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韓国の新宇宙機関、KASA発足!光通信の視点からみる宇宙経済強国実現の展望-宇宙ビジネス最新動向解説:ISS 2024-前編

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2024年6月11-13日、韓国の首都ソウルにて、International Space Summit (ISS) 2024が開催されました。ISSは韓国の宇宙スタートアップであるCONTECが2023年から開催しているカンファレンスで、600人以上の宇宙ビジネス関係者が集っています。ワープスペースからはCSOの森が参加し、キーノートスピーチと、「光通信」および「量子通信」に関するパネルディスカッションに登壇しました。

本記事では、カンファレンスで発表されたニュースのうち、特に森が注目したトピックである、 「韓国の新宇宙機関、KASA設立」と「韓国の光通信地上局」について詳しく説明します。

(「後編:宇宙空間での量子通信」についてはこちら


韓国版NASA「KASA」発足!その狙いとは?

2024年5月27日(月)、韓国の航空宇宙庁(Korea AeroSpace Administration、通称KASA)が発足しました。新たな宇宙機関の設立は、尹政権の主要な選挙公約の一つ。2022年に発表された宇宙ロードマップにも盛り込まれていた計画が、ついに実現しました。その他にも5年以内の月探査用の次世代ロケットエンジンの開発、2045年までに火星着陸を目指す計画が発表されました。

5/30(木)に行われた発足式にて韓国政府はさらに、2,000社以上の航空宇宙企業の発展と50万人の雇用創出を目指し、2045年までに100兆ウォン(約10兆円)という巨額の予算を宇宙開発に投入することを明らかにしました。2024年7月より事業者の公募がスタートする日本の宇宙分野に対する技術開発支援予算「宇宙戦略基金」が2035年までの10年で1兆円であることを踏まえると、その約10倍に相当します。このことからも韓国政府の宇宙産業拡大への決意が見て取れます。

近年の韓国の宇宙開発を辿ると、2022年8月に韓国初の月周回探査機「the Korea Pathfinder Lunar Orbiter (KPLO)」(愛称:ダヌリ)を SpaceXのFalcon 9により打ち上げています。また、2023年5月には完全国産ロケット「ヌリ」3号機の打ち上げに成功し、次なる目標として2032年までにロボットによる初の月面着陸を目指しています。

KASAは、これまで韓国航空宇宙研究院(KARI)が主導していた宇宙開発プログラムを引き継ぎ、科学技術情報通信部(MSIT)の監督のもと、国家予算による宇宙開発プログラムを統合管理します。初代長官に任命されたのは、ソウル大学の元航空宇宙工学教授、ユン・ヨンビン氏。

発足式にてヨンビン氏は

KASAの設立は、韓国が宇宙経済の強国になるためのマイルストーンだ

と語り、意気込みを見せています。(*1)

発足式で、報道陣の取材に応じる韓国航空宇宙庁のユン・ヨンビン長官(*1/©KASA)

そしてこのKASAという名称について、森は

NASAとあえて被せることで、アメリカとの友好関係を示しているのだろう。これはNASA主導のアルテミス計画と同じ、火星到達を目標の一つに設定していることからも推測できる。」

と述べます。

(*1【Korea Joongang Dialy】 ‘Korean NASA’ opens its doors)

民間事業者が光通信の地上局設立!?安全保障分野から宇宙産業拡大を目指す韓国の戦略

尹大統領は、2022年にも、

韓米同盟は韓米宇宙同盟へと拡大され、宇宙安全保障における国際社会との協力も拡大していく

と述べており(*2)、かねてより安全保障分野におけるアメリカとの協力強化を強調してきました。

現代の防衛戦略において、宇宙からのリアルタイムデータの取得と大容量の通信は、不可欠な要素です。そこで、通信速度が速く、セキュリティが堅牢である光通信技術が特に注目されています。

ワープスペースが提供する光通信サービス、WarpHub InterSatをプレゼンする森の様子

光通信のデータ伝送速度は従来の電波通信に比べて遥かに高速であり、大量のデータを瞬時に伝送することができます。また、光通信のもう一つの利点は、セキュリティ面の高さです。光通信は、非常に絞ったビームを使用するため、ビームが広がりやすい電波通信に比べ、外部からの干渉を受けにくく、データの盗聴リスクが低減されます。これにより、重要な宇宙データが安全に地上に届けられることが保証されます。この技術を用いることで、宇宙からのデータ通信のセキュリティを飛躍的に向上させることが期待されます。

本イベント主催のCONTECが提供する衛星通信用アンテナ(*4/©International Space Summit 2024)

そして本イベントを主催するCONTECは、光通信を行う上で必要となる地上局を韓国の済州島に建設する予定です。

こちらに関して森は

光通信自体は各国が取り組んでいるが、民間事業者で光地上局の製造から運用までやっている国はあまりない。それだけ韓国が安全保障に絡む宇宙産業にも力を入れていることが伺える。

と述べます。

自国に光地上局を設置することは、セキュリティ面で非常に重要です。自国でデータを管理することで、外部からのアクセスを制限し、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。済州島に設立される地上局は、これからまさに韓国の安全保障と民間の宇宙通信のデュアルユースの中枢として機能することでしょう。

(*2【SPACENEWS】South Korean leader eyes “landing on moon in 2032, Mars in 2045”)
(*3【Warpspace】WarpHub InterSat)
(*4【CONTEC】About us)

韓国のKASA設立は、宇宙産業拡大に向けた大きな一歩です。アメリカのNASAをモデルにしたこの新たな宇宙機関は、韓国が宇宙経済の強国になるためのマイルストーンとなるでしょう。そして光通信の地上局設立は、韓国の宇宙産業の防衛・安全保障分野の拡大・強化に大きく寄与します。
近年はアジア全体でも宇宙開発の盛り上がりが見られ、2023年にはインドのチャンドラヤーン3号、日本のSLIM、2024年6月には中国の嫦娥6号が月面着陸に成功しています。韓国もこれらに続き、さらなる宇宙開発の進展に向け注力しています。KASAの設立と光通信の推進により、韓国の宇宙産業がどのように発展していくのか、これからの展開に注目が集まります。

 (執筆:川口奈津美)

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