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テン年代のエロゲを振り返る(2018年編)

2018年は改元も迫る中で、エロゲーの中でも時代の変わり目を感じるような作品が多かった。エロゲー業界全体としては衰退も目に見えてくる一方で、新しいブランドの中には勢いを見せつけるものもあり、総じていえば業界全体がそれなりに盛り上がった一年であった。

この年のビッグイベントといえばやはり30年以上続いてきた「ランスシリーズ」の完結が挙げられるだろう。前々から予告されていたランスシリーズ最終作の『ランス10』が2月に発売され大きな話題を呼んだ。魔人との全面戦争を描く本作は、過去作のキャラクターが多数出演し、根幹となる設定である魔王システムに終止符を打つものとなっている。長年のファンも納得の出来であったようで、ファンによる高評価が相次ぎ、例えばErogameScapeにおいて中央値99点を2022年5月においてもキープしている。

3月にはゆずソフトから『RIDDLE JOKER』が発売。ゆずソフトの新作の発売は一大イベントと化しており、例えばソフマップにはゲームを並べたタワーが立ったりした。ゲーム自体もきちんとファンの期待に応えた良作。

同月には『母性カノジョ -子宮 帰還編-』も発売し。強すぎるタイトルのインパクトが話題を呼んだ。「バブみを感じてオギャる」のような言葉が流行していた時勢を捉え、原画家おりょうによるハイクオリティなグラフィックもあって、評価が比較的高い一作。

4月にはアニメ調レンダリングな3Dエロゲー『コイカツ!』が発売。キャラメイクの充実度から『コイカツ!サンシャイン』も含めて末永い人気を誇っている。

6月にはレーティングは全年齢ではあるものの、Keyから『Rewrite』以来のフルプライス新作、『Summer Pockets』が発売。同ブランドを象徴するクリエイター麻枝准は原案と音楽のみの参加で、メインライターにはSAGA PLANETSの四季シリーズで有名な新島夕を起用。また原画についても2016年に退社した樋上いたるは参加せず、Na-Gaを中心に社内からはVisual Art's 系列での経験があったふむゆん、社外から和泉つばすを起用し、ビジュアル面でも過去作と一線を画す、新生Keyという印象の強い一作となった。前作『Rewrite』と打って変わって「夏休み」を題材に日常的な世界を舞台にした本作は、離島でひと夏を過ごす主人公が島での生活を満喫しながら、ヒロインをめぐる不可思議な現象に巻き込まれていくといった内容。卓球ゲームや、カード集めなどKey作品らしいミニゲーム要素、しっかりと「泣き」を意識したストーリーは往年のファンも納得の出来であり、新旧のファンから高い評価を得た。聖地である直島・男木島・女木島への巡礼もかなり盛んにおこなわれている。

https://www.youtube.com/watch?v=EWdTEw7Shog

7月には新ブランドQruppoによる「ぬきたし」こと『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?』が発売。息もつかぬ間に繰り出され続けるあまりにも潤沢で多様な下ネタとふざけた世界設定でユーザーを笑わせながらも、後半にはアツい展開で締めるシナリオの秀逸さが口コミを通じて徐々に拡散し、続編の発売、パッケージ版の価格高騰など一大ブームを起こした。YouTubeで没シナリオを公開してみたり、公式Twitterで作中に登場するマスコット「ハメドリくん」を演じ定期的に話題を呼ぶなどSNSを通じたマーケティングのうまさも新たな時代を象徴しているように思える。(ぬきたしのボツシナリオは70万再生程度されているものもある。)

同月はニトロプラスから『みにくいモジカの子』が発売。顔を見ることで相手の心を「文字化」するという設定を基に、基本は主人公の足元を見る構図で進行、選択肢は視線を上げて顔を見ることなど、斬新なシステムと演出が話題を呼んだ。

8月には『未来ラジオと人工鳩 』が発売。本作自体はあまり評価を受けてはいないものの、グラフィック面での品質の高さは際立っており次作『白昼夢の青写真』でのヒットへの布石も感じられる一作になっている。OPの『栖鴉の綿』は名曲。

10月には『Deep One -ディープワン- 』が発売。『魔法使いの夜』とも比肩するレベルの演出面の豪華さで話題を呼んだ。TYPE-MOONの武内崇からも推薦コメントを、もらうなど大きな期待を集めた。残念ながら予告のない分割作品であったこと、広報で一定程度期待させていたエロ面の薄さ、シナリオ面での未熟さなどの様々な要素が、ユーザーの期待が高かったこともあってかえって低い評価を招いてしまった。新作『DeepOne-領界侵犯-』のティザーサイトは2021年に公開されているものの、続編は2022年現在出ておらず、変わりに世界観を共有したブラウザゲームを展開中。

また同月にはOVERDRIVEの最終作『MUSICUS』のクラウドファンディングが1億円を達成したことが話題を呼んだ。(MUSICA!から商標の関係上か名称を変更した)

11月にはきゃべつそふとによる『アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-』(通称アメグレ)が発売。シナリオ面で注目を集めた。美術学校を舞台に、タイムリープをしながら、謎解きをするというノベルゲーム形式の王道を行く構成。ノベルゲームという媒体において与えられる一つの先入観を基にしたトリックは秀逸で、若い世代を含め支持を集めている。筆者の主観では10年前における『車輪の国、向日葵の少女』など同等にシナリオゲーの筆頭として挙げられるようになりつつあるようにも思える。この大ヒットを皮切りにきゃべつそふとは続く『さくらの雲*スカアレットの恋』『ジュエリーハーツ・アカデミア』などでも高い評価を受けている。

ave;new feat.佐倉紗織によるOP『コールドボイス』も作中の冬の雰囲気とマッチしておりとても良い曲。 

年末には、ウグイスカグラから『空に刻んだパラレログラム』が発売。『紙の上の魔法使い』などと比べると癖のない一作。

他には後年話題になる『9-nine-』シリーズの二作目『9-nine- そらいろそらうたそらのおと』は本年の発売。本作単体ではあまり印象に残らないが、本作のヒロイン新海天の人気は声優人気も相まって随一。

まどそふとの『ラズベリーキューブ』も本年発売。堀江晶太作曲・編曲の『raspberry cube』のOPは軽快なサウンドが印象的。

音楽関連でも割と充実した一年だったのではないだろうか。上に紹介したもの以外にも『宿星のガールフレンド』の『Magical Girl☆Conflict』や

イントロがかっこいい『縁りて此の葉は紅に 』の『アカリノアリカ』、

聴いているとなんだか不安になる『かりぐらし恋愛』の『ふわり恋模様』、

『雲上のフェアリーテイル』の『BACK OF HEARTS 』

などいろいろと粒ぞろいである。

そのほかには2018年にはまだ解散していなかったfengから発売された『ずっと前から女子でした』のOP『友愛進化論』は2021年の『fengコンプリートボーカルアルバム』の発売までフル版が発表されていなかったことなども印象的。

コンプリートボックスの定番化

人気シリーズのコンプリートボックス商法・HDリメイクなどはやはり資金を集めるうえで手難い手法なのかこのぐらいの時期から非常に増えてきている印象がある。
まず2月のバレンタインには『WHITE ALBUM2 EXTENDED EDITION』が発売。アニメ版BD特典であったミニアフターなどの入手困難な作品も含んだ決定版である。

7月には『素晴らしき日々 ~不連続存在~ フルボイスHD版 』が発売。新ルートも含んだリメイクだが、2年後には10thボックスをさらに出すなど、『サクラノ刻』の間のつなぎという印象も抱かなくもない一本。

11月には解散するSpriteから『蒼の彼方のフォーリズム4thAnniversaryBox』が発売。『恋と選挙とチョコレート』や各作品のサントラなども含んだ「ブランドの集大成」たる商品であった。

年末には往年の名作『パルフェ』『ショコラ』などの丸戸史明作品を多く含んだ『戯画ロイヤルスウィートコレクション』が発売した。

他には、E-mote対応を行った『世界でいちばんNG(ダメ)な恋 ハピネスモーション 』なども発売している。

全年齢・同人

全年齢作品としては同人作品からは『シロナガス島への帰還』が(廉価であることもあったが)5万本を超えるヒットを達成している。内容としては離島ミステリものだが、多少のホラー演出やSF的要素も入っている。。Nintendo Switch版への移植や翻訳なども含めて今後の展開も予定している模様。

『レイジングループ』のamphibianによる『最悪なる災厄人間に捧ぐ』も本年の発売。透明人間以外の生物を認識できなくなってしまった主人公と透明人間であるヒロイン、そして数多の平行世界の中で、必ず訪れる災厄を回避するために奮闘するといった奇抜な設定のゲーム。相変わらず複雑に絡み合う複数のルートを上手くまとめる技法は見事だが、一方で「鮮血ビューティフル」などの謎の言い回しが地味に印象的な作品である。

サービス終了

ブランド解散関連のビッグイベントとしてはSpriteが印象的であろう。Spriteは本年に『蒼の彼方のフォーリズム4thAnniversaryBox』の発売を持って解散することを発表した。親グループはスマートフォン向けゲーム『Project NOAH』の開発に注力することとなった。しかし当ゲームは配信開始も延期し、一年弱でサービス終了することとなった。
エロゲーがダメになったからといって、ネットゲームに移行したからといってそうそううまくいくこともなくなってきており、同年にサービスインしているBALDRシリーズの後継となる『BALDR ACE』も翌年にはサービス終了している。

このような逆境の中で2022年現在もサービスを継続できている『あいりすミスティリア!』は比較的、稀有な成功例といえる。本ゲームは2017年にリリースされたものの、戦闘テンポの悪さなどから本年2月にサービスを一時停止し戦闘システムを抜本的に作り替えた。同年9月にベータテストを兼ねて再開し、翌年一月に正式リリースを行っている。

業界全体が縮小するなかでエロゲーショップにも逆風が吹いており、通販に移行していたエロゲショップ紙風船が11月に完全閉店したほかメディオ!も通販を終了していたりする。

その他にはエロゲメーカーとしては『さくらさくら』などの作品で知られる『ハイクオソフト』が倒産。加えてエロゲメーカーではないが『ナツノヒ』などの曲で知られるレーベルMORE MUSIC ENTERTAINMENTが解散したことなども個人的には印象的。本レーベルからリリースされた『スワローテイル-あの日、青を超えて- Original Sound Track』は現在駿河屋での買取価格が10万円を超える異常な高騰を見せている。

その他

  • 長らく発売が宙ぶらりんになっていた『夢と色でできている』の発売が決定。

  • 『D.C.4 ~ダ・カーポ4~』の発売が決定。PS5が出たときのような感慨があった。

  • minoriの『その日の獣には、』が延期。いまから考えると断末魔ともいうべき延期であった。

  • Favoriteの『さくら、もゆ。』が延期。かわりに主題歌CDが初回版に同梱されることになった。

  • 『戯画1st LIVE』が開催。BALDRシリーズをはじめとした戯画の往年の名曲が聞けた。

  • Navelがつり乙シリーズの展開に一区切りをつけて『君と目覚める幾つかの方法 』を発売

  • ゆずそふとがガイドラインを緩和し配信を解禁


・他にはメーカーやトラックメーカーの枠を超えたエロゲソングのコンピレーションアルバムSymphony Soundsシリーズがリリースし始めたのも印象的。
エロゲソングのコンピレーションアルバムとしては、その年の前の年に出たエロゲソングを二枚に渡ってフィーチャーするコンピレーションアルバムGWAVEシリーズが2000年代から存在していたが、2016年に音沙汰もなく終了してしまっていた。各作品のサントラをすべて買うのは金銭的にも中々敷居が高い状況で、このようなコンピレーションアルバムの存在は貴重であった。Symphony Soundsシリーズはまずは直近15年程度から一曲ずつを集めていく『Symphony Sounds Record』シリーズに始まり、EDソングのみを集めた『Symphony Sounds Eternal』、GWAVEシリーズの補完となる各年に出た曲をフィーチャーする『Symphony Sounds Generation』、リクエスト楽曲を集めた『Symphony Sounds Request』など2023年現在も多様なコンピレーションアルバムを発売し続けている。


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