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【読んでみましたアジア本】韓国も日本も、まだまだ道は遠し…とため息:チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』

1945年の敗戦後に「民主主義国家となった」と自認する日本と、87年に民主化を宣言した韓国。

本書で描かれる1982年韓国生まれの主人公と夫や姐弟たちの世代は、まさにそんな、前時代の残滓の中で民主主義が進む時代を育ってきたという設定か。一方で、日本人で「前時代の残滓の中を民主化とともに育った」世代はすでに80歳近い。本書の主人公たちと同じ世代の日本人は、ほとんどが「民主主義の日本に生まれ落ち、育った」と思っているはずだ。

まだ、40年程度の民主化において、さらに前時代である軍事政権への激しい怒りから巻き起こったさまざまな社会情勢や感情(含む対日感情)については、2020年8月のこの「読んでみましたアジア本」で澤田克己著『半日韓国という幻想 誤解だらけの日韓関係』を取り上げた時に書いたので、ぜひそちらを読んでいただきたい。

前掲の澤田本は韓国国内の民主化への動きが「日韓関係」という外部関係にいかに影響したかを紐解いた一冊であり、そんな変動の過程を経てきた韓国人たちがどんな国内環境で育ってきたのかが描かれているのが本書だといえるかもしれない。当然ながら、ここに出てくる人たちが一方で我われが対岸から目にしている韓国という国を形成していることになる。

小説という形をとる本書はさらに「フェミニズム」の視点に経って描かれる。Amazonの書評欄を見ると、たぶんもともと「〜イズム」が苦手な人による批判的感想コメントも見られるが、圧倒的に本書を「良書」とランク付けした人が格段に多いことから見ても、本書の翻訳出版が日本人読者にもたらした意味はやはり大きいと考えるべきだろう。それはたとえ、本書を読んで「自分が知らない」「自分は体験しなかった」「自分は関係ない」と主張する人がいるにせよ、これだけ多くの人たちが現実の出来事だと認識している事実は、無視できないはずだ。

●「神がかり」という面白いアプローチ

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