【ぶんぶくちゃいな】香港の叫びを忘れない:「理大囲城」から「時代革命」、そして台湾

「中国ニュースクリップ」でもご紹介した通り、10月14日まで行われていた山形国際ドキュメンタリー映画祭のコンペティション部門で、2019年に香港で起きた一連のデモの大きな山場となった、香港理工大学包囲事件を描いた「理大囲城」が大賞にあたる「ロバート&フランシス・フラハティ賞」を受賞した。

今年は同映画祭がオンライン上映としてくれたおかげで、わたしも自宅にいながらにしてやっとこの「理大囲城」を観ることができた。

理工大学包囲事件は2019年に香港で吹き荒れたデモの嵐とそれにまつわる出来事の中で、最も市民の心の疵となっている事件の一つである。理工大学は市内ど真ん中にあり、誰しもがそばを通ったことがあり、その地形もよく知るランドマーク。そこに付近で警察と衝突した後逃げ込んだデモ隊が、周囲の出入り口をほぼ完全に警察に封鎖されたキャンパスで、13日間の籠城を余儀なくされた。

事件中、香港では終業時間になると人々はさっさと帰宅して、テレビやネットに流れる現場からの生中継を見守った。おかげで街はゴーストタウンのようになったと聞く。その注目度においては、かつての日本のあさま山荘事件(1972年)に近いものの、同事件と大きく違うのは理工大学事件で市民の多くが気遣っていたのは、閉じ込められたデモ隊と市民のことだった。

映画「理大囲城」を巡って起きた事態については、「【ぶんぶくちゃいな】国安法下の香港――揺さぶられる芸術政策 」の冒頭でもすでに触れた。今年1月に香港のプロ映画評論家たちが作る「香港映画評論学会」が選出する「2020年度最優秀作品大賞」に選ばれ、大きな注目を浴びた。しかし、同時に親中派から「香港国家安全維持法(以下、国家安全法)に触れる作品作りをする団体の存在を見直し、またその資金支援体制を見直すべき」という大批判を引き起こした。

その結果、これまでほぼ性や暴力にのみ制限が加えられていた映画検閲制度の基準に国家安全法への遵守が組み込まれ、政治的検閲が加わった。そして、「理大囲城」の配給元だった映画人グループNGOであり、香港の重要なインディペンデント映画支援団体「影意志 Ying E Chi」(以下、「影意志」)に対して、政府芸術発展局は今後1年間の資金支援を中止することを通知した。この処分は予想されていたとはいえ、まだまだ政府の活動支援を受けなければ十分な活動資金を得ることが難しい文化・芸術団体にとって、自己規制という「口封じ」への脅しとなった。

かつては、東洋のハリウッドと呼ばれた香港映画界。そのお気楽で自由、そしてさまざまな主張と多種多様の表現が可能だった香港映画界は、一挙に国家安全法という「政治の枷」をはめられてしまった。

●籠城者たちの叫び


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