【読んでみました中国本】「目からウロコ」の日本人と中国人の関係 :陳舜臣「日本人と中国人」(祥伝社)

◎陳舜臣「日本人と中国人」(祥伝社)

初版は1971年で、1978年と1984年には別の形式で再度出版され、2005年に再び新装版として出版された。わたしが手にしたこの新書バージョンは、オリジナルを出版した祥伝社から昨年12月に、新たに天児慧・早稲田大学教授のあとがきをつけて復刊されたものである。

日中国交回復が1972年だから息の長い本だ。著者もあとがきで、国交回復への気運が高まる中で執筆した本だったと述べている。だが、そんな時代のムードと熱意にほだされることなく、当時求められた「時事」を“あえて”書き入れることをしなかったことが長寿につながった。

「日中国交回復秘話」類の話なら、わたしも今さら手にとることはしなかった。実のところ、著者である歴史小説家の陳舜臣氏の名前は知っていても、彼が書く小説はとんと読んでいないような人間である。だが、中国事情に触れる話題をテーマにしたエッセイはこれまでも大変面白く読み、参考にしてきた。だからこそ、亡くなった後に復刊されたこの本を手に取ったのである。

「”同文同種”と思い込む危険」というサブタイトルが、特にわたしの関心を引いた。書棚の隣にはやはり祥伝社が同時に復刻した、イザヤ・ベンダサンによる同名の「日本人と中国人」が並んでいたが、今やベンダサンがその「訳者」の山本七平氏ご本人だということはほぼ既成事実となっているので、日本人、それも中国とはなんの関わりもない「ユダヤ人」に扮した日本人が描く「日本人と中国人」にはなんの興味も感じなかった。

日本で生まれ育った華人として、中国歴史小説を書く陳舜臣が論ずる「日本人と中国人」とはいかなるものか、を読みたいと思ったのである。

●「歴史は中国人の魂のよりどころ」

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