【読んでみましたアジア本】死とクスリとエロを求めて数千里…痛快!/杉山明『アジアに落ちる』

いやー、痛快! こんなアジア旅行記があったとは! この書評号を初めてかなり経ちますが、アジア本をこんなに楽しみながら、ワクワクしながら読んだのは久しぶりかも!

もし、アジアって純真だとか、純粋だとか、気高いとか、「アジアを愛する自分は崇高」だと思っておられる方がおられれば、本編はここで終わりです。ご精読ありがとうございました!

あとがきによると、著者は美術家、そして作家とある。ほかでさらさらっと調べてみたら、1959年生まれで、1982年渡米し、ニューヨークでしばらくアート活動をした後、ギリシャ、イタリア、スペインで暮らしたという。1993年に日本に帰国したのは、通称「ババチョフ」、著者の母のガン発見だった。

現実の知り合いを見ていていつも思うのだけれど、行動力のある人ってだいたいがその親御さんも活動的な生活を送っていることが次第にわかってくる。たぶん、活動的な親に子供の頃からいろいろ連れ回されて、その背中を普通に見て育ってきた子は自然にそのペースで自分の人生を歩んでいくのだろう。それは大人になってからどんなに意識的に真似てもそう簡単に真似ず、ペースがつかめずぷはーっとなっている横で軽々と行動的な日々をこなしていく人を常に羨ましく思ってきた。

世界40カ国を流浪したという著者のDNAも、喫茶店を経営していたこの「ババチョフ」に大きな影響を受けているんだろうな、と思う。今の起業ブーム時代ならともかく、昭和の時代に女手一人で喫茶店をやるなんて、そんな簡単なことではなかったはずなのだ。

だが、一時は回復したかのように見えた母はその後、筆者が見守る中、病院のベッドで息を引き取る。男性が一人、母親を見送るとき、どんな思いがこみ上げるのか。筆者は酸素マスクを外した母親の唇にキスをする。そして、その母親の姿を「一番美しい母」と記している。

●「オレたちは死を食って生きている」

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