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笑った動画を徹底分析「黒人が怒ってる動画にビートを流したらヒップホップになった 」編

約4年前、2017年3月29日に投稿されたこの動画は2021年3月25日現在1900万回再生。ミュージックステーションで流れたことでも話題となった本動画について今回は分析します。

結論から述べると、この動画で笑う理由は「視聴者が視聴前に想像したヒップホップから、動画におけるヒップホップが逸脱しているから」と考える。

動画概要

元ネタとなっている動画は下記動画。(視聴年齢制限がかかっているため、確認はYouTubeにて)

Blackの男性がスターバックスコーヒーについて怒っている動画であり、内容は簡潔にまとめると
「スタバにコーヒーを買いに来たのにも関わらず、店内ではフラペチーノやクッキーが全面に押し出されている。しかもコーヒーを注文したらコーヒーを切らしていると伝えられた」
というような内容。詳細は本動画の笑った理由とは直結しないと判断し省略したい。

このBlackの男性の話にOZROSAURUS の『Hey Girl feat.CORN HEAD』というビートを合わせたところ、それが妙にハマりヒップホップだ、というのが動画の大筋である。

OZROSAURUS(オジロザウルス)はレペゼン横浜で知られる、日本の伝説的ヒップホップバンドなのだが、それについても今回は省略して構わないだろう。

想像のヒップホップと現実のヒップホップ

本動画を分析するにあたって、精神科医・名越康文さんのコラムより人間が笑う理由を引用したい。

僕らの日常の笑いも、ほとんどの場合は「記憶」と関連しています。自分が何かをしでかしたり、変なことを言ってしまったとき、僕らは自然と笑います。しかしそれは、「今、このとき」の笑いではなく、自分の中で凝り固まっていた記憶や、固定観念が溶け出していくことを笑っている

本動画のタイトルは『黒人が怒ってる動画にビートを流したらヒップホップになった』であり、いわゆるオチが既にタイトルとして視聴者に提示されているタイプのコンテンツ
よって、視聴者は「Blackの男性の喋りがリズミカルでビートに乗せた時、ヒップホップになっている」という事象に対して笑っているわけではないことが分かる。

記憶の中にある漠然とした「ヒップホップ」という概念、そしてタイトルから想像した「喋りとビートの合致」超えるものが、動画にて提示されたことにより、僕らは笑っているのだろうと考える。

圧倒的リズム感の源流を探る

この動画の面白さが「想像からの大きな逸脱」であると仮定し、なぜ想像から大きく逸脱したのかを考えていきたい。

日本の英語の専門家達は,よく英語に比べて日本語のイントネーションはほとんど存在しないと言っている。もちろん,英語と日本語を比較村照するならば,このようなことは言えるかもしれない。しかし,日本語を他の言語と比べたとき,たとえば,韓国語と比べた場合には日本語のイントネーションはかなり重要な要素となってくる。
談話のイントネーションにおいては,いろいろな場合が想定できるが,結局は,基本的形式と変則的形式のバリエーションで,それが種々の環境下で複雑な関わり合いをみせていると考えることもできる。

人文科教育研究 29 2002年 pp.91-97
『日本語イントネーション研究 柳 京 子』

日本語は一般的に抑揚が無い言語と言われているが、細分化してみると小さな抑揚が複雑に絡み合っている言語という論文の引用。本動画の言語は英語であり、言語的な部分で抑揚が分かりやすく出ているのがまず一因と考えられる。日本語は複雑なイントネーションが絡み合っているが故、ビートに対してイントネーションがピッタリと合う言葉を当てはめないとリズム感とのズレが生じやすい。一方で英語は大きな抑揚さえ抑えてしまえば、ある程度ざっくりと合わせることが可能なのだ。

これにより想像の「喋りとビートの合致」を超え、アバウトなリズム感とピッタリと合うタイミングによる緩急が、想像の範囲内からの逸脱を生んだと考える。

まとめ:剥離しすぎないことによる面白さ

本動画は基本的にアバウトにリズムに乗り、合わせるところは合わせるという形で、USラップのメインストリームと似た構造になっている。

一般的な日本人のYouTube視聴者が想像するヒップホップから大きく逸脱しているが、どこかで聞いたことのあるUSラップの範囲内に収まっているからこそ面白さとして成立しているのではないだろうか。

神技やスーパープレー、仰天映像など世の中には多くのコンテンツがあるが、その中でも面白いものはこの想像の範囲内からの逸脱度合いが秀逸だと言えるのだろう。視聴者が漠然と想像する範囲を逸脱しつつも、枠組みの中には居る、というバランス感によって笑う要素になっている。

一度面白いと思ってしまえば、Blackの男性の表情や身振り手振り、背景のスターバックスまで面白くなってくる。根幹のコンテンツ力の強さとバランス感覚が重要なのだ。


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