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東大VRサークル UT-virtualを営んだ話(2/3)

 こんにちは。まつさこです。

 先日東大VRサークルUT-virtualの代表を引退し、立ち上げから3年目までサークルを営んで感じたことの備忘録を書き連ねています。

1話目はこちら ↓ ↓ ↓

 さて、前回の続きです。

~サークル一年目の運営の壁~

 1年目にしておよそ60人という数の学生が加入してくれたわけですが、部員皆にとって価値のあるサークルであるためには、日々の活動についてしっかりと考えなければいけません。
 1年目の新入生を入れる際の方針として、「ゴリゴリの技術系サークル感は出さずに、文理・男女・学年を問わずVRに興味のある人は誰でも気軽に入れるような雰囲気にしよう」と当時の代表が打ち出していました。その方針が功を奏して本当にいろんな大学、学部、バックグラウンドをもった学生が加入してくれました。

 しかし門戸を大きく広げすぎたデメリットが徐々に明らかになってきました。「VRが好き」とはいっても、いろいろな形があります。「まだあまりよく知らないけど面白そうだから加入した」「自分で作ることには興味はないけどみんなで遊びたい」「HMDを使った体験を作りたい」「何か作ってみたいけど、自分が何が出来るかが分からない」。
 そういった部員の様々な興味・思い・スキルの違いに対応できるほどサークルとして成熟していませんでした。発足してから半年もたっていないので当然と言えば当然です。
 ・新歓の際にとにかく門戸を広げたため、新入生の期待や理想がバラバラだった。
 ・全員が「UT-virtual1年目」なのでサークルでどういった振る舞いをしていいか分からなかった。積極的に遊びに誘い合っていいのか、サークルの資材でゴリゴリ開発していいのか、待っていたら定期的にイベントが開催されるのか、など...

 また、1年目はサークルに入ってから「VR体験を自作したい」と思ってくれる人が少なかったように思います。まだ開発環境や教育体制が整ってなかったことが理由として挙げられますが、一番は「UT-virtualでものづくりをすることで何が生み出せるのか、自分がどういう人間になれるのかが明確でなかった」というのがあると考えます。
 ある程度続いた学生団体なら、先輩を見ることで、サークル活動を経て部員は何を生み出し、何を得てどんな人間になっているか、が分かります。しかし1年目のUT-virtualには、UT-virtualでの活動を経て得たものを示してくれる先輩などいるはずもありません。サークルで作ったVR作品もほとんどないに等しいので、「自分もこのサークルにいればこういう風になれるんだ!」という一種のあこがれの対象のようなものが存在しません。

 それらを踏まえたうえで、運営に深く携わる僕がやるべきことは明確でした。
 ①数年後の先輩後輩の概念が存在するUT-virtualのあるべき姿を想像し、それに向けて体制を整えること。
 ②誰よりも手を動かし、フットワークを軽くして来年以降の後輩たちに憧れられる先輩になること。

 後輩たちに憧れられる先輩になる、というとなんだか傲慢で小恥ずかしい感じもしますが、意外と大事な意識だと思っています。前に所属していた運動部でも言われていたことなのですが、後輩に(限らず同期や先輩にも)尊敬され憧れられるよう努力することは、自分の成長のためにも、団体の成長のためにも、一番簡単で効果があります。人間、誰かに尊敬されるのは好きですし、部員の誰かを尊敬し自分もそうあろうとする連鎖は、団体全体を相乗的に向上させます。もちろん、「俺は憧れられる先輩になる!」と頻繁に豪語するのはオススメしませんが。

 上の①の実現を頑張っていれば②は自然と達成されるだろうと高を括っていたので、②については常日頃考えてはいませんでした。
 とにかく①の「数年後のUT-virtualのあるべき姿を想像し、それに向けて体制を整えること。」について、この2年半、年がら年中考えていたように思います。


~1期生のメリット少ない問題~

 さて、いざ活動内容を考えるとなった時に、学生団体の活動としてまず前提となるのは、「構成員が大学生活における時間を費やす価値のある活動であること」です。それと同時に運営側で考えなければいけないのは「団体が後世も続くように持続可能な活動であると同時に、将来その運営を行う人材の育成にもなる活動であること」です。
 前者についてはある程度やりやすいです。部員が楽しいと感じ、得るものがあればいいので、試行錯誤はしながらも最適解をみつけることは可能です。しかし後者は簡単ではありません。なぜなら団体の持続のための活動は、多くの場合個人の直接的なメリットにはならないからです。これは特に、毎年卒業と加入を繰り返し代替わりが行われる学生団体ならではの問題でもあります。代表者や運営陣が頻繁に変わることのない会社などの組織は、組織力の向上が長期的に見て構成員個々人のメリットにつながることが多いです。しかし学生団体は、4年制大学の場合は3~4年で組織から身を引くことになります。ようやく運営陣として参画できる上級生になって、組織の持続や向上のために努力した結果は、直接的に自分に返ってくることはありません。すべて後輩たちのメリットになります。
 しかしそれでもなぜ多くの学生団体が成立しているかというと、自身も下級生の時にその恩恵を受けているからです。右も左もわからない1年生や2年生の時は、先輩たちの作ってくれたルールに従って、うまくいっている場合はそのメリットを享受しながら年を重ねます。そして上級生になった時には自信が運営として後輩たちにメリットを与えられるよう活動します。
 つまり、先輩から受けた恩を後輩に返すのです。シンプルでありながら、学生団体の大原則であり、一方である種の呪いのようなものでもあります。

 お分かりかと思いますが、発足1年目のサークルには上の大原則が当てはまりません。先輩から受けたメリットなど存在しません。先輩がいないので。

 五月祭を終えて2017年6月くらいから、毎週の定例会で講習会を開いたり、企画局や技術局といった運営チームを結成したりして日々の活動の活性化を促しました。しかし講習会での部員への教育や、部員のメリットを考えての企画運営は、前述の理由からなかなか全員のモチベーションは保てませんでした。
 定例会を講習という形で誰かが一方的に教育を施すのではなく、輪講のように全員で平等に情報共有し向上していく形も何度か試したのですが、僕も含め部員がそういった取り組みに不慣れだったこともあってなかなかうまくいきませんでした。

 一方で、VR体験の開発や、展示による普及啓蒙活動については積極的に行うことが出来ました。
 夏には「UT-virtual夏フェス2017」を主催したり、11月の文化祭の駒場祭でもチーム開発の体験型展示を出展したりと、サークルの理念である「VR技術の体験創造と普及啓蒙」を軸として活動をつづけました。

 駒場祭では教室企画のWonderSphereVRのほか、スマホARを使った体験にチャレンジしたり、東大美女図鑑さんとコラボして美女図鑑VRを開発するなど、活動の幅をより広げていきました。

 今になって思い返すと、展示の機会に作品制作に関わり、積極的に手を動かしてくれたメンバーは今でもサークルに残っています。逆に作品制作よりもサークルの運営に深く携わってくれたメンバーは去ってしまった人が多いです。
 数年後に安定したサークルであろうとして焦っていた僕の責任も感じますし、1年目のサークルとして避けられない運命だっただろうとも思います。

 学生団体の運用には本当に様々な要因が絡み合っているため、僕の力ではうまく文章にまとめられないのですが、1年目の運営を通じて僕の中では次のような考え方が追加されます。
 ・理念であるところの「体験創造と普及啓蒙」に直接的には関係のない、組織の継続や雑務に関する運用は、""団体が若い現時点では""それに耐えうる少数精鋭で行う。
 ・門戸を大きく広げすぎず、ものづくりをするサークルであることをもう少し強めに推しだす。

 「運営に耐えうる少数精鋭」とはどういった人か?
 先輩の代がいない若い学生団体の運営は個人へのメリットが少ない、という状況に対して、自ら何かしらのメリットを見出し、ポジティブにとらえられる人のことです。これはかなり傲慢な押し付けとも捉えられますが、これが出来る人を見つけてお願いしないことには、サークルは崩壊してしまいます。
 もちろん、細かい部分で多くの部員に運営を手伝ってもらい、それでとても助かった場面も数えきれないほどあります。しかし運営のコアを担い、常日頃サークルの存続と部員の幸せについて考える人間は、少人数のほうが当時は都合がよかったです。


~執行代と学年問題~

 サークルのことを常に考え、運営のコアを担う人はサークル1年目当時は少人数の方がよかった。逆に言えば2019年秋の今は少数精鋭である必要はなく、むしろ「執行代にあたる期」の部員全員が当事者意識をもって考え、発言し、試行錯誤していくべきです。

 なぜ当時と今で状況が変わってくるのか?それは、サークル1年目は「サークルの代」と「学年」が一致していないからです。UT-virtual2期生の多くは現在大学2年生ですし、3期生のほとんどは大学1年生です。しかし1期生の場合は、学年がバラバラでした。そもそも1期生の全員がサークル1年目なので、「1期生が執行代である」とするのはかなり乱暴ですし、事実そうは成り得ません。
 学年も違い、インカレサークルなので大学も違うとなると、みんなの予定はなかなか合いません。
 予定も合わせづらくサークルのことをずっとみているわけでもなく、しかも先代から何かを得たわけでもないサークルの運営について親身に考え、そこに何かしらのメリットを自分で見いだせ、というのはだいぶ酷な話です。なので、今まで継続して所属してくれて、運営にも親身に携わってくれた、2代目の副代表らをはじめとした1期生には感謝してもしきれません。

 ちなみに余談ですが、僕がUT-virtualを運営する中で個人的に見出していたメリットはいくつかあります。箇条書きにしてしまいます。
 ・サークルのコア運営をする過程で、先生方や社会人の方、他の学生団体の学生の方と知り合えることは人生の財産になると感じたから。
 ・学生団体とはいえ構成員を取りまとめ、組織の継続と質の向上のために頭と身体を使う経験は、貴重なものであると思ったから。
 ・自身が心酔し、その未来を信じているVRやARといった技術に深く関れることが楽しいから。
 ・UT-virtualは産学官どこにも属さない立場にあると捉え、発展途上の日本のXR業界において中立的でかつ人材輩出の面で価値のある団体になると確信していたから。
 
こういったことを自身のメリットとして感じることが出来ていたため、サークルを運営していく中で嫌気がさしたり苦に感じることは一度もありませんでした。

 何はともあれ、サークル1年目の2017年度はなんとかうまくいったように思います。
 長くなってしまったので続きは次の記事に書きます。次は2年目をめちゃくちゃ重要視した話をします。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

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