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聖書がわかれば世界が見える | 本とサーカス

聖書がわかれば世界が見える
著者 池上彰
出版社 SBクリエイティブ
発売日 2022年


 「宗教」「聖書」という文字に身震いし、耳にしただけで嗚咽を漏らす。これは学生時代の私である。私はキリスト教徒でもなければイスラム教徒でもなく、唯一の神を崇拝するということが当時の私には理解できなかったからだ(そのくせ、宝くじ当選日とPKを蹴る前は神に祈っていた)。
 そんな私と同様、宗教アレルギーを抱えるがゆえに世界史にコンプレックスを抱く学生(社会人も)は多いのではないだろうか。本書『聖書がわかれば世界が見える』は、そんな宗教アレルギーの悩みを吹き飛ばしてくれる特効薬といえるだろう。  
 本書は、世界最大のベストセラー書籍である「聖書」を軸に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の成り立ち、そしてそれらの宗教がいかにして現代の世界情勢に関わっているかを丁寧に解説していく。学問のための宗教入門書でもあり、世界を見通すための解像度も上げてくれる一冊だ。

 先に述べた3つの宗教は全く別モノではなく、ルーツは全て旧約聖書にある。つまり、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も信じる神は同じだ。では、キリスト教とイスラム教はどのようにして生まれたのか。この流れが本書の第1章から第3章にかけて実にわかりやすく説明されている。時間ないという方は、とりあえずこの章だけ読んでもいいかもしれない。

 イエスは、当時のパレスチナ地方にある男性の名前です。当時のパレスチナ地方の人々の宗教はユダヤ教ですから、イエスもユダヤ教徒でした。
 ところが、イエスが処刑され、その後に復活して弟子たちの前に現れ、やがて昇天したという話がユダヤ人たちの間に広がるにつれ、ユダヤ教の救世主信仰にもとづき、「イエスこそが救世主(キリスト)ではないか」と考えるユダヤ人が増えていきます。彼らが「キリスト教徒」と呼ばれるようになったのです。

p.76

 3大宗教は時代の変遷とともに混じり合い、それぞれの主張を巡って争うようになる。ローマの衰退でキリスト教が東西に分けられると、キリスト教は「聖地エルサレム奪還」を掲げ、十字軍としてイスラム教の地を襲った。さらにカトリック、プロテスタント、イギリス正教会と宗派が派生し、今度は同じ宗教内で揉め始める。
 そしてこれらの歴史による怨恨は、忘却されることはなく、当然現代まで続いている。2001年に起こったアメリカ同時多発テロもその一例だ。

 2001年9月11日、アメリカは反米テロ組織「アルカイダ」の攻撃を受けます。(中略)
 この攻撃を受けて、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領(息子)はテロとの戦いを宣言。「これからは十字軍の戦いだ」と口走ってしまいました。これは、あってはならない誤りでした。イスラム世界の人々にとって、「十字軍」とは、自分たちの土地に突然攻めてきたキリスト教徒たちの軍隊です。アメリカの大統領が「これからは十字軍の戦いだ」と宣言することは、「これからイスラム世界を攻撃するぞ」と言ったも同然の意味になってしまうことだったからです。(中略)イスラム世界の過激派たちにとって絶好の口実となりました。(中略)歴史を知らない、あるいは歴史を一知半解にしか理解していないことの恐ろしさを痛感します。

p.190,191

 それにしても、自分たちの神様がNo.1であり、自分たちの聖書にこだわり続け、その挙げ句に殺人や戦争まで起こす暴挙に出る。その一神教の他宗教への不寛容さはどこから来ているのだろうか。

 その昔、ガリア(現フランス、ベルギー一帯)を制圧したユリウス・カエサルは侵略した部族たちを捕虜にも処刑にもせず、自由とローマ市民権、そして自治権までも与えた。結果、それ以降ガリアでは大規模な反某が起こらず、首都ローマは多くの異民族で溢れ、文明が発展。長きにわたる平和が訪れた。そのことを人類が忘れたわけではあるまい。


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