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学校では教えてくれない地政学の授業 | 本とサーカス

学校では教えてくれない  地政学の授業
著者 茂木誠、文化放送
出版社 祥伝社
発売日 2022年



地政学」とは何か。

 この問いに対し、著者である茂木誠氏は「地政学=縄張り争い」と定義している。
 例えば、マンションの隣人にいかにもヤクザ風の強面な男が引っ越してきたとする。その男は毎日のように仲間を家に呼び、深夜3時ごろまでどんちゃん騒ぎを起こす…。
 「すみませーん、ちょっと静かにしてもらえますかぁ?」と文句を言いに行けるほどの鋼のメンタルがあれば別だが、このような場合、たいていの方は「引っ越す…か」とSUUMOで新たな物件を探すだろう。
 個人の場合は容易に引越しできるが、それが「国」となると引っ越しはできない。当然だ。中国の上には必ずロシアがあり、朝鮮半島の隣には必ず中国がある。この地理関係からは永久的に逃れられない。となれば、各国は知恵を使って縄張り争いをするしかない。厄介な隣人たちをどうコントロールするか、と思考を巡らせるしかないわけである。
 動物の縄張りのように国にも縄張り(領土、領海、勢力圏など)があり、「A国とB国の対立」、「A国とC国の同盟協定」といった事象を地理関係から理論化して考えようというのが地政学である。

 さて、改めて。
 本書は文化放送のラジオ番組「オトナカレッジ」(2013年-2016年)で放送された内容を書籍化したもので、進行役の砂山アナと茂木氏の対話形式で話が進んでいく。対話形式ということと、2人の言語化能力が高いこともあり(掛け合いもスキ)、読み手側は生徒になった感覚で面白いほどスラスラと読み進めることができる(本はゆっくりじっくり読みたい「遅読派」の私ですら、東京〜大阪の新幹線の往復で読み終えてしまった)。

 本書では「ランドパワー」と「シーパワー」という2つの地政学用語を使って話が展開されていく。この言葉は現代地政学の祖ともゆわれるハルフォード・マッキンダー(1861-1947)によって提唱された概念で、ランドパワーとは「大陸国家」、シーパワーとは「海洋国家」を指す。つまり、ユーラシア大陸にある中国、ロシアはランドパワー、海に囲まれた島国である日本やイギリス、そしてアメリカはシーパワーだ。
 この2つのパァワァー!(きんに君)だが、「ランドパワーはシーパワーを攻めても勝てない」という歴史の教訓があるという。わかりやすい例が、13世紀に起こったあの「元寇げんこう」である。当時強大なランドパワーであった「モンゴル帝国」は清朝がつくった船に乗り込み、14万人の大軍を率いて日本に向けて出航した。しかし、日本列島に上陸する前に嵐に遭い、全滅してしまう。遊牧民族であるがゆえに「海を渡る」という経験がほぼなかったモンゴルは、嵐に対処できず、泳ぐこともできなかったのだ。
 他にも、倭寇を除いて初めてシーパワー(イギリス)が中国を襲った「アヘン戦争」(1840年)、そして「日清戦争」(1894-1895年)と中国は続けてシーパワー国家に敗北し、中国は歴史上1度もシーパワーの国に海戦で勝っていない。その一方で、豊富秀吉の「朝鮮出兵」のようにシーパワーの国がランドパワーの大陸に深入りすると失敗する、という教訓もある。オモシロイ!

 中国の他にも、本書ではアメリカ、ロシア、イギリス、そして中東の情勢を歴史的背景を交えつつ、ランドパワーとシーパワーを用いて地政学的視点から紐解いている。
 本書を読めば、頭の中でふわっとしていた世界情勢の「なぜ」が相当クリアになり、空いていたピースが埋まった時のような快感を覚えることは間違いないだろう。

 是非、ご一読あれ。



※本書とは関係ないが、駿台予備校の世界史講師である茂木氏のYouTubeはまさに有料級である。もし私が学生の頃この講義を受けていたら少なくとも世界史で赤点を採ることはなかった!!
 世界史が苦手な学生は、世界史の全体像を把握するのにこの動画を見ない(正確には聴かない)手はない。ラジオ感覚で是非〜。



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