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【Space Ops 2023】宇宙開発において発展目覚ましいUAE。宇宙後進国でも徐々に増す光通信の存在感

 去る3月6-11日、中東はアラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイにて、衛星の運用に特化したカンファレンスであるTHE 17th INTERNATIONAL CONFERENCE ON SPACE OPERATIONS (Space Ops 2023) が開催されました。ワープスペースからはCSOの森が現地に趣き、ポスター発表を行いました。本記事では、Space Ops 2023の様子をご紹介します。

 Space Opsは、世界中の行政や民間企業、教育機関が参加するカンファレンスですが、ビジネスよりも技術に特化した学会よりのイベントと言えます。ブースセッションでは各国宇宙機関に加えて衛星運用に関連する事業者が出展しており、メインステージでは連日ポスター発表が行われました。

宇宙開発におけるUAEの目覚ましい発展と国家戦略

 Space Ops 2023で特に注目すべきは、UAEドバイの政府宇宙機関であるMohammed Bin Rashid Space Centre(MBRSC)です。MBRSCの設立は2006年と比較的新しく、他の各国宇宙機関と比べて尖った技術を有していたわけではありません。しかし、昨年12月に打上げられたispaceの月探査ランダーに相乗りしている月面探査ローバー「Rashid」や、2020年7月に日本のH-IIAロケットで打ち上げられたアラブ首長国連邦初の火星探査ミッションEmirates Mars Mission (EMM) の「HOPE」探査機など、その発展スピードには目を見張るものがあります。また、2023年3月にはUAEの宇宙飛行士、スルタン・アル・ネヤディ氏がアラブ人として初めてISSに長期(6ヶ月)滞在するミッションに挑戦しており、イスラム教徒が夜明けから日没まで断食を行う「ラマダーン」の時期と重なることからも、有人宇宙開発の分野でも注目が集まっています。
 このような、急加速するMBRSCの発展には、UAEの国家戦略が大きく関わっています。UAEは産油国として非常に有名ですが、その反面、人口も少なく周囲を砂漠に囲まれているという土地柄、物流にも制限があり石油の産出以外の一次産業や製造業が育ちにくい背景があります。したがって、将来的に石油が枯渇した後の中長期的な視座から、石油に依存しない産業システムの確立が要になります。そこで今、UAEが注力しているのが、ITや宇宙をはじめとするハイテク技術です。石油によって得た資金と、宇宙産業へ投資するという国としての覚悟が、宇宙分野での超スピードの発展を支えています。
(参考リンク:昨年10月にUAEにて開催されたテック&スタートアップイベントGITEX GLOBAL 2022参加レポート

MBRSCのブース。UAEのこれまでの宇宙開発の歴史を垣間見ることができます。

スウェーデン宇宙公社が衛星ー地上間の光通信シミュレーションソフトを開発

 また、光通信事業に関連した内容では、世界中に光通信地上局を持つスウェーデン国営の企業、Swedish Space Corporation(SSC:スウェーデン宇宙公社)の発表がありました。SSCは、ESAの人工衛星のための光通信技術と市場の開拓を目指す「ScyLight」プログラムの一環として、光通信地上局の建設をフランスのディープテック企業、Cailabs社に発注するなど、人工衛星のための光通信の地上システム開発に関連して重要な位置を占める事業者です。Space Ops 2023では、SSCが光地上局を運用する上でのシミュレーションソフト、「NODES」が発表されました。NODESはすでに所有する世界中の光地上局と、新たにCailabs社が建設する光地上局、人工衛星データとを照らし合わせながら、各光地上局が通信衛星とどの程度通信できるかのシミュレーションを行っています。NODESは未だ研究段階であり、SSCが具体的にどのようなサービスを提供することになるかは未定ですが、ワープスペースをはじめとして、衛星間、衛星ー地上間光通信を運用する事業者にとっては今後重要となりうるツールであることは間違いありません。

 Space Ops 2023では衛星運用全般に関わる話が多く、光通信に直接関連する話題は多くはありませんでした。しかしながら、これまでのSpace Opsではほとんど見られなかった光通信事業者が、欧米で開催されるカンファレンスと比較して控えめではあるものの、散見されるようになってきたことも事実です。宇宙開発において目覚ましい発展を続けるUAEにおいても、人工衛星のための光通信事業は更に注目を集めてきています。

(執筆:中澤淳一郎)

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