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#6 車回しといて(高齢者施設での話)

高齢者施設(入所)での話。

今回はTさん(84歳/認知症あり/歩行不安定のため車椅子使用)の話。

この施設の食堂はカウンターキッチンのような作りになっており、職員が洗い物をしながらフロアが見渡せるようになっていました。
いつものように、コップやスプーンなどの食具やエプロンをゆすいでいるとTさんがカウンター越しに話しかけてきました。

「俺の車あとで回してくれる?俺の名前でわかるはずだからさ。」

と。

Tさんは経営者をしていたという話を以前から聞いていましたし、この車にまつわる話はよくしていました。いつも明るい笑顔で気さくに話しかけてくださるTさん。
私は『今日もお若い時の事を思い出しているのかな?』と捉え、
「わかりました、Tさんのお名前で確認しておきますね。確認できたらまたお伝えしますのでお待ちくださいね。」と、洗い物を終えた手を拭きながら伝えました。
そしてカウンターキッチンから食堂の方へ1歩出て、Tさんの方に目を向けると衝撃映像が。

それ座ってるの介助用の丸椅子ー!!!
なぜそれに座ってらっしゃるー!
車椅子どこ行ったー!
というより、どうやってここに来たー!?

色々な事が頭の中を駆け巡りましたが、とりあえず車椅子に座っていただきたいと思い、

「Tさん、車椅子はどうされましたね?お部屋にありますか?」

と聞くと、

「だからさっきから言ってるじゃない、俺の車回してって。あんた、確認してくれるんだろ?」

と。

車ってそっちー!?
車椅子の方ー!?

カウンター越しに話をしていた時には座っている高さも、車椅子の時とほぼ変わらず気づけませんでした。何よりケガをせずに丸椅子に座っている事が幸いでした。
ただ、いつも車の話をする時と同じ調子で車椅子の話をされていたことになんだかおもしろくなってしまいました。
他の職員に車椅子を持ってきてもらい乗り換えていただくと、

「ありがとう。それじゃあ、いつものところに車回しておいてね、用足したら向かうから」
と。
いつもの車の話に戻りました。

カウンター越しに話している時、いつもの様に穏やかな笑顔で話していた気がするけれど、
あれはわざとボケにいっていたのではないかと…だとしたら私のツッコミ0点だったな…。
Tさんなりのユーモアとして心に留めておいておくことにします(˶ᐢωᐢ˶)

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