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悪女の深情け。

「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? それとも、この銀の斧ですか?」

そう尋ねられた時、私は素直に「何言ってんだろう」と思った。
木こりしていた私が誤って泉に斧を落としてしまい、呆然としていると。
両手に金でできた斧と銀でできた斧を抱えた女性が光臨した。

いや、両方とも違う。
私が落としたのはそのどちらの斧でもない。

私はため息とともに言った。

「いいえ、私が落としたのは鉄の斧です」
「そうですか」

白いローブを身に纏った彼女は、うっすらと、でも眩しく微笑んだ。

多分これは、私が元の斧の代わりに高価な斧二つを受け取る『金の斧と銀の斧』的な展開になるのだろう。


(読み飛ばし可)
しかし、私が持っていた斧は鍛冶屋だった父の形見で、木こりに最適な重さ・振りやすさを兼ね備えており、かつ圧倒的な耐久力を誇るぶっちゃけ金銀なんて目じゃないくらい超高スペックな代物だ。木こり歴ゼロ年のこの女にはわからないだろうが、金は耐久性に劣っており、銀は銀で汚れが目立つから、等価交換にもなりやしない。木こり一筋20年の私に斧を差し上げようなんて、おこがましいとは思わないのだろうか。今使っている斧こそ私にとっての最高であり、命以上に大切な物なのである。ぶっちゃけ彼女さえ来なければ、私は躊躇なく泉に飛び込んで斧を入手していただろう。ってかアナタ、やろうとしてること犯罪だからね? 人の物勝手にとろうとしてるんだからね?


そんな私の考えをよそに、彼女は金と銀の斧を手渡した。

「……正直な貴方には、この二つの斧を差し上げましょう」
「いらないです」
「貴方はやはり謙虚な、素晴らしい方だ。この女神、ダイアモンドの斧もサービスしましょう」
「だからいらないですって」
「ふむ……頑固な方ですね。正直な人には、報いがあるべきなのです」
「耳聞こえないんですか? いらないですって」
「いえいえ、受け取ってください……」

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