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【コロナの感染経路と経済】イランと中国が反米で手を結ぶ。米国がイランに制裁をするほどイランー中国は活発に。あと韓国も乗っかる

第2回 イラン―中国編です

コロナウイルスは中東でも広まっています

中東最初の感染記事がこちら



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2020年2月19日

新型肺炎、中東で初の死亡者 渡航歴ないイランの2人

 イラン保健省は19日、テヘラン近郊の都市コムで、高齢者2人が新型コロナウイルスに感染し、死亡したと明らかにした。性別や年齢、中国への渡航歴などについては明らかにしていない。イランで感染と死亡が確認されたのは初めて。世界保健機関(WHO)によると、中東ではアラブ首長国連邦(UAE)とエジプトで感染者が出たが、死者は確認されていなかった。

 死者の親族や関係者は隔離されたという。コムの地元当局によると、2人は16日以降に呼吸系の疾患が原因で死亡し、その後、新型コロナウイルスへの感染が確認されたという。イラン国営通信は、2人に海外渡航歴はなく、最近はコムから出たことがなかったと報じた。

 コムはテヘランから南に約140キロで、人口約120万。イスラム教シーア派の宗教学校が多くあり、シーア派の聖地としても知られている。


中央部ゴム州で2名の感染が初確認されて以降、イランでは感染者数・死者数ともに中東で最悪の被害を受けている。2020年3月26日時点で、感染者数は2万9406名を数え(内、1万457名が回復)、死者数は2234名となった。被害者は市民だけに留まらず、政府高官にも及んでいる。具体的には、ハリールチー保健事務次官やエブテカール副大統領等への感染、及び、ミールムハンマディ公益判別評議会委員や第11期国会議員選挙テヘラン州選出のラフバル議員の死亡(各々3月2日、7日)等が確認されている。



はい、2月19日より前に初感染が中東で発生したようです

では感染源は




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3 月 12 日記事

イランのウイルス禍、根底に中国との戦略的提携

イラン当局は国内の新型コロナウイルス感染流行の発生源として、イスラム教シーア派の聖地コムを挙げている。コムには多くの神学校や聖廟(せいびょう)のみならず、中国が後ろ盾となったインフラ建設プロジェクトも複数ある。こうしたプロジェクトには中国から来た多くの労働者や技術者が関わっていた。

 コムを中心として築いた中国との深い関係は、イラン経済が米国の制裁に直面する中でも生き永らえる救いとなった。それが今では、新型コロナウイルス問題で試練にさらされている。

<感染がイランで急拡大した背景には、中国との密接な関係に加えて、社交スタイルや大気汚染、医療機器・薬の不足がある

イランで新型コロナウイルスが2月下旬から急激に広がっている。マスコミや専門家が警鐘を鳴らした日本と対照的に、イランは感染の蔓延をひとごとと考えていたようだ。

イランは経済制裁の最中にあり、日本や欧米からの輸入が厳しく制限されているが、エネルギー資源は言うまでもなく畜産・農産物もほぼ自国で賄える。ただ電化・工業製品などは輸入に頼らざるを得ない。そこで密接な関係を築いているのが中国である。


経済制裁下であっても中国からの輸入は止まっておらず、むしろ中国依存はここ2~3年で非常に強まっている。実際、イランの大企業では多くの中国人が働いている。また南部の油田には多くの中国人労働者がいる。つまりイラン国民と非常に近い距離で生活している。中国との航空路線は武漢市で感染が広がり始めた時も一切止められなかった。このため、春節で帰郷した中国人がイランに戻る際にウイルスを持ち帰ってしまったことは容易に想像できる。

では、なぜこれほどまでに急速に感染が広まったのだろうか。聖地コムで聖人を祭る廟に巡礼者が唇や手を触れるため感染が広がったという説もあるが、それだけでは説明できない。中国との密接な関係が仇となった。



米国によるイランへの経済封鎖が続く中、日本、韓国、イランの三角貿易に発展

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イランは核開発したいが材料のフッ化水素は経済制裁対象品で入ってこない

韓国は原油が欲しい

ここで三角貿易が発生しました


日本のフッ化水素→韓国

韓国が得たフッ化水素→イランの原油タンカーへ瀬取り(密輸)

イランの原油→韓国タンカーへ瀬取り




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まとめ

中国は韓国、北朝鮮を赤グループとして取り込み

イランは友好国として対米グループを形成している


ここまで読んでいただいてありがとうございます

以下は勉強した資料を載せてるだけです。なので読むの時間かかるから画面は高速スクロールしてね















2月22日以降は韓国、イタリア、イラン

などで感染経路が把握できない新規感染者が大量に報告されていることで、中国から世界各地への感染被害拡大が進んでいるとの警戒感が広がっている。

21日、新型コロナウイルスへの対応でサウジアラビアとロシアとの間に意見対立があり、OPECとロシアの協調関係が終わる可能性を報じている。

サウジアラビアとロシアの協力関係は、中東における米国のプレゼンスが低下しているここ数年、石油政策のみならず政治、経済、軍事と広範囲にわたっており強化されている。このため、簡単に石油政策における協調関係が破綻になる可能性は低いが、来週にかけてのロシアの動向は極めて大きな意味を持つことになる。

新型コロナで原油価格が今年最安値を更新、本格化する産油国の調整

中国における新規感染者数の増加ペースが鈍化する中、2月中旬は新型コロナウイルスの感染被害が徐々に終息に向かい、世界経済も段階的に正常化に向かうとの期待感が強くなっていた。




2020/2/25 

イランで新型肺炎死者12人に 中東で突出、周辺国警戒

イランで新型コロナウイルスによる肺炎の感染が広がっている。イラン保健省によると死者数は24日までに12人に達し、公表数でみると中東で突出した感染国になっている。中東の周辺国に感染が拡大する恐れがあり、トルコなどの隣国は警戒を強めている。

イランで感染が確認された件数は60件程度。しかし、コロナウイルスの致死率は2%強とされることから、死者数から逆算すると、もっと多くの感染者がいるという推計も成り立つ。関係者によると、国際機関からイランが受け取ったウイルスの検査キットは数百人分程度。検査の体制づくりが間に合っていない恐れがある。

イラン政府は感染が確認された地域で学校や大学を休みとするよう命じた。企業は自主的に会議を中止し、文化イベントやサッカーの試合なども延期や取りやめが相次いでいる。

感染による死者が最初に確認されたのはイスラム教シーア派聖地のコム。今のところ感染者のほとんどがコムの住人やコムを訪れたイラン人だ。

バーレーンやオマーンなどでは24日までにイランを旅行したとみられる人の感染が確認されており、イラン周辺国での感染が広がっている可能性がある。

イランの隣国トルコは23日、イランからの航空機の受け入れを停止すると発表した。イラクは20日、イラン人の入国を禁止するとした。イラク航空はイラン便の運航を停止した。

イランの首都テヘランのバザール(市場)やレストランは人影がまばらだ。商店で売られるマスクの値段は10倍に跳ね上がった。イランは3月下旬からノウルーズ(新年の休暇)に入る。通常は旅行業界にとっての繁忙期で、感染拡大による旅行自粛の動きは大きな打撃になる。米国の制裁で打撃を受ける経済に、一段の下押し圧力が加わる可能性がある。















コロナ禍と中国の海洋進出で崩れる秩序 急速に高まる原油輸送の地政学リスク

30年前の1990年8月2日は、湾岸危機(イラクがクウエートに侵攻し、併合した事件)が勃発した日である。当時の米国が世界に見せつけた軍事力や影響力は既に見る影もなく、中東地域の秩序の担い手が今、不在となりつつある。米国でシェール革命が起きたものの、湾岸産油国は世界の原油供給の主要な担い手のままの地位にいる。だが昨今のコロナ禍による原油需要の急落で深刻な財政赤字に苦しむ。中国の南シナ海への海洋進出も絡み、変わっていく原油輸送の地政学的リスクを、今後に向け整理する。


 混沌のイラク、イラン、UAE

 湾岸危機の主犯だったイラクの国内状況は、現在も混沌としたままで、最近の原油安によりサウジアラビア以上に痛手を被っている。公務員給与の遅配が発生し、バグダッドなどではコロナ禍にもかかわらず反政府運動が再び激化しつつある。消滅したとされるイスラム国の残党たちのテロも頻発している。

アラブ首長国連邦(UAE)では8月1日、アラブ諸国として初めて原子力発電の商業運転が開始されたが、「イエメンのシーア派反政府武装組織フーシの攻撃目標になる」との懸念が生じている

 米国との対立が激化するイランは7月28日、ペルシャ湾へ通じる要路であるホルムズ海峡で米海軍空母の模型を含む複数の偽装の標的に打撃を加える軍事演習を実施した。

 マラッカ海峡をめぐる緊張

 ホルムズ海峡と言えば、その封鎖は日本の原油輸送にとって長年の「悪夢」だった。今、原油輸送を巡る地政学リスクはもはやホルムズ海峡にとどまらなくなっている。

 「中国との軍事的緊張が高まれば、マラッカ海峡の封鎖を検討すべきである」

 このように主張するのはインド海軍の専門家である。インドネシアとマレーシア間を通るマラッカ海峡は、アジア地域への物質輸送の大動脈である。日量1600万バレル(日本の1日当りの原油需要の4倍)の原油が、日本、中国、台湾、韓国などに輸送されているが、インド海軍がマラッカ海峡の封鎖を検討している背景には中国との対立激化がある。

南シナ海での米海兵隊第31海兵遠征部隊の訓練=4月(米軍提供)

 6月15日、標高約4200メートルのヒマラヤ山脈の国境沿いのラダック地方ガルワン渓谷で中印両軍による衝突が生じ、45年ぶりに死者が発生したが、インドと中国の対立は海洋にまで及んでいる。7月上旬、中国はイランとの間で4000億ドルの資金援助の見返りに、ペルシャ湾上のキーシュ島を25年間借り受けることで合意した。海上でも「一帯一路」を進める中国が、ペルシャ湾内に軍事拠点が確保できれば、インド洋からペルシャ湾にかけての中国海軍の展開能力が飛躍的に高まることになる。「インド洋の支配権を中国に握られる」と危機感を募らせたインド海軍が、インド洋のアンダマン、ニコバル両諸島を起点としたマラッカ海峡風作戦を立案し始めたというわけである。

 米中対立激化で消える海の平和

 南シナ海も「平和な海」でなくなりつつある。

 米国はこれまで経済的利益のために中国の「蛮行」に目をつぶってきたが、コロナ禍を契機に「堪忍袋の緒」が切れてしまった感が強い。ポンペイオ国務長官は7月13日、「南シナ海の大半の地域にまたがる中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」とする異例の声明を出した。

 さらに米国政府は7月24日、米国の知的財産権と米国民の個人情報を守るため、テキサスヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。「中国が領有権を主張する南シナ海の沖合でベトナムと油田開発を進めているエクソン・モービルへの妨害工作の中心人物が、ヒューストン中国総領事館で勤務していたことが関係していた」との見方が浮上している(7月24日付米FOXニュース)。南シナ海を巡る米中間のつばぜり合いは既に生じていた可能性がある。

 中国では「米国が南シナ海で中国が領有権を主張する暗礁などを奇襲攻撃して爆破する可能性がある」とする懸念も出ており、急速に強まった米中間の緊張が、武力紛争にまでエスカレートする可能性が高まっているのである。  このように、石油危機の震源地は、ホルムズ海峡だけではなく、インド洋からマラッカ海峡、さらには南シナ海にまで広がってしまったのである。

 日本のエネルギー安全保障は、「世界の警察官」である米軍がホルムズ海峡の安全な航行を保障するとの前提で築かれてきたが、今やゼロベースから再検討される時期に来ているのではないだろうか。




レバノン大規模爆発~背景にある政治指導層の無策


レバノンの首都で爆発、死傷者は5000人超に

中東レバノンの首都ベイルートの地元メディアは、現地8月4日夕方に起きた大規模な連続爆発事件について、死者は135人以上、負傷者は5000人以上になったと報じている。

首都ベイルートでは広範囲にわたる被害が判明して来たということです。

イランは中国との関係が近いこともあって、早い段階からコロナが入って来ていたのです。しかし総選挙が近く、コロナが拡がったとなると投票率が下がりますから、政府はそれを黙っていました。それもあって感染が拡大してしまい、やはり国民の間で、政府は何をやっているのだと批判が出ています。




なりふり構わず「新型コロナのニセ情報」を撒き散らすロシア
8/2(日) 

パンデミックに乗じてアメリカを苦しめたい

世界ではいまだ新型コロナウイルス感染症に対する警戒状態が続いている。

だが未知のウイルスの実態とその対策方法は議論され、例えば、世界中でマスクをする人々の姿が見られるようになった。ワクチン開発も続けられており、世界では今、140を超えるワクチン開発プロジェクトが進行中だ。

感染拡大の初期に比べ、私たちにはウイルスに関する知識が随分身についただろう。だが一方で、いい加減な情報を意図的にばら撒いている勢力もある。そのひとつが、ロシアのスパイ機関だ。

「ロシアの情報機関が、3つの英字ウェブサイトを使って新型コロナウイルスに関する偽りの情報を拡散させている。その目的は、11月の米大統領選挙を前に、アメリカが封じ込めに苦慮している新型コロナ危機につけ込むことだ」

そう米「AP通信」は報じている。

記事はハッキリとその3つのサイトを名指しし、こう説明していた。

「これらのサイトで、ロシア情報機関は喧伝したい方向性の記事をマネーロンダリングのように複雑かつ巧妙にばら撒いている。記事は親ロシア路線で、非常に上手い英語で書かれている。情報の正当性を高めるべく、他のニュースサイトなどに転用しながら、記事のソース(出元)が分からないようにしている」

どんな記事があるかというと、例えば「コロナ禍でニューヨークの市街地が犯罪地域のような混乱状態なっている」と報じるものや、民主党の大統領選指名候補、ジョー・バイデン前副大統領を貶めるような内容の記事が確認されている。同様の記事が150本にも上っているという。

これらサイトでは新型コロナ関連だけでなく、米政治や国際情勢のニュースなども扱っていた。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」によれば、ロシア軍の諜報機関であるGRUが、これらのサイトを使って「新型コロナウイルスは米軍によって作られたものである、という中国政府の偽情報を拡散させている」という。また「ロシアがアメリカに医学的な支援をしているため、米政府との間で緊張が緩和されている」といった嘘の記事もある。

ロシアによる偽情報や、フェイクニュースを使った情報操作工作は、2016年米大統領選で大きな問題になっていた。記事によれば、「今はこれまで以上に、ロシアが拡散したい情報をばら撒く活動を、同国の諜報機関が中心になって担っている」という。最近になってアメリカの情報機関が機密を解除したため、米政府高官らは改めてロシアの動向の詳細について警鐘を鳴らし始めている。

実はこうした報道の前に、アメリカの防諜組織トップも11月の米大統領戦を見据え、他国からの偽情報工作について苦言を呈していた。

米ニュースサイト「アクシオス」は、米国家防諜安全保障センター(NCSC)ディレクターのウィリアム・エバニの言葉をこう報じている。

「ロシアは執拗にアメリカを弱体化させ、この国の世界的な地位を貶めようとしている。またインターネットを使った荒らし行為や、その他の手段で、民主的なプロセスの信頼性に傷をつけ、アメリカの反ロシア『組織』を悪く見せようとしている」

同記事によれば、偽情報などでアメリカを攻撃しているのはロシアだけでなく「中国やイランも同じようなことをしているとエバニは指摘している」という。

先の「ニューヨーク・タイムズ」の記事によれば、有名な米サイバーセキュリティ企業「マンディアント」もロシアの活動を把握している。

「マンディアントは、こうした工作を行う脅威グループを『ゴーストライター』と名付けている。そして彼らは、偽情報を報じる記事や、現地の政治家や軍高官から得たかのように見せて捏造した文書・引用文を駆使している、と分析している。しかも、この偽情報キャンペーンの首謀者らによって作りあげられた約14人の『架空の人たち(記者やブログライター)』によって書かれたかのように見せているという」

実はロシアによるサイバー空間での攻撃は、偽情報による情報操作だけではない。

米TV「CBSニュース」によれば、「ロシア政府系のハッカーたちが電子メールなどのソフトウェアにおける深刻な欠陥を突いて攻撃している、とNSA(米国家安全保障局)が非常に珍しい警告を出した」という。大統領選に向け、アメリカの様々な機関が多方面に注意を促しているということだろう。

ロシアは新型コロナのワクチン開発を狙ってイギリスにもサイバー攻撃を仕掛けているとクーリエ・ジャポンでも指摘しているが、その活動は想像以上に広範囲に及んでいるということだ。




香港「金融制裁」で激化する「ファイブ・アイズ」vs.「一帯一路」経済圏攻防
7/31(金) 

「予想より厳しい内容」(欧州大手銀行幹部)

「こんなに早く制裁法ができるとは思わなかった」(米上院スタッフ)

 そんな驚きを呼んでいるのが、米国の対中金融制裁法「香港自治法」である。米中関係のプロたちの反応からは、先端技術に加えて、通貨の面でも米中切り離し(デカップリング)が急速に進むのではないか、という憶測が浮上する。

 香港自治法は7月14日にドナルド・トランプ米大統領が署名し、成立した。しかし、この法ができあがった背景やもたらす意味は、まだ十分理解されていない。あらためて法の成立の裏舞台や今後予想されるインパクトを考えてみたい。


■国際企業への死刑宣告

 香港自治法は2つの段階からなる。第1段階は、「一国二制度」で認められた香港の自由や自治を侵害した人物や団体に制裁を科すこと。第2段階は、そうした個人法人と取引がある金融機関を、米ドルの決済システムから締め出す、というものだ。

 個人や団体への制裁は、米国入国ビザの発給停止と、米国内にある資産の凍結である。これは米国と敵対する国の指導者や高官、軍関係者に対するよくある制裁であり、国務省が90日以内に制裁対象者リストをつくる。中国政府幹部は米国に不動産などの資産を持ち、子女を米国に留学させているから、これだけでも発動されれば痛いはずだ。

 香港に対する強硬措置を指揮してきた韓正副首相(香港担当)、香港政府トップの林鄭月娥行政長官、クリス・タン香港警察処長らが国務省リスト案に入っていると報じられた。もちろん香港政策のトップは習近平国家主席だが、それは米国による本格的な宣戦布告となるから、まだ入っていない。

 さて問題は、金融機関をドル決済から締め出す第2段階の制裁だ。

 国務省が制裁対象者リストを最終作成した後30日から60日以内に、財務省が制裁対象者と「かなりの額の送金」業務を行った金融機関を、制裁対象と決める。

 その制裁内容だが、米金融機関からの融資・米国債の入札・外国為替取引・貿易決済の禁止、資産の移動禁止、商品・ソフトウエア・技術の輸出制限、幹部の国外追放――などである。特に外国為替取引、貿易決済の禁止はドル決済を禁じるものであり、ドル金融システムからの追放を意味する。

 ドル決済は、ニューヨーク連邦準備銀行など米国の金融機関を通過することから米国の管轄権の下にあるため、どこの国の銀行であろうとも、米法の適用を受ける。

 だからドル決済の禁止は、基軸通貨ドルが持つ力をフルに発揮した制裁だ。しかもドル決済は依然世界の貿易・投資の大半を占めるから、その禁止は国際企業にとって「死刑宣告」でもある。

 こうしたドル制裁を米国は、北朝鮮、イランやベネズエラなどに対して発動してきたが、中国のような世界第2の経済大国の取引に関連して発動するのは初めてだ。米国が中国に対して、「ルビコンの川」を渡ったことがよくわかる。


■究極の踏み絵を迫る

 香港自治法が定める金融制裁には注意点がいくつかある。

 まずは制裁対象となるのが、米中だけでなく日本を含めて世界中の金融機関であることだ。香港はアジアの金融センターであり中国マネーの窓口だから、名の知れた銀行は事業を展開している。

 このためこの法が議会を通過した7月2日以降これらの銀行は、顧客の中に制裁対象、つまり香港の民主化運動を弾圧した当事者がいるかどうか、いる場合には預金や送金などのビジネスを打ち切るべきかの検討を始めた。

 制裁対象者が家族の名前や代理人を使って銀行に預金を持っている可能性もあるから、疑惑の完全払拭は気の遠くなるような作業となる。この洗い出し作業は、日本の金融機関も例外なく進めなければならない。

 かつて『ニューヨーク・タイムズ』は、温家宝前首相一族による27億ドルの蓄財を報じたことがあるが、預け先は中国の銀行だけでなく外国の金融機関の場合も多い。

 洗い出し作業を怠ると、そのツケは途方もない。

 かつてイランに送金業務を行った欧州最大手「BNPパリバ銀行」が米制裁法違反をとがめられ、89億7360万ドルもの罰金を米国に支払った。ほかにも英「スタンダードチャータード」が16億7900万ドル、英「HSBC」が19億ドルなど、法外な罰金や和解金を米当局に支払っている。日本のメガバンクも摘発され、巨額を支払った。

 次に、制裁が米国の恣意性を帯びる点だ。

 香港自治法が問題視する「かなりの額の送金」とは、どれほどの金額だろうか。米財務省の金融制裁担当部署である外国資産管理室(OFAC)は、「かなりの額の送金」について、量、頻度、性格、銀行幹部が知っていたかどうか、制裁逃れを狙った隠蔽性があるかどうかなどで判断するという。だがどれも抽象的な表現であり、米政府のさじ加減次第となる。

 3つ目の注意点は、米国の香港自治法と中国が6月30日に施行した香港国家安全維持法の両法を守る事業展開が不可能である、という点だ。

 米国の制裁を回避するために中国当局者との金融取引を停止すれば、それは香港国家安全維持法が禁止する「外国勢力との結託」による反中国行為となってしまい、今度は中国当局に訴追される。

 米国の香港自治法も中国の香港国家安全維持法も、違反すれば外国人であっても罰すると定めている。ということは、金融機関は香港や中国ビジネスから撤退するか、あるいはドル決済システムからの締め出しを覚悟して中国と取引を続けるという、究極の踏み絵を迫られることになるのだ。


■議会に尻を叩かれた大統領

 4点目は予想より早い制定であることだ。

 米議会は昨年11月、香港の民主化運動弾圧の当局者に資産凍結の制裁を科す「香港人権・民主主義法」を成立させた。

 だが、中国による国家安全維持法が予想より早く施行され、中国の強硬姿勢が露わになったことから、米国も金融制裁という強力な武器を急いで使わざるを得なくなった。

 今後は、いつ第1段階の個人・団体に対する制裁、そして第2段階の金融機関に対する制裁が始まるかが焦点となるが、米国の制裁専門家は「予想より早いだろう」と見る。

 参考になるのは、米国のウイグル人権法による制裁発動だ。

 ウイグル人権法は、中国が新疆ウイグル自治区で100万人以上のイスラム教徒を強制収容するなどの人権弾圧を行っているとして、資産凍結や米国入国拒否の制裁を定めたものだ。

 この法律は今年5月末に議会を通過、6月17日にトランプ大統領が署名し成立した。その3週間後の7月9日には、自治区トップの陳全国共産党委員会書記らに対し制裁を発動している。スピード感がある。

 香港では9月に、議会である立法会の選挙がある。民主派の候補者はあらかじめ立候補資格を認められない可能性があり、その時が制裁発動の1つのタイミングであろう。

 また11月3日の大統領選を前に、トランプ大統領は新型コロナ被害に憤る米国民にアピールするためにも、対中強硬策に踏み切る必要がある。11月までには制裁が発動される可能性があるとみておいた方がよさそうだ。

 そして5点目は、議会が主導したことだ。提案者のクリス・バンホーレン上院議員は、

「ホワイトハウスは香港問題に極めて生ぬるいのでこの法をつくった」

 と述べている。

 ジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当補佐官が回顧録で明らかにしたように、トランプ大統領は香港のデモについて「私は関わりたくない」と述べ、関心は薄かった。このため、議会がホワイトハウスの尻を叩くために立ち上がったという構図だ。

 香港自治法は、上下両院とも全会一致で可決し、議会の総意としてつくった法だ。条文には、大統領が制裁見送りを決めても議会が3分の2の賛成で決議を可決すれば、見送り決定は覆されるとある。また、国務省リストに1年間、財務省リストに2年間掲載されれば、制裁が自動的に科される。

 こうした法の厳格さを見れば、トランプ大統領が再選に失敗し、ジョー・バイデン政権が誕生しても、中国に対する金融制裁などの強硬策は変わらないと覚悟すべきだろう。


■ウイン・ウイン通用せず

 ここ数カ月の米国による対中政策は、異なる次元に入った。

 7月13日にはマイク・ポンペオ米国務長官が、中国の南シナ海での行動を「完全に違法」と踏み込んで宣言し、ベトナム、フィリピンなどの肩を持った。米国は、南シナ海の軍事拠点化を進める中国を批判しつつも、領有権については特定の立場を取らずに当事者間の話し合いでの解決を主張してきたが、それを転換したのだ。中国が「譲れない核心的利益」とする南シナ海での主権を明確に切り捨てたのだから、中国は猛反発だ。

 ほかにも習近平主席への「全体主義の信奉者」との個人攻撃、ヒューストンにある中国領事館閉鎖命令などで、中南海の神経を逆なでしている。「華為技術(ファーウェイ)」包囲網もさらに締め上げている。昨年5月に同社を安全保障上のブラックリストであるエンティティー・リストに指定した米商務省は、1年後の今年5月15日には、米国由来の半導体技術を外国企業がファーウェイに輸出することも禁止した。

 8月からは国防権限法に基づき、ファーウェイや「ZTE」、「ハイクビジョン」など5社と取引がある外国企業を米政府調達から締め出すことが始まる。

 米国は同盟国への圧力も強め、英国がファーウェイの排除を決めるなど、米英カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」+日本・インドの連携で、中国先端技術企業をデカップル(切り離し)する動きが着々と進んでいる。

 もちろんグローバル経済の中で米中デカップルなど果たして可能か、といった疑問がわく。またドイツやロシアなど大陸欧州の実力国家は米国に同調しないだろう。

 しかし、今年5月に発表された米国家安全保障会議(NSC)の戦略文書「米国の対中戦略アプローチ」は、米中関係を「体制間競争」と定義している。これは経済、軍事、技術などだけでなく、政治体制(民主主義か強権主義か)や価値観を含む全面的な対立に米国がゲームを格上げしたことを意味する。香港やウイグル問題など、中国の内政問題を正面から取り上げる理由はそこにある。

 こうなると、中国が好んできた「ウイン・ウイン」、つまり両者の主張の真ん中で決着させるというルールは通用しない。「デカップルはあり得ない」といった国際経済の常識が通用しない時代であるとの認識が必要になる。


■「米中」2つの経済圏

 制裁は、いったん始まると解除が難しい。中国は香港をかつてのような自由都市に戻すことなどしないだろう。そうなると米国の対中制裁は半永久的に続くことになる。中国も米国の対中強硬派議員らに制裁を科しており、米中の制裁合戦は終わりそうにない。 

 中国も半導体技術の国産化やデジタル人民元の導入準備の本格化など、米国による先端技術やドル制裁に備えている。それはファイブ・アイズを中心とする米国の海洋国家圏域に対して、中国はユーラシア大陸に広がる「一帯一路」を圏域にする動きと平仄が合う。そうなると、ドルを基軸とする米経済圏と人民元の中国経済圏ができあがることになる。

 米国の金融制裁が、そんな近未来の秩序づくりのキックオフとなるかもしれない。




領事館閉鎖は序の口、バイデン政権が狙う中国潰し
7/27(月) 6:01配信

JBpress
学生ビザで米国入国していたタン容疑者(中国人スパイ)

■ 米中の「カブキ・プレー」とは

 中国の習近平政権は7月27日、四川省成都の米総領事館(総領事以下現地雇い中国人を含むと200人)を閉鎖、米外交官を国外追放した。

 米国のドナルド・トランプ政権によるテキサス州ヒューストン総領事館(総領事以下60人)閉鎖に対する対抗措置だ。

 米政府高官によると、同総領事館は米国の知的財産を窃取する一大拠点。

 同総領事館の幹部は、学生や研究員という肩書を隠れ蓑に米国の学術機関に入り込んでいる中国人スパイに具体的な指示を出し、情報収集活動を支援していたという。

 また米国に「亡命」している中国の反体制民主派活動家を本国送還させるタスクフォースの滞在拠点にもなっていたという。

 ヒューストンの地元メディアによると、閉鎖命令が出された直後、領事館の裏庭ではドラム缶に大量の文書が投げ込まれ、領事館員が焼却しているのを隣人が目撃。

 黒煙が立ち込めたため市の消防隊が出動したが、外交特権を行使して館内には入れさせなかった。

 いずれにせよ、米中の在外公館閉鎖の応酬は、ヒューストンと成都といったローカルな話でとどまりそうにない。少なくとも米大統領選の行われる11月3日まではさらに強まりそうな雲行きになってきた。

 トランプ大統領は、次の手としてサンフランシスコ総領事館閉鎖を考えており、これに対し、習近平主席は米国の香港総領事館閉鎖を検討しているとの憶測も出ている。

 中国が米国の学術機関や民間企業が開発している先端技術情報、いわゆる米国にとっての知的財産を盗み出そうとするスパイ活動は今に始まったことではない。

 それは諜報員を使ったものもあればサイバー攻撃によるものもある。

 また中国だけがそうした窃取活動をしているわけでもない。

 特にサイバー攻撃は中国以外、ロシアやイラン、北朝鮮といった「敵対国」も活発だ。さらにはイスラエルなど米国の同盟国も先端技術情報を盗み出そうと必死だ。

 米国もこれら諸国にスパイを送り込み、同様の諜報活動を行っている

スパイ活動は送り出した国にとっては「愛国者」であり、「英雄」だ。米中メディアも今回の在外公館閉鎖を大きく報道している。

 米サイドは、トランプ大統領をはじめマイク・ポンペオ国務長官、ロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ビル・バー司法長官、クリストファー・レイ米連邦捜査局(FBI)長官が相次いでこの件について公の場で言及し、中国の窃取活動を激しく非難している。

 だが、中国やロシアによる米国内での諜報活動はこれまでにも摘発され、外交官が国外追放になったケースは少なからずある。

 みな穏便かつ冷静に行われ、処理後は何事もなかったかのように外交関係は続けられてきた。

 中国の蔡偉ヒューストン総領事が指摘するように「国際法と国際関係の基本的なルールに違反して」在米中国公館を閉鎖するのは異例だ。

 しかも大統領自らがこれを命じたことを公言するのも例がない。

■ 中国と「小さな戦争」望むトランプ支持層

 いったいトランプ政権内部で何が起こっているのか。

 北京の米国大使館に勤務したこともある国務省の元高官は今回の事件をこう見ている。

 「ポンペオ国務長官が7月23日にカリフォルニア州ヨーバリンダのニクソン記念図書館で行った演説を読めば分かることが一つある」

 「ポンペオ長官はこう言っている。『もし我々が中国に跪けば、これからの世代、我々の子供たちの子供たちは中国共産党のご慈悲の下で加護を受けることになる』」

 「知的財産窃取から南シナ海での軍事示唆活動に至るまで、中国の独善的な行為について米国民は苛立たしく思っている。それは労働者層、ビジネス界、エリート層に共通している」

 「ピュー・リサーチ・センターの世論調査でも中国が米国にとって『最大の敵』と答える米国民は62%に上っている」

 「新型コロナウイルス感染症発生以後、こうした傾向はますます強まっているようだ」

 「それを今、トランプ政権は徹底的に批判し、積極的に中国に是正を求めている、というジェスチャーは大統領選には効き目がある」

 (https://www.state.gov/communist-china-and-the-free-worlds-future/)

 今回の事件はトランプ大統領が打ち出した新たな選挙キャンペーン的要素がある。

 「米国内、特にトランプ支持層には中国との(大規模な戦争ではなく、限定されたいざこざといった意味の)『スモール・ウォー(小さな戦争、小競り合い)』を望む者が少なくない」

「反中は、彼が食らいつきたいくなる『レッド・ミート』*1
だからだ」 *1=調理前の赤みががかった肉。そこから望んでいる政策や主張を意味している。

 「新型コロナウイルス感染症対応のまずさ、白人警官による黒人男性殺害事件以後の『ブラック・ライブズ・マター』運動、デモ鎮圧措置など、トランプ氏は何をやってもうまくいかない」

 「支持率は降下、目玉商品だった経済も低迷と、大統領選に向けて明るい材料はゼロ」

 「そこでこのタイミングで、米世論の反中ムードに乗っかる形で中国に対する強硬姿勢を見せたわけだ」

 「中国による知的財産窃取問題はトランプ政権発足以前からあり米中首脳会談でも何度も取り上げられた懸案だ。今急にこうなったわけでもない」

「米中外交当局はそんなことは先刻承知。目下のところは総領事館閉鎖の応酬でメディアは騒いでいるが、外交当局者がやっているのは『カブキ・プレー』*
2
だ」 「問題なのはその『カブキ・プレー』、が実際の米中外交関係にインパクトを与え始めていることだ」

 *2=米政治用語で「言い争っている双方がともに落としどころは分かっていながら世論向けにはあたかも対立しているかのように見せる政治交渉」という意味。

 もう一人、バラク・オバマ政権下で東アジア太平洋担当の国務次官補を務めたダニエル・ラッセル氏(現在アジア協会政策研究所副会長)も同じような見方をしている。

 「ヒューストン総領事館の閉鎖は、米中間の間で存在している外交チャンネルをさらに減らすことになり、その修復は極めて困難になってくるだろう」

 「中国サイドは今回のトランプ大統領の決定は、知的財産問題そのものよりも大統領選挙に関係がある、と言っている」

 「この指摘に反論するのは極めて難しいのではないだろうか」

■ ソフト・ターゲット狙った中国人スパイ

 米メディアは保守系ウォールストリート・ジャーナルはじめワシントン・エグザミナーなどは中国の知的財産窃取事件を大々的に報道している。

 ウォールストリート・ジャーナル(7月25日付)は、新たにシンガポール国籍の中国人、ジュン・ウェイ・ヤオ容疑者が中国の諜報機関に雇われて米国務省に勤務する米国人や民間人から極秘情報を入手していた容疑で逮捕、起訴したと報じている。

 検察の訴状によれば、ヤオ容疑者は国務省職員に謝礼を出して定期的にリポートを書かせ、そのうち特定の質問に答えさせる方式で情報を入手していたという。

 同容疑者は司法省当局に対し、容疑を認めているという。

 入手した情報には中国軍が欲しがる多用途性ステルス戦闘機「F-35B」に関する極秘情報もあったという。

 「ヒューストン総領事館の知的財産窃盗事件とは直接関係ないが、中国諜報機関は外国籍の中国人のネットワークを通じて『ソフト・ターゲット』(=Soft Target、狙いやすいカモ)を標的にして情報収集をわが裏庭でやっていた」(ウォールストリート・ジャーナル)

 (https://www.wsj.com/articles/china-operative-pleads-guilty-to-spying-in-u-s-11595629687)

 米メディアがここにきて集中的に報じている中国のスパイ事件は以下の通りだ。

●2019年12月、ボストン国際空港から中国に向かおうとしていた中国人研究員、ツァオ・ソン・ツェン容疑者が新型コロナウイルス関連の生態研究用試料ビン21本を持ち出そうとしていたことが判明、その場で逮捕された。

 ●2020年1月にはボストン大学留学中の中国人学生、ヤン・クイン・イエ、6月にはスタンフォード大学留学中のソン・チェン、カリフォルニア大学デービス校留学中だったタン・ジュアン(女性)をそれぞれビザ申請虚偽申告容疑で逮捕した。

 3人とも入国した際には学生・学術ビザで留学していたが、実際には中国軍直轄の空軍軍事医学大学などに籍を置く現職軍人(諜報部員とみられる)だったことが判明したためだ。

 タン容疑者は司法当局の尋問を受けた直後、サンフランシスコの中国総領事館に逃げ込んだが、その後逮捕された。

 むろん、この容疑はあくまでも別件逮捕。スパイ網解明が主目的と見られる。

 ●米国に2009年から居住していたリ・シャオユ、ドン・ジャジイの2人の中国人スパイが中国国家安全部に指示され、テキサス、マサチューセッツ、バージニア州などのエンジニアリング・テクノロジー企業など25社をハッキングしていた容疑で逮捕状が出された。

 2人はすでに出国し、中国に帰国した模様だ。

 2人は、新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発情報をはじめ軍事衛星関連などの極秘情報を中国に送っていたことが発覚している。

 新型コロナウイルス発生後は、中国が米国の特効薬やワクチン開発に関する情報を欲しがっていたことが浮き彫りになっている。

■ 「バイデン対中外交」の青写真

 トランプ大統領の有権者に対するメッセージは一つ。

 「中国をここまで傲慢にさせたのは、バラク・オバマ政権と民主党だ」

 「なぜこれほど米国の財産である先端技術情報を中国が盗むのを手をこまぬいて見逃していたのか」

 「しかもコロナ禍発生以後、中国人民解放軍直轄の諜報機関が米国が開発中のコロナ特効薬やワクチンに関する情報を盗もうとしている」

 「中国の野望に立ち向かえるのはトランプ大統領を再選させる以外にない」

 オバマ政権が中国によるスパイ活動阻止に無関心であったわけではない。ところが当時は中国側も米国によるサイバー攻撃があると反論、そうした事例も明るみに出ていた。

 結局、2015年9月の米中首脳会談では、商業利益を得ることを目的としたサイバー攻撃を行わないことで合意、そのための新たな対話メカニズムを創設することでお茶を濁した経緯がある。

 それから5年。中国はスパイ投入とサイバー攻撃の両面から米国の知的財産窃取活動を活発化させてきたのだ。

 (https://www.politico.com/story/2017/11/08/trump-obama-china-hacking-deal-244658)

 米中関係の現状を踏まえれば、ジョー・バイデン前副大統領が次期大統領になっても中国のスパイ活動に厳しい対応をとることは必至だ。

 問題はトランプ政権の手法とは大きく異なることだろう。

 バイデン政権は、米国内に入り込んでいる中国人スパイを摘発・逮捕するのではなく、むしろサイバー攻撃による知的財産窃取活動への対応強化を図るのではないだろうか。

 それを暗示する報告書がこのほど明らかになった。

 米上院外交委員会の民主党委員長格のロバート・メネンデス議員(ニュージャージー州選出、2013年~15年外交委員長)が同委員会の民主党系スタッフに委託して調査し、作成した中国のサイバー攻撃に関する報告書*
3
が21日公表されたのだ。


南米ボリビアでも米中覇権争い激化へ
7/2(木) 



・ボリビア、不正選挙の疑いで大統領辞任、混乱の余波が続く。

・中、ボリビアとの関係を強化。米、暫定政権を支持。

・暫定大統領と前大統領派の政党との対立が先鋭化。

モラレス前大統領

政情不安が続く南米ボリビアをめぐり影響力拡大を目指す米国と中国の覇権争いが活発化する気配だ。

■ 昨秋の大統領選混乱の余波続く

ボリビアは人口約1100万人で、そのうち先住民が半分近くを占める。先住民は極めて貧しく、かつて同国は南米の最貧国とも呼ばれていた。だが2006年、先住民として初めてエボ・モラレス氏が大統領に就任、社会構造の抜本的改革に乗り出す。外国企業が保有していた天然ガス権益の国有化によって得た財源を貧に分配するなどした結果、極貧困層の割合は38%から15%へと大幅に減少、一人当たりの国内総生産(GDP)も約3倍に増大した。だが、2019年までのモラレス長期政権下で専横的政治手法が目立つようになる。昨年10月の大統領選では、いったんはモラレス氏再選と発表されたものの、米州機構(OAS)監視団の調査から「不正選挙」の疑いが浮上。国内で大規模な抗議行動が展開される中、モラレス氏は大統領辞任を表明、海外亡命に追い込まれた。その後、暫定政権が発足するも、昨年の大統領選混乱の余波が続いている。

■ 前政権下で中国の影響力増大

こうしたボリビア国情の変化が、同国を舞台とする米中の“覇権争い”に反映される。モラレス前政権は反米左翼路線を進め、駐ボリビア米国大使を国外追放、米国との関係が悪化。中国はそこに乗じる形でボリビアとの関係を強化。モラレス前政権との間で経済技術協力協定を結び、積極的に経済支援を行い、ボリビアのインフラ開発・整備には大量の資金を提供した。2018年には両国の戦略的パートナーシップ確立と「一帯一路」へのボリビアの協力をうたった共同声明が発表された。中国の支援の背景にはボリビアの豊富な鉱物資源獲得という狙いがあったというのが、多くの中南米専門家の一致した見方だ。特にリチウムはボリビアが世界有数の埋蔵量を保有しており、中国にとって同国支援の大きな要因になったことは想像に難くない。

南米ボリビアでも米中覇権争い激化へ
7/2(木) 23:01配信

Japan In-depth
アニェス暫定大統領 出典:Wikimedia Commons; Noticias Al Dia

■ トランプ政権は“反転攻勢”へ

一方、米国は「裏庭」ともいえる南米の一角に中国の影響力が増大することに神経をとがらせる。トランプ政権は昨秋のボリビア政変を“反転攻勢”への好機と捉えたようだ。トランプ大統領は、モラレス氏失脚後にボリビアで発足した保守系右派のアニェス暫定政権を「平和的かつ民主的な政権移行を目指している」とし、支持する方針を表明した。ボリビアの外交政策は暫定政権の発足後に急転回。対米関係が大幅改善に向かう一方、キューバとの外交関係停止、在イランおよびニカラグアのボリビア大使館の閉鎖が相次いで発表された。在ボリビア外交筋は「トランプ政権がボリビア暫定政権に対し支援の約束と引き換えに、対キューバ関係断絶などを求めた可能性が十分」と語る。現在、アルゼンチンに亡命中のモラレス前大統領は昨年の母国の政変に関し、「米国の政治・経済的圧力によって引き起こされたクーデター」とし、トランプ政権の陰謀説を主張している。ニューヨーク・タイムズ紙は先ごろ、モラレス前大統領失脚の引き金となった米州機構(OAS)監視団の「選挙不正」発表では、欠陥データが使われたとの専門家の見解を紹介した。この報道を受け中南米の専門家の間では「OASが米国主導の国際機関であることを考えれば、昨年のボリビア大統領選でモラレス氏が不正を行ったというOASの見解は信頼性に疑いがあり、同氏失脚の背後で米国が動いた可能性は否定できない」(ペルー・カトリカ大政治学者)との声も聞かれる。

■ やり直し選挙に向け緊張増す

ボリビアでは、昨秋の大統領選のやり直し選挙が当初、5月に予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で延期となった。やり直し大統領選の実施時期に関しアニェス暫定大統領とモラレス前大統領派の政党「社会主義運動」(MAS)などとの間で対立が先鋭化。同暫定大統領は「新型コロナ禍で選挙を実施することは国民の生命と健康を危険にさらす」と、早期実施に反対。これに対しMASは「アニェス氏は新型コロナを口実に権力維持を画策している」とし、各地で反政府抗議行動を展開、政情不安がさらに増した。最近ようやく9月6日の実施が決まった。次期大統領選にはアニェス暫定大統領やMASのアルセ前経済相らが出馬する予定。現地メディアの情報によれば、アニェス氏が米国の強い後押しを受ける一方、対抗馬となるアルセ氏には中国がさまざまな支援を与えるのは確実だという。米中対立激化も絡んでボリビア政局の行方は一段と注目されそうだ。(了)



中露が世界各地で危険な軍事的挑発:「コロナ後」の主導権を争い、ワクチン情報も狙う
6/29(月) 6:01配信

新潮社 フォーサイト


 昨年9月末、こんな事件があった。

 米海軍特殊部隊の精鋭組織SEAL「チーム6」の本部もある東部バージニア州ノーフォークの米海軍基地。緊張感漂う基地のゲートで、夫婦連れ数人の中国人グループが車で検問を通り抜けようとした。

 これに対し警備兵は「ゲート内にいったん入ってUターンし、出て行くよう」指示した。しかし彼らは構わず基地内を前進、前から来た消防車に阻まれ、身柄を拘束された。中国人は「英語が分からなかった」と見え透いたウソをついた。米国は「外交官」を偽装した中国情報機関員1人を含む2人を国外追放した。

「知らぬふり」して、相手国の領域に侵入する中国の手法は、尖閣諸島周辺でも、南シナ海でも、中印国境でも続いてきた。

 しかし、今回は少し違う。新型コロナウイルス感染被害を受けた米空母が通常の行動から外れ、穴が開くと、中国海軍空母「遼寧」を台湾海峡近くに派遣、米軍の裏をかいたのである。中国軍は「コロナ後」をにらんで、米軍から覇権を奪取する意思を示した。

 世界の関心は新型コロナのワクチン研究開発。中国は情報を入手するためサイバースパイ活動を展開していると伝えられ、米軍「サイバー司令部」および国家安全保障局(NSA)が警戒を強めている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)で対策に追われる米国とその同盟諸国などに対し、中露などは危険な軍事的挑発を続けている。米国では、新たな「世界大戦の引き金を引くか?」(米外交誌『フォーリン・ポリシー』)といった議論が起きている。


■海兵隊トマホーク装備へ劇的展開

 日本にとって中国側からの挑発が最も懸念されるのは、東シナ海だ。

 米海軍情報部(ONI)によると、中国海軍は1990年代半ばから25年以上にわたって装備の近代化を推進。2020会計年度末の段階で、戦闘艦艇は中国が360隻で米国の297隻を大幅に超え、2025年400隻、2030年425隻と増え続ける。これに対して、米海軍は355隻体制を回復する目標を立案中だ。

 中国は2012年に初の空母「遼寧」、昨年12月には2番艦「山東」が就役、さらに建造中の3番艦は2024年までに就役の見通しで、2021年に4番艦の建造が始まる。最終的に空母は4~6艦体制になるとみられている。米国の空母保有数は11隻。太平洋への配備では、米国が3隻で、数的には中国の方が多くなる。

 さらに懸念されるのは、中国の中距離ミサイル戦力の充実だ。冷戦末期の米ソ中距離核戦力(INF)全廃条約で、米軍は射程500~5500キロの中距離ミサイルを持てず、その間中国は「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」を含め約2000基の中距離ミサイルを開発・製造、脅威を高めてきた。

 こうした中国との「ミサイル・ギャップ」を埋めるため、米国は巻き返しに出た。

 今年3月5日米上院軍事委員会で、海兵隊のデービッド・バーガー司令官が初めて明らかにしたのは、海軍を支援する形で「海兵隊がトマホークを装備する」という予想外の劇的展開だった。

 トマホークは1991年の「湾岸戦争」での対地攻撃で知られ、米海軍大型艦船からの発射が常識化していた。

 だが、今度は小型艦艇で機動力を発揮する海兵隊が、中国艦船攻撃用の「対艦ミサイル」を2023年以降装備することになった。2021年度予算で調達を開始、2022年まで実験と訓練を重ね、翌年配備の予定である。

 2021会計年度予算では1億2500万ドル(約134億円)でトマホーク48基を調達する計画。米軍はこれまで対艦ミサイルを保有していなかったが、当面中国の東風21D対艦弾道ミサイルにトマホークで対抗することになった。


■イージス・アショアより優先

『ロイター通信』によると、米軍は「日本および台湾の同様のミサイル」と組み合わせて、中国軍に脅威を与えるのが狙いという。

 日本のミサイルとは、恐らく3月26日に陸上自衛隊宮古島駐屯地に地対空ミサイルとともに配備された「12式地対艦ミサイル」のこととみられる。「12式」は射程百数十キロ、トマホークは同1600キロ超で、米国の戦略遂行上、日本が役割の分担を求められる可能性がありそうだ。

 しかし、米軍戦略当局はこれでも不十分とみて、2025年配備予定の次期空軍ステルス爆撃機B21レイダーに長距離空対艦ミサイルを搭載する予定。それに先立ち、海軍戦闘機F/A18E/Fスーパーホーネットおよび空軍B1爆撃機への対艦ミサイル搭載が既に始まっている。

 米軍は明らかに、中国艦船に対する対艦ミサイル戦力の強化によって、日本列島から台湾、フィリピンに至る「第1列島線」で中国軍の西太平洋進出を封じる戦略を優先している。さらに、今年2月フィリピンが国内で活動する米兵の法的地位を定めた「訪問軍地位協定」の破棄を一方的に通告(その後破棄を保留)、米比関係が不安定なため、日本および台湾との連係強化を図る構えのようだ。

 河野太郎防衛相は「イージス・アショア」の配備計画断念を発表した。防衛相が挙げた理由は技術とコストの問題だけだ。

 だが、同時に米国に対する政治的配慮も検討したに違いない。米国にとって最優先課題は対中国海軍戦略であることも防衛相は分かっていたはずだ。日本は今後、中国艦船に対する対艦ミサイルの強化を中心に貢献策を求められることになるとみていい。


■米空母、西太平洋で一時不在

 しかし、新たな米国の対中海軍戦略の着手とほぼ同時に、米海軍を襲ったのは、新型コロナウイルスだった。

 米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」は3月24日、乗組員3人の感染が公表され、その後も被害が拡大。同27日にグアム寄港、約4000人を下船させ、隔離した。

 結局、この空母は1000人以上の集団感染となり、約2カ月間米領グアムに停泊を続けた。かくして、米軍は3月下旬から、感染防止のため部隊の移動を停止するなど活動を制限した。米海軍感染者数は6月19日現在、2850人、米国防総省の制服および背広組に軍属を加えた感染者数全体は1万3000人を超えた。

 セオドア・ルーズベルトがグアムを出港したのは5月20日で、それまでの間西太平洋でも米空母は「一時不在」の状態だったとみられる。

 これに対応して、4月に入ると、中国海軍はさまざまな行動に出た。

 南シナ海では4月2日、中国海警局の公船が西沙(英語名パラセル)諸島付近でベトナム漁船に体当たりして沈没させた。同10日、中国空軍の戦闘機や爆撃機が台湾南西の海域上空からバシー海峡を経て西太平洋に出る訓練を実施。同11日には空母「遼寧」が沖縄本島と宮古島の間を南下し台湾付近を通過した。28日には遼寧など計6隻の艦隊が宮古島の南東約80キロの海上を北上、初めて沖縄本島―宮古島間を往復して通過した。

 この間、南シナ海から東シナ海に至る海域は事実上、中国空母の影響下にあったようだ。

 6月中旬、米海軍は空母3隻を太平洋地域に同時展開した。横須賀基地の空母「ロナルド・レーガン」とセオドア・ルーズベルトはフィリピン周辺、「ニミッツ」は太平洋東部で、「米軍の即応態勢」をあらためて誇示した形。太平洋への空母3隻配備は北朝鮮情勢が緊迫した2017年11月以来のことで、中国軍をけん制するのが狙いとみられる。しかし、一時的にせよ中国海軍艦隊を自由に遊弋(ゆうよく)させた事実は消えない。


■尖閣領海侵入は連続最多記録

 中国は日本に対しては、沖縄県・尖閣諸島周辺で海警局公船が領海侵入を繰り返している。公船の異常な動きは、領海のすぐ外側の「接続水域」入りを含めると、6月23日で連続71日を記録、2012年9月の尖閣諸島国有化以降の連続最多記録更新を続けている。

 5月8日には操業中の日本漁船を追いかけ回す事件が起き、危険回避のため操業を控える漁民が増えているという。

 海警局は2018年、中国共産党中央軍事委員会の傘下に入り、「戦時」には軍の指揮下で任務を執行することが決まった。公船の大型化と武装化が目立ち、3000トン級以上の公船が3隻同時に日本領海を侵入したことが複数回確認されている。

 将来起き得る「台湾侵攻」を想定し、海上保安庁および海上自衛隊の実力を試すのが目的で、領海侵入を繰り返している可能性がある。

 また、米軍が出動するタイミングを見極めようとしている可能性がある。米国は尖閣諸島が日本の「施政下」にあることは認めつつ、日本の「領有権」は認めていない。米海軍と海自の合同訓練は南シナ海で行うことがあっても、尖閣諸島近くでは行っておらず、米軍が有事にどう動くかは明らかではない。

 さらに中国潜水艦の動きも活発化している。鹿児島県・奄美大島北東の接続水域内で6月18日、中国海軍とみられる潜水艦1隻が潜ったまま西進した。日本領海への侵入はなく、海上警備行動は発令しなかった。中国を中心とする外国潜水艦の接続水域内の潜航が確認されたのは、2018年1月以来で8回目だ。

 中国艦船の侵入が常態化していても、防衛省は有効な対策が打てていない。


■ロシアは対衛星攻撃ミサイル実験

 米軍が世界で部隊の移動を停止し、各国との演習も中止するなど活動を大幅縮小した時期には、欧州、中東でも挑発工作が頻発した。

 4月15日、地中海上空の国際空域を飛行中の米P8哨戒機にロシア空軍戦闘機スホイ35が8メートルまで異常接近。4月8日にはアリューシャン列島付近の防空識別圏内を2機のロシア対潜哨戒機イリューシン38が飛行し、米空軍F22戦闘機などが緊急発進(スクランブル)。ロシア機は一時、米軍機の約8メートルまで接近するなど危険な行為を続けた。

 この間、ロシア宇宙軍は人工衛星攻撃ミサイルの実験を行った、と『ニューヨーク・タイムズ』は伝えている。ロシアには米国のスパイ衛星を破壊し、全地球測位システム(GPS)を機能マヒさせる能力をあることを誇示した形だ。

 また中東のペルシャ湾では同日、イラン革命防衛隊の艦船11隻が米海軍艦船6隻に異常接近したという。イラン艦船は陸軍のヘリコプターを伴って公海上で訓練中だった米艦船6隻に約9メートルの距離まで接近し危険な挑発を続けたという。


■サイバー攻撃でワクチン情報狙う

 コロナ禍の世界で、最も注目されているのはワクチン開発に関する情報だ。

 米連邦捜査局(FBI)と国土安全保障省の「サイバーセキュリティ・インフラ安全保障局(CISA)」は5月13日、COVID-19研究機関が中国などによるサイバー攻撃の「目標にされる」リスクがある、と警告した。

 中国政府関係組織などは「ワクチン、治療法、実験に関する価値が高い知的財産および公衆衛生データ」の入手を謀っている、というのだ。中国関係機関が具体的にどのような行為を行っているか明らかではないが、「米国の新型コロナ対策に重大な脅威」となっている、としている。

 CISAは具体的な国名を挙げていないが、最も活発にサイバー工作を行っているのは中国とロシア、イラン、北朝鮮といわれる。

『ニューヨーク・タイムズ』はこのほか、韓国やベトナムも感染症に関する情報入手を進めていることが民間セキュリティ会社の調査で判明したとしている。韓国は、世界保健機関(WHO)や北朝鮮、日本、米国を標的にしているという。韓国が日米を標的にしていることが確認されたら、必ず外交問題に発展する。日本政府はこの情報を確かめる必要がある。

『ロイター通信』によると、この種のワクチン開発の成功率は6%程度で、現在進行中の130種類以上のうち、成功するのは8~9件とみられている。各国の企業や研究機関が開発に成功すれば、莫大な利益を手にし、それぞれの国民の健康維持という国家的利益に大きく貢献するため、サイバー攻撃という手段を利用するのだろう。


■戦争か平和か

 コロナ禍とそれに伴う急速な経済の悪化は世界大戦につながるのだろうか。

 ミシェル・フロノイ元米国防次官(現ハーバード大学ベルファー・センター上級研究員)は「米国の抑止力低下で中国が誤算するリスクが高まる」(外交誌『フォーリン・アフェアーズ』電子版6月18日)と危険性を指摘、アジアでの戦争防止を訴えている。

 これに対して、マサチューセッツ工科大学(MIT)のバリー・ポーゼン教授(国際政治学)は逆に「平和を促進する可能性」の方が高いとみている。諸国は過信からしばしば戦争へと動くが、パンデミックが誘発する悲観論は平和に資するはずだ、というのだ。



「追加で8万円給付」の詐欺メール 背後に“外貨がほしい”北朝鮮の影
6/25(木) 

北朝鮮は外貨獲得の手段としてサイバー攻撃を繰り返している

 最近また、国家型のサイバー攻撃がニュースで話題になっている。

 例えば、新型コロナウイルスの発生について国際的に独立した調査を求めたオーストラリア。そのせいで中国から報復関税などを受け、さらに最近スコット・モリソン首相が記者会見を開き、政府や産業界、インフラ、教育、保健、サービスに対して、「国家」が背後にいるとみられる大規模サイバー攻撃を受けていると発表した。この「国家」とは、中国のことだと考えていい。

【北朝鮮のサイバー部隊は世界から警戒されている】

 またインドと中国の国境沿いの争いでインド兵20人ほどと中国兵40人ほどが死亡したとされる問題でも、インド政府は中国から政府機関や金融部門などへの激しいサイバー攻撃を受けていると主張している。

 最近では国家間の争いが絡んで、政府や民間企業がサイバー攻撃の被害を受けるケースが増えている。妨害行為の場合もあれば、ライバル国の大手企業を攻撃して長期的に国の経済を疲弊させることが目的の場合もある。中国やロシア、イランなどがこうした攻撃を敵対勢力に向けて頻繁に仕掛けていることは、セキュリティ関係者の間では周知の事実である。

 一方で、単純に国家財政のために、敵対国などへのサイバー攻撃を繰り返している国もある。そう、北朝鮮である。途上国の銀行や仮想通貨取引所を狙ったりと、この連載でも過去に北朝鮮の攻撃については取り上げてきた(参考記事:暴かれた「北朝鮮サイバー工作」の全貌 “偽メール”から始まる脅威)。

 そして今、世界的な新型コロナの感染拡大で国内経済が疲弊し、さらに米国との非核化交渉も進まず経済制裁が重くのしかかっている北朝鮮が、また新たな大規模サイバー攻撃に乗り出している。いや、乗り出さなくてはならなくなったと言った方がいいかもしれない。

 まさに世界が新型コロナからそろそろ立ち直ろうとしているこの時期を狙って、北朝鮮は日本を含む世界6カ国をターゲットにしたかなり大規模なサイバー攻撃のキャンペーンを始めた。しかも手口は全て、新型コロナに絡む政府からの補助金に関するものだ。一般市民や企業を広く狙った攻撃だけに、特にビジネスパーソンにとっては、コロナ禍から仕事が元通りになっていくゴタゴタの中で、いつも以上の警戒が必要だろう。

「給付金のお知らせ」を装ったメールを大量送付
 このサイバー攻撃キャンペーンが始まったのは、6月20日だ。

 もともとダーク(闇)ウェブなどで検知されたこの攻撃は、日本、米国、英国、インド、シンガポール、韓国を標的にしている。少なくとも500万に及ぶ個人や企業を標的にしており、その手口はフィッシングメールである。フィッシングメールとは実在する個人や組織などを装って電子メールを送りつけ、添付ファイルを開かせたりメールにあるリンクをクリックさせたりしてマルウェア(不正プログラム)に感染させるものや、個人情報を入力させるものなどがある。巧妙なものが多く、セキュリティ意識の低い人なら簡単にだまされてしまうだろう。

 今回のキャンペーンの手口は、フィッシングメールにあるリンクをクリックさせて個人情報などを入力させるパターンだ。

 その攻撃の目的は、既に述べた通り、金銭である。このキャンペーンのフィッシングメールは全て、新型コロナに関連して各国政府が国民に約束した支援金や補助金をネタにしている。簡単に言えば、日本なら「給付金に関するお知らせ」といった類の、本物と見間違うような偽メールが届く。そして攻撃側が設置した、官公庁や自治体の公式Webサイトに似せたサイトに誘導し、銀行の口座情報などを入手したり、手数料を振り込ませたりする。

 分かっているところでは、こうした偽の電子メールの差出人は、ほとんどが“それらしい”組織を称している。例えば米国なら「--@usda.gov」(usdaは米農務省)など、英国なら「--@bankofengland.co.jp」(bankofenglandはイングランド銀行)などが使われている可能性があるという。日本では「covid-support@mof.go.jp」(財務省)というアドレスが確認されている。対象となっている国は、いずれも比較的手厚い支援金を国民に提供しているため、ターゲットにされたとみられる。

 この手のサイバー攻撃は、日本でもすでに詐欺メールとして注意喚起されており、そこに便乗する形だと言えよう。そしてそれが世界各地で一斉に行われているのである。今回の北朝鮮のキャンペーンでは、日本に向けては「追加の支援金8万円が支給されます」と、うその通知をしてだまそうとしている電子メールも確認されている。

6000人規模、北朝鮮のサイバー部隊
 このキャンペーンを首謀するのは、北朝鮮人民軍とつながりのある有名ハッカー集団「ラザルス」である。このラザルスは、2017年に世界中で猛威を振るったランサムウェア(身代金要求型ウイルス)のワナクライをばらまいた犯行グループだ。それ以外でも、北朝鮮が関わるサイバー攻撃にがっつりと関与していることが多い。

 米財務省はこのラザルスに加えて、下部組織であるブルーノロフやアンダリエルと呼ばれる集団に対し、過去3年で20億ドルをサイバー攻撃で盗もうと企て、そのうち7億ドル(約750億円)を盗んだとし、制裁措置を科している。また金銭だけでなく、韓国などから軍事機密を盗んだり(金正恩委員長の「斬首作戦」に関連する文書も盗まれたと指摘されている)、インフラへの攻撃も実施したと指摘されている。米政府はラザルスを支援した2人も特定して制裁対象にしている。

 北朝鮮のサイバー攻撃能力を見くびってはいけない。その能力は、米国や中国、ロシアなどには劣るが、決して低いわけではない。米情報関係者らは、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「ビッグフォー」と呼んで警戒対象にしている。

 北朝鮮では、国内のインターネットのインフラを、もともと中国に頼っていた。だが金正恩政権になった後、ロシアからもインフラ設備で支援を得ており、国内での底上げも行っている。そのおかげで、17年以降、北朝鮮のインターネットのトラフィックは300倍になっているし、独自のVPN(仮想プライベート・ネットワーク)すら構築しているという。また韓国の国防技術品質院は、北朝鮮が米太平洋軍を麻痺(まひ)させたり、米国の電力網をサイバー攻撃で破壊したりできる能力があると分析している。

 また米サイバーセキュリティ会社のリコーデッド・フューチャーによれば、北朝鮮は中国、タイ、インド、バングラデシュ、インドネシア、ネパール、ケニア、モザンビークなどに関係者を学生として送り込み、能力や知識を付けさせて北朝鮮に貢献させているという。

 拙著『サイバー戦争の今』でも詳細にまとめているが、筆者が脱北者たちやセキュリティ専門家らへの取材で得た情報によれば、北朝鮮のサイバー工作は朝鮮人民軍偵察総局の121局が主に担っている。その兵力は、高い能力をもつハッカーが1800人ほどで、彼らをサポートするチームを合わせるとサイバー部隊は全体で6000人規模になるという。

援助が必要な人が被害に遭ってしまう重大さ
 金正恩はサイバー部隊に対して、貴重な外貨を獲得してくる部隊であるとして、最上級の待遇をしている。北朝鮮政府は、全国の学校で科学や数学の成績、また分析能力などの分野で優秀な生徒を早い段階で吸い上げ、平壌市内にある中学や高校で学ばせる。その後、国立の金日成総合大学や金策工業総合大学などで2年ほどさらなる訓練を受けさせ、中国やロシアに有給で研修にも送り出す。北朝鮮の外から、実際に人民軍のサイバー攻撃作戦にも加わって経験を積ませる。

 そんな北朝鮮が立ち上げた全世界的な金銭目的のサイバー攻撃だけに、だまされた個人や企業は、金銭的な損失だけでなく、北朝鮮の核兵器開発の資金源を提供することにもなる。国や国民のためにも、一人一人がこのサイバー攻撃の被害に遭わない対策が必要だと認識するべきだ。

 このキャンペーンの動向を注意深く調査し、日本の攻撃情報などを周知する「JPCERT コーディネーションセンター」にも情報提供したサイバーセキュリティ企業、サイファーマのクマル・リテッシュCEOは、「金銭的な援助が必要な人たちが被害者になる可能性があると考えると、この攻撃キャンペーンは政治的また社会的な安定に重大な影響を及ぼします」と語る。

 北朝鮮のみならず、中国もロシアも、それぞれの思惑をもってサイバー攻撃を行っている。新型コロナでいえば、中国はワクチンや治療薬を開発する医療機関にハッキングを仕掛け、米衛生当局へも業務の妨害工作を実施。加えて、つい最近EU(欧州連合)からも苦情が出ていたように、ウイルス拡大の責任から逃れようと偽情報をばらまいている。ロシアも偽情報を拡散させたり、米医療機関をハッキングしようとしているのが確認されている。

 人々が不安を抱いている時こそ、彼らには絶好の攻撃チャンスとなる。そういうときこそ、メールなどに対して、冷静に対応する心構えが必要となる。













「新型コロナ禍」の裏で「軍事衛星発射」高まる「米イラン」緊張
5/1(金) 



 世界が「新型コロナウイルス」禍で凍り付く中でも、憎しみは収まらないのだろう。米国とイランの軍事的な緊張が再び高まってきた。

 イランのイスラム革命防衛隊が創設41周年記念日にあたる4月22日、初の軍事衛星の打ち上げに成功した。

 イランの弾道ミサイル開発を問題視してきた米国は早速、「米国も射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発する証拠だ」と反発している。ペルシャ湾では米海軍と革命防衛隊の異常接近も続いており、目を離せない緊張が再来した。


■砂漠の打ち上げ

 革命防衛隊の人工衛星「ヌール(光)1号」は、テヘランの東約350キロに位置するシャフルード基地から発射された。この基地があるセムナーン州の砂漠には、イランの平和利用宇宙計画拠点があることは知られていたが、革命防衛隊の衛星打ち上げ基地があることは伏せられていた。

 革命防衛隊の発表によると、人工衛星は移動式の発射台に備え付けられた3段式のロケット「カセド」で大気圏外に運ばれ、打ち上げから90分以内に高度425キロの軌道に到着したという。

 カセドは、液体燃料と固体燃料の双方を使うタイプで、第1段のロケット部分は液体燃料、第3段は固体燃料で発進したと分析されている。『国営イラン放送』(IRIB)が放映した発射映像を見ると、発射台は小ぶりでロケットや人工衛星を搭載した弾頭部分も比較的小さく見える。

 イランは2000年代から人工衛星の打ち上げを試みてきており、何度か軌道投入にも成功したとされる。しかし、今回は米国が人工衛星の打ち上げ成功を明確に確認した。

しかも、これまでのような資源探査や気候情報の収集といった平和利用目的をうたった人工衛星実験ではなく、革命防衛隊が「軍事衛星」と明言しているところが挑発的だ。

 革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官は打ち上げ直後の声明で、

「現代の世界では強力な軍事力と包括的な国防計画を持つために、宇宙での能力保有が必要である。宇宙へ我々を導く優れた技術を持ったことは、戦略的な大業績だ」

 と自画自賛。人工衛星が特に情報戦で力を発揮すると述べ、革命防衛隊が宇宙での軍事能力の拡充に乗り出す意欲をみなぎらせた。

 サラミ司令官と言えば、今年1月にバグダッドで殺害されたガセム・ソレイマニ司令官の報復で革命防衛隊がイラクの米軍拠点を攻撃した際に、誤ってウクライナ旅客機を撃墜してしまい、「人生で最も恥ずかしい出来事」と公開謝罪した人物である。

 ところが今回は、あの煉獄を忘れたかのような満面の笑みを浮かべた。正規軍が革命を潰す恐れがあるとして、準軍事組織として発足した革命防衛隊からすれば、人工衛星保有で「とうとうここまで来た」という思いだろう。


■宇宙を回るウェブカメラ

 もちろんイランの軍事衛星の能力は、米国やイスラエルが恐れるようなレベルではない。

 米宇宙軍のジェイ・レイモンド司令官は、

「ウェブカメラがくるくると宇宙を回っているようなもの。意味ある軍事情報など入手できない」

 と、打ち上げから4日後の26日にツイートしている。

 革命防衛隊の衛星は、「3U Cube衛星」とされ、原型となる直方体の「1Cube衛星」を3つ結合させたものだ。1Cube衛星は10立方センチで重量は1.3キロという。

 Cube衛星は1999年から打ち上げが始まり、これまで打ち上げられた総数は1200に上る。アマチュア無線の交信用に使ったり、地球を撮影してその表面画像を送る程度はできるものの、軍事基地の動きを微細に撮影してその様子を送信するといった機能はない。レイモンド司令官が「宇宙を回るウェブカメラ」と呼んだのもうなずける。

 しかし、だからと言って軽視はできない。今回の人工衛星打ち上げは、欧州や米国に届く長距離弾道ミサイル技術を獲得する狙いを持つとみられるからだ。

 革命防衛隊の衛星の名前が「光1号」と聞いて、思い出すのは、1998年8月に北朝鮮が打ち上げた人工衛星「光明星1号」だ。

 両国はミサイル技術で協力関係にあるせいだろうか、名前が似ている。北朝鮮は「光明星1号」から20年で弾道ミサイル技術を格段に向上させ、今ではICBM技術も保有すると宣言するまでになった。

 当時、北朝鮮の「人工衛星」はあまりにお粗末なもので、米国は失敗と断定し、日本も含めて世界は嘲笑したのだが、北朝鮮は営々と弾道ミサイル技術を進歩させてきたのだ。

 革命防衛隊の今回の打ち上げも、ICBMなど長距離ミサイル能力の向上を意図したものとみるべきだろう。米統合参謀本部のジョン・ハイテン副議長は、

「軌道に乗るまで非常に長い距離を飛行した。長距離を飛ばせるということは、近隣国や我々の同盟国の脅威になるということだ」

 とその飛距離に注目し、米大陸に届くICBM能力に警戒を示した。

 イスラエル外務省はより露骨に、

「人工衛星は北朝鮮のミサイル技術向上のための隠れ蓑だ」

 と断言している。普段は制裁に苦しむイランに同情するドイツの外務省報道官も、

「イランのミサイル計画は欧州の安全保障の観点から受け入れることはできない」

 と、珍しく語気を強めて非難している。

 イランの長距離弾道ミサイルは欧州を射程に収めるから、イランのイスラエルやサウジアラビアとの軍事的な対立を、これまで対岸から見てきた欧州は、脅威が身近になったことで悠長にしていられない。

 米国のマイク・ポンペオ国務長官は、

「イランの弾道ミサイル開発を禁じた国連安保理決議に違反している」

 と非難し、国際社会の対イラン包囲網を促している。

 ただイランは、

「安保理決議は『核弾頭搭載用の弾道ミサイルを開発しないよう求める』というものであり、イランの人工衛星は核弾頭ではないし、ロケットは核弾頭搭載用ではない」

 と反論している。だが、革命防衛隊の「軍事衛星」だから、過去のような「平和利用」とは性格が異なる。

 米国が神経質になるのは、イランのミサイル技術が米国を意識したものであることが濃厚な点だ。

『ロイター』は米政府高官の話として、弾道ミサイル戦力を握る革命防衛隊航空宇宙部隊のアミール・アリ・ハジザデ司令官が、打ち上げに立ち会っていたと伝えた。

 米政府は、ハジザデ司令官が昨年6月のペルシャ湾上空での米軍無人機撃墜や、今年1月のイラク駐留米軍への弾道ミサイル攻撃などを指揮していたと分析している。司令官はソレイマニ司令官殺害で今年1月に米国と軍事的な緊張が高まった際には、米軍の400カ所の拠点を攻撃する方針だったと、最近、明らかにしている。

 この米高官は、人工衛星打ち上げでは機動力のある移動式の発射台が使われたとも述べ、軍事目的が濃厚と指摘した。


■イランのミサイル信仰

 米国防総省は、イランがICBM能力の保持を狙うのは、米国への報復戦力を持つことで抑止力を獲得したいためだ、と見ている。

 核戦力を持たないどころか、通常兵器でも圧倒的に劣るイランは、弾道ミサイルや巡航ミサイルへの依存を強めている。イランにとって、弾道ミサイルとは安全保障の守護神であるという信念もある。

 それはイラン・イラク戦争(1980~88年)で、ソ連製スカッドミサイルの激しい都市攻撃を受けた際に、空軍力で劣るイランの唯一の対抗手段が、自らも弾道ミサイルを入手し反撃することだけだったという歴史を背景にしている。

 当時のイランは米国からの支援は当てにできず、ソ連からのスカッドミサイル購入も、ソ連がイラクの同盟国であったことから拒否され、結局リビアや北朝鮮から提供を受けることで、何とかイラクへのミサイル攻撃を80年代半ばに行って一矢を報いた。

 米国など西側からの軍事援助を受けられず、ロシアからも信頼を得られないというイランの孤立は、イラン・イラク戦争当時と変わらない。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)や英国際戦略研究所(IISS)は、イランが中東最大の弾道ミサイル戦力を持ち、その最長射程は2000キロと推定している。東は中国西部とインド全域、北はモスクワまでのロシア、欧州南東部、西はイスラエル、エジプト、そして南はサウジアラビアをすっぽりと覆う(下図参照)。

 イランは弾道ミサイルを実戦にも使っている。2017年と18年には過激派組織「イスラム国」(IS)のシリアにある拠点を弾道ミサイルで攻撃したし、1月にソレイマニ司令官殺害の報復でイラクの米軍拠点を弾道ミサイルで攻撃したのは記憶に新しい。

 だが、イランの国防戦略の核である抑止力、つまり米国によるイラン攻撃を認めない戦略を確立するためには、弾道ミサイルの技術向上が必須となる。特に、米国を不倶戴天の敵と見る革命防衛隊にとっては、ICBM能力の保持が求められるのだ。

 もちろん、人工衛星の打ち上げ技術とICBM技術では大きな違いがある。慣性航法や誘導システム、弾頭部分離技術などは同じだが、ICBMに必要な大気圏への再突入で生じる熱からの防護技術や高高度に到達する技術などが難関とされる。

 こうした能力を持ったとしても搭載可能な核弾頭を開発できなければ、張り子の虎だ。イラン核合意(JCPOA)はそれを制限するものだったが、米国の離脱後、イランは少しずつだが、平和利用をうたって核開発を再開している。


■ペルシャ湾の緊張

 米国がイランにいら立つのは軍事衛星の打ち上げや弾道ミサイル開発だけではない。

 3月11日には、バグダッド近郊にある米軍の拠点タジ基地へのロケット弾攻撃があり、米兵2人、英兵1人が死亡した。米軍は、

「こうした大掛かりな攻撃を行えるのは(イラン系民兵組織の)『カタイブ・ヒズボラ』(KH)しかない」

 と断定して、KHの5拠点を空爆した。

 KHは、年明けのソレイマニ司令官殺害につながった、昨年12月の米軍拠点K1への攻撃の実行主体と断定された。K1での死亡者は米国人1人だったが、米軍はKHの拠点を報復攻撃し、数十人が死んでいる。

 報復の連鎖という過去のパターンで行けば、今度はKHが再攻撃をかける番だが、ドナルド・トランプ米大統領は4月1日には米情報機関の分析を受けて、

「イランかその代理人が米国に対する卑劣な攻撃を準備しているようだが、そんなことが起きればイランには実に重い償いを払わせる」

 とツイートしてけん制している。

 ペルシャ湾でも軍事的な緊張は続いている。

 4月15日には、ペルシャ湾で米陸軍の攻撃ヘリコプター部隊と演習を行っていた海軍の4隻、沿岸警備隊の2隻の艦艇に対して、11隻の革命防衛隊の船が接近して嫌がらせを行い、9メートルの距離まで近づいてきたという。

 米海軍が公開した映像にある、米艦船の船首をかすめてハエが周囲をうるさく飛び回るような接近行為は、米軍幹部が、

「ペルシャ湾でイランとの偶発的な衝突が最も起こりうる事態」

 と呼んできたものだ。

 これに対してトランプ大統領は、革命防衛隊が人工衛星打ち上げを発表した22日に、

「艦船に嫌がらせをするようなイランの船はすべて攻撃し破壊するよう海軍に指示した」

 と警告している。

 こうした言動の応酬は、米国とイランとの間ではしばしば起きているから、驚くには値しない。だが、パンデミックとの闘いに世界が集中する今、軍事的な衝突のリスクをいとわない国々を嘆くしかない。





中東でコロナ感染拡大なら、油田閉鎖の危機も
4/17(金) 13:40配信

ニュースソクラ
【藤和彦の眼】現在は減産合意でも原油価格低迷だが・・・
CC BY /William John Gauthier

 米WTI原油先物価格は、OPECプラス(OPEC加盟国とロシアなどの大産油国)による新たな協調減産の合意にもかかわらず、1バレル=20ドル台前半で低迷している。

 OPECプラスは、原油価格の急落を受けて4月9日から10日にかけて緊急会合を開き、5月から2カ月間にわたり日量970万バレルの減産を行うことで合意した。サウジアラビアとロシアが2019年10月時点の原油生産量を基準にしてそれぞれ日量250万バレル減産することで合意した。

  OPECプラスはさらに7月から年末まで日量800万バレル、2021年1月から4月まで同600万バレルの規模で協調減産を続ける意向である。

  サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相は13日、「G20の場で、OPECプラス以外の産油国が日量約370万バレルの減産を行い、各国は戦略石油備蓄を今後数ヶ月で約2億ドル積み増すことで合意した」ことを明らかにした。これらを合わせると、減産規模は約1950万バレルに達する計算となる。

 今回の減産の取り組みで興味深いのは、世界第1位の原油生産国となった米国が協調姿勢を見せていることである。

  州の石油産業を監督するテキサス鉄道委員会(TRC)のシットン委員長は3日、「米国が減産することが国際的な合意の支援になるなら、テキサス州はこれを支持する」と述べた。シットン氏はさらにノバク露エネルギー相と協議したとされている。

 4月に入りノースダコダ州で大手シェール企業が経営破綻しており、テキサス州当局は同州でも倒産の嵐が起き、経済が苦境に陥るのをなんとしても食い止めたいところだろう。

 米国では反トラスト法により石油会社が共謀して価格をつり上げるカルテルが禁じられているが、専門家によれば、州の規制当局や連邦政府が生産水準を下げるよう命じることは可能だとしている(4月9日付ロイター)。

 米国の原油生産量は、国内の需要の記録的な落ち込みにより、ピーク時の水準(日量1310万バレル)から既に70万バレル減少している。米エネルギー省によれば、4月のシェールオイルの生産量は前月比19万バレル減の日量約870万バレルと過去最大の減少幅を記録する見通しである。

 米エネルギー省は「今年後半まで原油生産量は日量200万バレル減少する」との見通しを示しているが、前述のTRCはそれをはるかに上回る「日量400万バレルの減産を今後3カ月にわたって組織的に行う」ことを表明している。

 OPECプラス(日量970万バレル)に米国の減産分(日量400万バレル)が加われば、減産の規模は日量約1400万バレルとなる。

 いずれにせよ、今回の減産合意は史上最大の規模であるが、世界の原油需要は日量3000万バレル以上減少すると見込まれていることから、原油価格を反転上昇させることはできなかった。

 原油価格は長期間低迷を続けるとの見方が強まっているが、はたしてそうだろうか。

 筆者は「新型コロナウイルスの感染拡大により、中東地域の原油生産活動に大きな支障が生ずる」と懸念している。

 中東地域で最も新型コロナウイルスが蔓延しているのはイランだが、米国の制裁により原油の輸出量は日量約30万バレル(輸出先はシリアと中国)に激減している。

 筆者が注目しているのは、OPEC第1位の原油生産国であるサウジアラビアである。サウジアラビア保健省が7日、「国内の新型コロナウイルス感染者が今後数週間で最大20万人に増加する公算が大きい」とする見通しを明らかにしたからだ。サウジアラビアにおける直近の感染者数は3000人強だが、今後感染爆発が起きるとされるのは4月下旬にラマダン(断食月)入りするからである。

 宗教行事をきっかけに新型コロナウイルスの感染が広がる例が世界で相次いでいるが、日没後は解禁された飲食を集団で楽しむ習慣があるが、武漢市やダイヤモンド・プリンセス号などの経験から、集団飲食が感染爆発を引き起こす最も危険な行為である。
4月8日付ニューヨークタイムズは「サウジアラビアの王室で約150人が新型コロナウイルスに感染している」と驚くべき事実を報じた。中でもリヤド県知事はICU(集中治療室)に収容され、サルマン国王とムハンマド皇太子は紅海の孤島などに避難しているとされている。

 サウジアラビアの新型コロナウイルス感染拡大にさらに悪影響を与えるのは隣国イエメンである。サウジアラビアが主導するアラブ連合軍が内戦に介入してから5年が経過したが、イエメンでは数万人が死亡し、コレラ流行など深刻な人道危機が起きている。イエメンでの新型コロナウイルス感染は4月に初めて確認されたが、国連は3月下旬「紛争をやめ、生命を守るための本当の戦いに注力すべきだ」と危機感を露わにしている。

 「感染爆発が起きているイエメンから次々と新型コロナウイルス患者がサウジアラビアに押し寄せるのではないか」。このような事態に慌てたサウジアラビア政府は9日、イエメンの反政府武装組織フーシに対し停戦を呼びかけたが、その直後に攻撃を再開している。

 東部の大油田地帯はシーア派住民がマジョリテイを占めていることから、イランとの往来が多く、一部地域は3月上旬から封鎖されたが、原油の生産活動には支障は生じていないとされている。

 サウジアラビアで新型コロナウイルスが蔓延し、隣接するアラブ首長国連邦(UAE)やカタール、クウエートなどアラビア半島での原油生産にも悪影響が及べば、世界の大原油地帯(日量2000万バレル以上)が新型コロナウイルスのせいで封鎖されるかもしれないのである。

 リーマンショック後の2011年、リビアの政変による供給の大幅減を材料に大量のマネーが原油市場に殺到し、原油価格は1バレル=100ドル超えとなった。新型コロナウイルスによる不況を警戒して世界の中央銀行が再びマネーを大量に放出していることから、中東地域での未曾有の地政学リスクが火種となって、原油価格が再び高騰するリスクが生まれつつあるのではないだろうか。










【論説】世界に広がる新型コロナ、貧困国を見捨てるな
3/23(月) 12:12配信

The Guardian
モンゴルの首都ウランバートルの広場で行われる消毒作業(2020年3月17日撮影)

【ガーディアン論説委員】
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が世界で着実に増えているが、同じくらい憂慮すべきことは、一つしかない。新型コロナウイルスによって甚大な被害が出かねない場所での、感染者数の報告が少ないことだ。こうした場所は、被害がもっとも深刻な国との関わりが、先進国と比べて少ないのかもしれない。しかしまた、感染を監視するための体制がもっとも整っていないのかもしれない。

 感染者数を24人と報告しているアフガニスタンには、新型コロナウイルス感染症を診断できる病院が一つしかない。だが、隣国イランでは、この感染症が破滅的に流行している。シリアは、隣国5か国で感染者が出ているにもかかわらず、自国にウイルスはないと主張。政権が感染を隠匿しているのではという疑惑が存在している。

 新型コロナウイルスは誰にとっても脅威だ。しかし、貧困国では富裕国と比べ、被害はより大きくなるだろう。栄養不足やもともと体調不良の場合、必然的にウイルスに感染しやすくなる。人がすし詰め状態の場所では、感染は急速に拡大する。基本的なニーズでさえ対応できていない医療機関は、すぐにパンクするだろう。「手を洗おう」は素晴らしいアドバイスではあるが、自宅にせっけんと清潔な水がない世界人口の5分の2の人たちにとっては、あまり役には立たない。国連児童基金(ユニセフ)によると、医療機関の6分の1は、患者を治療する場所にきちんと機能するトイレや洗面台が備わっていない。

 1918年に発生したスペイン風邪のパンデミック(世界的流行)は、国によって結果がいかに大きく異なり得るかを示している。スペイン風邪で、世界の5000万~1億人が死亡した。しかし、ローラ・スピニーの著書「Pale Rider」(未邦訳)によると、このうち1300万~1500万人は、インドでの死亡者だった可能性がある。アジアでの致死率は、欧州の30倍に達した。

 今の時代も、指導力と迅速な対応が有効だ。モンゴルでは、人口の28%が貧困線以下で暮らし、医療サービスも非常に脆弱(ぜいじゃく)だ。そのモンゴルは、中国との国境をすぐに封鎖し、あらゆる集会を中止。間もなくして全航空便の運航を休止し、学校を閉鎖した。モンゴルではこれまでのところ10人の感染者が報告されている。

 また、いまだ独裁体制や内戦、テロなどによる混乱から立ち直り切れていないソマリアで感染が拡大すれば、大惨事になる可能性がある。同国で確認された感染者数は1人にとどまっているが、それは、ウイルス流行地域から航空便で入国した人たちをスクリーニングし、隔離、検査したからのようだ。現在ソマリアでは、航空便はすべて運航休止となっている。

 戦争などの惨事ですでに苦しんでいる国にとって、これより悪い事態など、ほぼ想像できないだろう。ノルウェー難民委員会のヤン・エーゲラン事務局長は、難民キャンプに押し込められている難民は特に脆弱だと警告する。さらに、「病院が破壊され医療制度が崩壊したシリア、イエメン、ベネズエラにウイルスが到達すれば、大量に死者が出るだろう」と加えた。

 国際救済委員会は、アフガニスタンとイランへの汚物処理設備と衛生設備の提供を強化している。富豪のマイケル・ブルームバーグ氏が立ち上げた米慈善団体ブルームバーグ・フィランソロピーズは、低・中所得国、とりわけアフリカでのウイルス感染拡大を阻止するために、4000万ドル(約44億円)を投じて国際基金を立ち上げると発表した。一方、中国電子商取引(EC)大手アリババグループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は、検査キット、マスク、医療従事者用の防護服をアフリカ各国に寄付すると発表した。

 世界が脅威に直面するとき、人は何よりもまず自分自身のコミュニティーを考える。とはいえ、もっとも弱い立場にある人たちのことを決して見捨ててはいけない。【翻訳編集】AFPBB News



イラン軍「24時間以内に商店や道路を無人化」新型コロナ対策を決行…脆弱な医療インフラに大きな懸念
3/16(月) 8:10配信

BUSINESS INSIDER JAPAN
世界保健機関(WHO)が公開している新型コロナウイルスの感染拡大状況マップ。イランの延べ感染者数は世界で3番目に多い(3月14日時点)。

世界保健機関(WHO)によると、3月15日0時現在、世界の新型コロナウイルスの感染者は累計で14万2649人、死亡者は5393人となっている(延べ人数、現時点での感染数ではない。また、各国当局の公式発表を集計したものゆえ、データ漏れも多いとみられる)。

【全画像をみる】イラン軍「24時間以内に商店や道路を無人化」新型コロナ対策を決行…脆弱な医療インフラに大きな懸念

国別にみると、感染者数のトップは中国で8万1021人、死亡者が3194人。続いてイタリアの1万7660人、死亡者は1268人。

3番目がイランで、感染者1万1364人、死亡者514人。続く韓国は感染者8086人、死亡者72人なので、感染者が1万人を突破しているのは中国、イタリア、イランの3カ国だけということになる。

ちなみに日本は感染者が716人で、死亡者が21人。現時点では世界で15番目の感染規模となっている(多数の感染者を出したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は「国際輸送機関」とされ、日本の状況値には含まれていない)。

最高指導者から軍に直接命令
イランでは3月13日、ハメネイ最高指導者が新型コロナウイルスへの対策を軍に指示。それを受け、イラン軍のトップであるモハマド・バゲリ総参謀長は、「新たに設置した委員会が24時間以内に商店や道路を無人化させる措置を指揮し、今後10日間で全国民の状況を調査し、感染の疑いのある人を完全に特定する」と発表した。

全国民への外出禁止命令だ。感染拡大を抑える上で、きわめて高い効果が期待できるのは間違いない。

しかし、この措置は言い換えれば「10日間、全国民に対外活動を停止させる」ことであり、国民経済への打撃は計り知れない。また、極端に強制的な行動禁止は、自由の制限という人権的な問題にもかかわってくる。

副大統領や保健省次官など政府高官にまで感染が広がっているイランでは、当局の危機感が高まっており、きわめてドラスティックな決定に至ったのも緊迫した状況がそうさせたのだろう。

興味深いのは、この命令が政府(大統領)を飛ばして、最高指導者から直接、軍に下されたことだ。

ウイルス対策は内政の問題であり、本来はロウハニ大統領の管轄だ。しかし、今回は全国民を従わせる強制力が必要ということで、形式性の強い政府ではなく、真の実力組織である軍が前面に出て、責任を負うかたちになったとみられる。イランでは、軍の指示に逆らうのは不可能なので、外出禁止は徹底されるだろう。

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