【読んでみました中国本】 「政治的分析はお控えください」――でもやっぱり比較してしまう面白さ:ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

◎ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

正直な話、この本を読むまで中国作家のSF作品がこんなに面白いとはこれまでまったく知らなかった。

この「読んでみました中国本」で何度も書いてきたとおり、わたしは大人になってからほとんど小説を読まなくなった。なので大人になってから暮らすようになった香港や中国でも、あまり当地の小説には関心を払ってこなかった。

だいたい、もともとわたしが暮らしていたころの香港は、「知識よりも情報」「小説よりも映画」という価値観で書籍が話題になることはほとんどなかった。中国は中国で、1990年以降の経済成長の波に乗ったポップな都市小説がもてはやされるようになった一方で、昔ながらの土くさーい農村文学が大手を振っていた。どっちも一応手にとったことはあったが、個人的な楽しみとして読み続けたいというほどではなかった。

だいたい、中国という国は調査報道記事を読んでいるだけで、それこそ小説になりそうな話がごろごろある。文字通り「事実は小説よりも奇なり」なにを好き好んで、それらに背中を向けて現実を回避して作られたフィクションを読まなければならないのか。いや、今でもその思いはあまり変わっていない。

だが、本書にも顔を出す劉慈欣が2015年、その作品「三体」で中国人としては初めて、世界SF大会で送られるヒューゴー賞長編小説賞を受賞したときに、ジャーナリストの間でもちょっとしたブームを引き起こしていた。その話題ぶりにわたしも「三体」の電子版を買ったのだが…やっぱりいまだに読んでいない。

「三体」は三部作という大長編なので根性入れて読む必要があるので、というのはただの言い訳ですね、ゴメンナサイ。

とはいえ、今回ご紹介する「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」は、7作家の中短編13作品が収められているので大変読みやすいはずだ。ちょっとわたしも中国SFにはまりかけている。

●中国SF紹介の名プロデューサー、ケン・リュウ

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