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劣等感と向き合った先で出逢った"野心家"としての自分〜1stEP「鈴木何某」楽曲解説①〜

2023年3月8日(水)、自身初のEPとなる「鈴木何某」を各種ストリーミングサービスから配信スタートした。自分の名をタイトルにしたこのEPは、その名の通り「名刺」的な作品になっている。僕のことを初めて知ったという人もいると思うので、まずは名刺交換だと思って楽曲を聴いてもらい、歌声と音楽に触れて欲しい。

さて、本記事では、EPの紹介と共に1曲目に収録されている「劣等コンプレックス」という楽曲について綴ろうと思う。

先日僕のYouTubeチャンネルにてミュージックビデオを公開したので、一度見てから本記事の続きを読むことを強くおすすめする。中年の男が「今」に必死に食らいつきながら、何かを追いかけて疾走する様子をとくとご覧あれ。

楽曲制作のきっかけ

昨年の夏から動き出していたEPのリリース計画。12月になると、ロゴやグッズの制作、先発シングル「一歩、一歩、」のリリースなど、EP発売に向け準備が本格化し始めていた。

基本一人での作業になるが、昨年はじめ頃に発足した「何某武道館会議」という頼もしいチームのバックアップのおかげで、あたふたしながらもなんとか計画通り進んでいた。

EPは既存のシングル3曲(※)に加え、新曲2曲を収録した5曲で構成し、曲順の1曲目は聴く側に新鮮な気持ちで迎え入れてもらうため新曲にしようと決め、楽曲制作に取り掛かることになった。

(※)
1.「MONSTER」…「自分は何がしたいのか」という疑問を極限まで突き詰めたハードロック
2.「蒼鷺」…母親とともに生活する中で感じた息子としての思いを手紙のように綴ったアコースティックなバラード
3.「一歩、一歩、」…自分が1番大切にしていることを見定め、ゆっくりでも歩みを進めようと誓ったシューゲイザーサウンドのバラード

EPの中でフックになるような楽曲にしたかったので、得意分野であるバンドサウンドで勝負しようとは思っていたものの、中々テーマが見つからず苦戦していた。

頭を悩ませながら向かったリビングでテレビをつけると、映し出されたのは新進気鋭のアーティストたちが煌びやかなステージで歌い上げる姿だった。コロナの規制が緩くなってきていたこともあり会場は大いに盛り上がっている。

仕事をしながら休日やスキマ時間に楽曲を制作している僕は、年末の繁忙期で疲れていたのか、テレビを見ながら「何やってんだ俺は」と少し卑屈になっていた。

先述のチームでのやり取りでもその悪い部分が出てしまい「頼むから卑屈になるな」と心配と励ましの言葉を繰り返しかけられていたのだが、どうもポジティブになれず気持ちが晴れなかった。

「何某武道館会議」のメンバーはほとんどが同級生で、忖度なしで尊敬できるメンツが揃っている。独立している公認会計士、アプリゲームの開発者、ブリーダー、映画の宣伝プロデューサー。

それぞれが目に見える功績を残しており、いろんな角度から鋭い意見を言ってくれる彼らのことが僕は大好きだったが、その反面羨ましかった。

恐らく気持ちが晴れなかった理由は、この他人を羨む気持ちが生み出した「大きな劣等感」にあったのだと思う。羨ましいと思う相手にいくら優しい言葉をかけられても、この劣等感が邪魔をして素直に受け入れることができなくなってしまう。

メンバーだけではない。アニメソングや有名なヒーローものの曲を手がけている作曲者も同級生、もうすぐチャンネル登録者が10万人に到達するYouTuberも同級生。そんな「すごい友達」に囲まれて、なんの功績もない自分が「浮いている」現状に、ただただ卑屈になるばかり。

この感情は今に始まったわけではなく、長い間自分の心に住み着く「悪玉菌」的な扱いをしていたわけだが、いつまでも当たり前のように居座るその悪玉菌の相手をしていては先へ進めないのはわかっていた。

自分はなぜ選ばれないのか」という疑問を紐解くことは、傷口に塩を塗るのと同じで痛みを伴い、21年間も日の目を見ない自分にとって触れてはならない、もとい開けてはならないパンドラの箱だ。

その頃には、曲がなんとなく頭に浮かんでいて、SCANDALの瞬間センチメンタル(鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTのエンディングテーマ曲)のような雰囲気にしようと思っていた。

アニソンのエンディングというのは、オープニングとは違い、少し暗めで厨二病のような独特な雰囲気の楽曲が多い印象なので、参考楽曲としてはピッタリであった。

タイトルを似せて「劣等感コンプレックス」と仮題をつけた。同じような意味が並んでしまったが「変なの」程度にしか思っておらず、まさか本当に「劣等コンプレックス」という言葉が存在するなどその時点では予想もしていなかった。


アートディレクター「今井祐介」

「劣等感って誰にでもあるものだよね」

自身の新しいロゴを制作するため、友人でありアートディレクターである彼と打ち合わせを行っていた。

アーティストとして一歩先へ進むべく、EPリリースと同タイミングでグッズ展開する為にロゴを作りたいとは思っていたが、作ってもらうならどうしても彼に頼みたかったのだ。

「東京マラソン」や卓球ブランド「VICTAS」のブランディングを手がけるなど、広告業界で第一線を走る彼に「本気なので、お願いします」とダメ元で頼んだところ、「焼肉奢ってくれるならいいよ」と依頼を快諾してくれた。

もちろん「友達だから」という理由が大きいが、気持ちを汲んで引き受けてくれた彼には感謝しかない。(焼肉って、麻布とかの聞いたことない部位出す高級店のこと言ってるのかな。)

ロゴ制作において重要なのは、本人がどれだけそのロゴを好きでい続けられるかどうか、だそうだ。打ち合わせをしたのは、僕の趣味趣向や現在の活動状況、どういった曲を、どんな思いで書いているのか探るため。

もちろん過去の話もするのだが、どうしても今考えていることに話題が偏り、気がつけば人生相談のような時間になっていた。もちろん劣等感についても話をし、俺にもあるよと彼は同調してくれた。

そして、話しているうちにひとつの仮説にたどり着く。

劣等感と野心は表裏一体。夢を追いかけ「上」を向いている証拠で、悪いことではないのではないだろうか。というものだ。

憎たらしい悪玉菌はただ不快であるだけで、味方につければと考えるとたくましささえ感じてくる。解決の糸口が見つかり、きっとこの曲を書き終えた頃には清々しい気分になるだろうと、その時は思っていた。


自分が「選ばれない」理由

1月中旬頃、歌詞を綴りながら「なぜ選ばれないのか」という答えを探っていた。曲、歌詞、歌、声、MV、プロモーションの仕方、普段のSNSの使い方。こうなりたいと思う理想像と今の自分の差を埋める為に必要なのは一体なんなのか。

答えが見つからないまま曲の制作は進み、サビはパっとしないが大枠が頭の中で完成したタイミングで「何某武道館会議」の新年会が開催された。

12月に行なった高円寺club ROOTSでのライブで久しぶりに対面しチームメンバーとなったブリーダーの彼も出席したのだが、会うや否や飼育状況をブワーっと語り出したのだ。

彼とは高校時代から6年間くらいバンドを組んでいたのだが、口数が多くも少なくもない印象だった彼が、マシンガンのように喋るのを見て本当に驚いた。何かに取り憑かれているのではないかと疑うぐらい。

その後、数時間行われた宴はあっという間にお開きとなり、帰りの電車の中で「なんであんな喋るようになったのだろうか」とほろ酔いしながら一人で悶々と考えていたのだが、それが引き金となって、チームメンバーの過去を思い出した。

公認会計士の彼は、長く付き合っていた彼女に「受かったらプロポーズする」と決め、全時間を勉強に注ぎ込み、見事国家試験に合格した。

宣伝プロデューサーの彼は、大学時代朝から晩まで狂ったように映画を見続け、学生映画祭の実行委員長まで務め、映画配給会社に就職した。

アプリゲーム開発者の彼は、遊ぶと四六時中そのゲームがいかに素晴らしいかをこと細かく語り、ゲーム機ごと僕に譲って布教していた。

彼らに共通しているのは、圧倒的な熱量の「愛」だった。

会うや否や飼育状況をマシンガントークで語り出したブリーダーの彼も同じ。とてつもない愛情は、他を巻き込み、目に見える形になる。

そして僕は「自分がなぜ選ばれないのか」という疑問の答えに、「夢に対する愛が足りない」と結論づけた。残酷だった。音楽が好きです、ミュージシャンになるのが夢ですと言うばかりで、僕の愛は、彼らの足元にも及ばない。

アートディレクターの彼はどうだったであろうと考えた時、別の思い出が頭を過ぎった。その日と同じように遊んだ帰りの電車で、その頃僕は一度やめた音楽を再度はじめようかどうか悩んでいるという話を彼にしていた。

すると彼は「高齢になってからカメラをはじめて有名になる人もいる。年齢なんて関係ない、やりたかったらやればいいんだよ。始めるのに、早いも遅いもないんだよ。」と言い放った。

その言葉に感化された僕は衝動を抑えきれず、最寄駅で下車するなり楽器屋へ向かいギターを買った。そのギターが、今ライブで使用しているアコースティックギターなのだ。

その後、僕は1st singleである「DAWを立ち上げろ!」を書き上げ、音楽活動を再出発することに決めた。3年も前の話だが、既にその時に答えは出ていたのだ。

ほろ酔いが冷めぬまま家の近くのコンビニでカレーパンを買おうとレジに並んでいた。劣等感に押しつぶされて言葉にこそ出来なかったが、僕にも心で静かに燃える「情熱」があったことを思い出した。

今か今かと噴火する瞬間を待っている野心家の自分の存在を認めた瞬間、パっとしなかったサビ部分のアイディアを閃いた。全ての条件が整い、あとは完成へ向け突っ走るだけ。

ちょうど僕の前で売り切れたカレーパンのことなど、その時の僕はどうでもよくなっていた。

「劣等コンプレックス」
作詞・作編曲:鈴木何某

すごい友達が僕には多くて誇らしいんだ
でも誰かに自慢する度虚しくなるんだ

選ばれていく仲間たちを
「見送る側」として何年経った?
残された敗北者の聞こえない叫び

今日もティクタク時が過ぎていく
街の風景も変わる
気付けなかった僕だけが
がらんどうのまま大人になった
アイツと比べて勝ち負けを
気にするちゃちなプライドで
あちこちが汚れたまんま

すごい友達はいつでも優しくて頼れるんだ
自分じゃどうにもならない悩みを
打ち明ける度虚しくなるんだ

いつだって頼ってばかりで
逆に頼られると日和ってしまって
優しさを利用してる 当たり前みたいな顔で

今日もティクタク時が過ぎていく
流行りの歌も変わる
決められない僕だけが
あの頃のまま歳だけとった
全部捨てられりゃいいけれど
素面のまま狂うような
名演技には腰が引ける

だけど、でも、だって、僕じゃ、
癖の悪い御託並べて

今日もティクタク時が過ぎていく
大事なものに気付いていく
浮き彫りになった非力さに
守る術などないと悟った

まだ間に合うのかこの距離で
まだ走れんのかこの脚で
何かを愛しはじめるのに
きっと早いも遅いもないか

コケて怪我をする度に
絶対と相対の狭間で揺らめいて
自分を信じられなくても
ティクタク時は過ぎていく
背負ってるものが変わる
他人と比べて勝ち負けを
気にしてる余裕なんてあるか?

愛することだけ夢中になれたら
選んでくれるか
僕は変わっていけるか

ティクタク時が過ぎていく…


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