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娘の自立

スタジアムの向こう側に、線路がある。その構図は僕にとってたまらなく不思議なものなのだ。試合中に電車がやってくると、時折思わず視線を向けてしまう。

もし、電車に乗っている人が今日、車窓からこのスタジアムを眺めたらどう思うだろうか? ほぼオレンジ色に染まった観客席を見て、思わず息を呑んでくれるだろうか?

神奈川県大和市に本拠地を置く女子サッカークラブ「大和シルフィード」。厳しいリーグ戦、そして昇格プレーオフを何とか戦い抜き、なでしこリーグ2部へ昇格するチャンスを手に入れた。その最終関門は、今日と来週にホーム&アウェイ形式で行われる入替戦の結果次第である。対戦相手は岡山県に本拠地を置く、FC吉備国際大学Charmeだ。

この試合は昇格を賭けた試合であり、ホーム最終戦であり、かつもう一つの顔がある。それはGK小野寺志保の引退セレモニーがあるということだ。

御年43歳。日本女子サッカーのそうめい期からプレーし、代表選手としても活躍した。一旦は現役を引退したものの、地元クラブの誕生と共に復帰。まさに「大和女子サッカーのレジェンド」でもあるのだ。

そう、この試合は様々な思いを背負った一戦なのである。

独特の高揚感がスタジアムを包む中、キックオフ。そして、その高揚感が次第に萎むほど、厳しい現実が待ちかまえていた。

序盤から吉備国際大の激しいプレスがはまり、大和はなかなかボールをキープをすることができない。逆に相手の素早い攻守の切り替えからシュートチャンスを生み出され、前半16分に池尻のゴールが決まる。

何とか反撃を試みたいところだったが、「2部」と「3部」の間にはここまで実力差があるのか……という現実を突きつけられた。基本となるボールを蹴る、止める、奪う……。そういった一つひとつのプレーの差が、ゲームの差となりスコアの差になっていたのだ。

後半10分にも同様の数的不利の状況をつくってしまい、失点。ラスト5分は小野寺を投入し、スタジアムの雰囲気を変えようと試みたが、焼け石に水。0ー2で吉備国際大が順当に勝利し、残留へ大きく前進した。一方、まだアウェーに乗り込む第2戦があるとは言え、大和シルフィードを包む空気は重かった。

そんな現実を忘れさせてくれたのが、小野寺の引退セレモニーだった。スタジアム中を飛び交う激励と感謝の言葉。最後は小野寺自身が以前作成した歌(!?)も披露されるなど、文字通り涙あり笑いありの時間となった。

小さなクラブを育てるために立ち上がり、そして節目を迎えた今、彼女は去ろうとしている。一人の往来が、クラブの歴史と重なって見えた瞬間だった。

来週もまだ試合はある。でも、その試合を終えた後の大和シルフィードは、今までとは違うモノになっていることであろう。成長の先に待っているのは、自らの足で歩み出そうとする力強い心構えである


【追記】20日に行われた入替戦第2戦。大和は吉備国際大に0-2で敗れ、来シーズンもなでしこチャレンジリーグで戦うことが決定した。とは言え、来季もカテゴリーに関係なく、大和シルフィードというクラブを追い続けたいと考えている

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)