10歳の少年の目線で観る「反ヘイト・親ピース」

2020.02.01
"イマジナリーフレンド(想像上の友人)”がヒトラーであるほどナチスに心酔している10歳の男の子ジョジョ。
心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられる。
そして母親によって家に匿われているユダヤ人女エルサと出会うことによりジョジョの物語は大きく動き出す。
アカデミー賞6部門ノミネート1部門受賞したタイカ・ワイティティ監督の映画「ジョジョ・ラビット」

映画『ジョジョ・ラビット』公式サイト http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/

この映画はビートルズのドイツ語版「I Want To Hold Your Hand」が軽快に流れるところから始まることに代表されるほど、カラフルにコミカルにそしてポップに展開される。

ジョジョ・ラビットにまつわる音楽の話はこちらもどうぞ!-「オスカー作品賞ノミネート! 映画『ジョジョ・ラビット』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム) https://www.tbsradio.jp/450104

ジョジョの母親ロージーは戦時中とは思えないほど、毎日素敵な服を着てジョジョを大きな愛で包み込む。イマジナリーフレンドであるヒトラーとの掛け合い・親友の少年ヨーキーとジョジョの交流もお笑い番組で披露されるコントのようだ。
少しセピアがかった画面やおしゃれな衣装や美術を見てウェス・アンダーソンの監督の映画の雰囲気を思い出す人も多いかと思う。

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しかし監督が自らインタビューで語った
「この映画は"反ヘイト・親ピース”だ」の言葉にもある通り、映画の主題は戦争の愚かしさを提示させるものだ。
それでいてこの映画のすごいところは単に反戦映画の枠にとどまらず、ボーイミーツガールであり、少年の成長の話であり、家族や友人への愛の話でもあること。
それを実現しているのがオーディションで選ばれた主役のローマンくんの表情と、描かれる魅力的なキャラクター造形である。

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わたしは映画館で2回観賞。どちらももれなく
目が融けるのではないかと思うくらい泣いているが、どうしても涙をこらえきれない場面として
必ず「足元の演出」がある。
10歳になっても靴紐が自分で結ぶことができないジョジョ。
この”ひもを結ぶ“行為そのものがジョジョの成長を象徴的に表すものにもなっている。
たとえば、「愛は最強の武器なのよ」と言ってジョジョの靴紐をママが結んでくれた場面。
ママの不在中に突然訪問してきたゲシュタポの大人たちは、のっぽで顔が青白くてきっとジョジョにとっては本当のお化けみたいな存在だったかもしれない。
ナチスのポスターを貼るときの背伸び、見上げた先で見つけた蝶々。
そのあとに起こる悲しい出来事も。(涙腺崩壊シーンだからぜひ映画を見て確認してほしい)

しばしば挟まれる靴紐を結ぶ”目線”が幼いジョジョの目線とリンクする。

また、ジョジョの周りの大人たちが信じられないくらいやさしいのだが、皆なにがしかの”マイノリティ”であることが示唆されている。
マイノリティでありながら戦っていたひとたちの姿は監督の言う「反ヘイト」へのひとつの描写なのかもしれない。

恥ずかしながらMCU(*)作品と縁がなくタイカ監督の作品を初めて見たのだけど、人生でのベストに入る映画に出会えたと感じるほどに素敵な映画。
私も映画のなかでジョジョを守ったあの優しいおとなたちのようにありたいとも思わせてくれた。

*MARVEL CINEMATIC UNIVERSE
MCUの「マイティ・ソー バトルロイヤル」はタイカ監督作品

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