私が痩せない理由がわかった。
読書は、いつも新しい「気づき」をもたらしてくれる。
今週読んだ本は、私がなぜ痩せることができないか、その理由を教えてくれた。まったく、想定外にも。
私が読んだのは、『漂流者は何を食べていたか』 椎名誠 (新潮選書)。
お分かりのように、これはダイエットの本ではない。
作家であり、冒険家でもあり、漂流記マニアを自称する椎名誠さんが、古今東西の「漂流記」から食べ物に関する記述を抜き出したもの。
のっけから、すごい。
小型ヨットで大西洋横断中、マッコウクジラに激突され、沈没。
乗っていたのは結婚5年目の夫婦。彼らは190日間も漂流することになるのだが、ウミガメを捕まえて生で食べたり(美味いらしい)、カツオドリを素手で捕まえて食べたり(すごく美味いらしい)、しまいにはサメまで素手で捕まえて食べてしまう(しかも妻が)。
ニュージーランド沖合で転覆したローズ・ノエル号では、乗組員4人のうち1人に料理の知識があったおかげで、釣った魚を酢に漬けてマリネにしたりする。ヨットに積んでおいたコンロを引っ張り上げて、グリルして食べたりと、漂流しているとは思えぬ豪勢な暮らしぶり。
たった一人で大西洋をイカダで漂流したアメリカ人男性は、椎名さんをして「漂流者の暮しの手帖」と言わしめるほど、知恵と工夫に満ちている。
タッパーの蓋と空き缶とビニールで「真水精製装置」を作っちゃったり、イカダに群れるシイラ(大型の魚)で干し魚を作ったり、海中を漂う藻屑にくっついたエビやカニを食べたり。なんだか、ちょっと楽しそうでもある。
普通に生きていたら、一生体験することのない世界だ。
ところが、冒険家でもある椎名さん、似た体験ならしたことがあるというから驚きだ。「こういうときは、そうなるんだよね」と、まるで近所のおじさんが世間話をするかのようにサラッと説明してくれるので、非日常が日常みたいに感じられるのだ。
すごい。こんなに説得力がある人、そうそういない。
読んでいると、漂流も案外悪くないのかもしれないな、なんて思えてくる。
何より興味深かったのは、紹介されている漂流者たちが一様に「いかに美味しく物を食べるか」に心血を注いでいる点だ。
命を繋ぐことだけを考えたならば、魚をずっと食べ続けたっていいはずだ。
しかし、彼らはそうしない。他の食材を求めて目をギラギラさせている。
極限状態にあっても、目の前にある食材をなんとかして美味しく食べたいと、必死に知恵を絞る。
アラスカに流れついた江戸時代の日本人漂流者たちは、塩を振った焼き魚食べたさに、無人島で塩を精製する方法を編み出しさえするのだから、あっぱれだ。
漂流は、最初の3日間が勝負なのだという。
その3日間で、絶望したり、無気力になってしまうと助かる見込みはほとんど無くなってしまうそうだ。
ここで紹介されている漂流者たちは、当然、生還を果たしているわけだが、「美味いものを食う」という執念があったからこそではないだろうか。
ただ腹が満たされるだけではダメなのだ。心が満たされるためには、美味しく食べることが必要不可欠なのだ。
普段の生活においたって同じだ。
私の基礎代謝は1500㎉ちょっとだ。なので毎食500㎉に抑えて、30分ランニングすれば痩せるはずである。
毎年暖かくなるころにはランニングシューズを新調し、休みの日は10㎞走りこんでいる。しかし、私は痩せない。なぜか。
ラーメンも、唐揚げも、ハンバーグも、パスタも、ケーキも、大福も、止められないからだ。(そして、走ったあとに食べると格別美味い)
だって、美味しいものは、心を健康に保つために必要不可欠なんだもの。
オートミールで腹は膨れるかもしれないが、心はひもじくなるばかりだ。
絶望したり、無気力にならないで、日々を乗り切るため「美味しいモノ」を食べる。それが私の渡世術。
うん、今年も絶対、私は痩せないであろう。
さて、ワンサイズ上の春服を買いに行かなくちゃな。
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最後までお付き合いいただきありがとうございます。 新しい本との出会いのきっかけになれればいいな。