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……どうやら俺は、凄まじい力を手に入れてしまったらしい。そりゃもう、凄まじい力だ。

どんな力か、気になるか?

他人の欲望、実力、その全てを知ることができる力だ。って言っても、伝わらないだろうな。もっと具体的に言ってやろう。

俺は、『他人の夢の中を見る』ことが出来る。

え、たったそれだけかって? いやいや、お前は馬鹿か?コイツは中々に素晴らしい能力だぜ。なんてったって、夢はヒトの考え、欲望、その全てを嘘偽りなく映し出す鏡なんだから。


明確にいつから他人の夢を見ることができるようになったのか、それは詳しく語れない。だが確か、大体高校の頃だったような気がする。

あの時は、他人の頭の中が気になって仕方が無かったんだ。

他の奴らがどんな風に勉強して、努力してるのか知りたくて仕方が無かった。ロクに勉強できず、しかも部活でこれといった実績ものこせていない俺は、劣等感に押しつぶされそうだったんだ。

「他人の思考が知りたい。」

確か、そう願いながら眠りについた時だったと思う。俺が初めてその力を使ったのは。

次に目が覚めると、親友である佐久間の家にいた。佐久間は幸せそうな顔をして、敷布団の上で眠っている。いびきは殆どかいておらず、冷静沈着かつ成績優秀な彼らしいなと思った。

俺はため息をつく。

これが夢だという事に、気が付いていた。状況が理解不能すぎる。最近は成績優秀な佐久間の近くにいることに、嫌気が差していた。早く覚めてくれと、目を瞑って自分自身に言い聞かせる。

すると、頭の中に克明なイメージが流れ込んできた

勉強道具一式を、燃やしている佐久間の姿である。彼はこれまで俺が見たことないほど幸せそうな笑みを浮かべていて、嬉しそうだった。

俺は戦慄する。

一体俺の体は、なにを見せようとしているのだと自問し、激しく狼狽する。
佐久間がこんなことをする筈がないのは、明々白々なはずだ。真面目なアイツは、絶対にそんなことしない。

俺は、立ちすくんで声も出なかった。

***

こんな経験は、俺が眠りにつくと必ず訪れた。
一睡につき一回、ほぼ必ずである。

人物が変わるだけで、永遠と繰り返される気味の悪い夢。

繰り返すうちに、俺はこれが超常的な現象なのだと考えるようになっていった。こんなにも連続して同じ夢を見るなど、とてもじゃないが考えられない。おかしな悪霊にでもつれてるんじゃないかと思った。

……だが、何十、何百と繰り返すうちに俺は悟った。
これは俺のなのだと。

他人の夢を盗み見て、ヒトの真の姿を垣間見ることができる力。

まさに、あの時の俺が欲しかった能力である。それからは、沢山の人の夢を覗き見た。そりゃもう、学校に在籍する生徒全員とか、そういう単位でだ。時には、テレビで見た東大生の夢も見たりした。


成績優秀な佐久間の裏の顔を、何度も見た。
所詮アイツも人間なのだと深く安堵した。

生徒に向かって暴力を振るう、人気教師の姿も見た。
行き場のない苛立ちを誰かにぶつけたかったのだろう。

札束で溢れたプールで泳ぐ、貧乏人の夢も見た。
理想への渇望を、満たしたかったのだろう。



そして時々、俺は顔のない誰かの夢を見る。

そいつは、他人の思考を盗み見ようとしていた。
夢のプロフェッショナルとさえいえる俺だから、そいつが見ているのがただの明晰夢、理想だという事に気が付けた。


──なぜか、とても虚しい気持ちになった。

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