO マイケル・アバド-サントス氏、QSTC Inc.のCEO ガルヴィンダー・チョーハンそして森の5名。

モデレーターのスーザン・ヘイスティングス氏による「衛星間通信や光通信への期待が高まっているなか、実際に実証や利用に着手した企業も出てきていますよね」という問いかけで始まりました。

このパネルディスカッションのハイライトは、以下の3点です。

・相互互換性と運用性
・リスクを取って挑戦することの重要性
・宇宙空間における通信プロトコル

まず、相互互換性と運用性について。これは、SDAのトゥルネア局長のがスライドをもって熱心に説明をしていました。安全保障においては同時多発的に進行する事象それぞれに対する即時対応がますます重要視されており、そのためには地上のインターネットで築かれたインフラと同様に、様々な機能やデータなどへのアクセスが、オペレーションごとに別々のルートを利用したり、チャンネルを切り替えるたびにルーティングなどの設定を要したりすることなく、即自的にシームレスに切り替えられるメッシュ的なネットワークの構築をSDAとしては目指しています。電波通信だとどうしても電波干渉などが生じてしまうことから、このようなネットワークの構築にあたっては光通信が最適であると強調していました。

続いては、リスクを取って挑戦することの重要性です。これは、鶏が先か、卵が先かという話でもありますが、衛星間通信や光通信技術は「検証されていなければ、利用したくないと思っている人」と「検証するためには、誰かに利用してもらわなければならない企業」がいたのです。そこに、ようやくリスクがあっても「利用したい人」が現れたことで、事業化に向けた歯車が回り始めました。検証に関しては、ワープスペースも貢献していきたいと思っています。

そして最後は、宇宙空間における通信プロトコルについてです。地上では一般的にTCP/IPプロトコルで通信が行われています。一方、中継衛星を利用した場合でも、通信が遮断されやすい宇宙空間ではTCP/IPを使った通信はスムーズではありません。「NASAが深宇宙探査用に開発した通信ネットワーク(Bundle Protocolと呼ばれるパケットを通信する手段)とTCP/IPを組み合わせたような仕組みを作る必要があるのではないか」と森がコメントしたところ、会場でも頷いている参加者が多くいらっしゃいました。

パネルディスカッションの様子。右から2番目が森

また、「光通信が適用されるアプリケーションで、最も成長する分野は何か」という質問に対しては、森は「災害対応」と答えました。ちょうどカンファレンスの数日前に発生した福島県沖地震やそれに伴って起きた関東や東北地域の停電やトンガの火山噴火を例に挙げ、地球観測衛星を利用すればすぐに状況を把握できることや政府が出資する見込みも大きいことを説明しました。

セッション前に掲載されたニュースでは、SDAがTranch 1という光通信を活用した衛星ネットワーク構想に対して1.8B USD(2,000億円)という巨額の投資を行うことが発表されていたため、宇宙業界の様々なプレイヤーが注目をする状況の中、本セッションをはじめとして衛星ネットワークに関するパネルやトピックが大きく盛り上がっていました。

このように、アメリカではSDAが起点となり、政府による戦略的な投資があることで、市場が活性化し、光通信技術の成長が後押しされることで、大きな枠組みの構築に取り組むことができています。日本でも安全保障分野や防災分野は喫緊の課題であることから、関連技術に政府がアンカーテナンシーを積極的に行うことで、大きく技術や市場が前進するのではないでしょうか。

Satellite 2022を振り返って

今年のSatelliteは実に2年ぶりに「オフライン」が主役のイベントとなり、業界関係者がようやく見知った顔や新しい顔と直接触れ合うことができた特別なイベントとなりました。

森(左)、JAXAワシントン駐在員事務所・所長 小野田勝美さん(右)
懇親会にて

そのために多くの方々が挨拶を交わして旧交を温めつつ、新しいトレンドを肌で認識することとなり、このイベントを皮切りにまたビジネスシーンが大きく動いていきそうな予感があります。

そのような新しいスタートを象徴するかのようにワシントンD.C.では市内の至るところで桜が満開となっていました。

ワシントンD.C.の桜

これらの桜は1912年に日本から寄贈されたもののようです。まるで、衛星光通信業界とワープスペースの門出を祝ってくれているような…。はたまたアメリカと日本が構築できうる良い関係を暗に示してくれているような気もしました。

そんな桜並木の期待(?)に応えるべく、ワープスペースもアメリカをはじめとした世界各国のプレイヤーやパートナーと密に交流を図ることができ、Satellite 2022は実りの多いイベントとなりました。

スミソニアン博物館の航空宇宙館で撮った記念の1枚。高橋(左)と森(右)


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