【読んでみましたアジア本】二つの国を隔てる「民主主義」意識の違い:澤田克己『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)

この本を手に取ったのは、最近仮店舗に移転した某大型書店をのぞいた時だった。改装期間中の仮店舗だから本店舗よりもずっと狭く、並べられている書籍の数も明らかに少ない。予想したとおり、中国、アジア本の棚を見てもこれといってめぼしい本も見つからず、「またネット検索するしかないかー」と思いながら離れようとしたときに、ふと、本当にふと、目をやった書棚で見つけた。

この「読んでみました」を読み続けてきた方はすでにうすうすお気づきだろうが、「アジア本を読む」と言いながらわたしはこれまで韓国本を取り上げたことがなかった。

もちろん、韓国の翻訳小説がベストセラーになっていることも知っているし、エンタメや文化ブームのおかげで中国本よりも良質な書籍が出ているらしいことも、また真摯な書き手が育っていることも知っている。だから、韓国本の話題は中国本のそれよりもずっと広く深く、また多岐に富むことにも勘づいている。

それがわかっていながら韓国本には正直手が伸びなかった。

その理由の一つ、そして最大の理由が、わたしが韓国に対して基本的になんの興味も抱いていないことだ。

これだけ大流行の韓国のエンタメにもポップスに関心がなく、見るには見たがあまりのめり込めなかった。「ガンナムスタイル」の大ヒットにはいろいろ楽しませてもらったけれど、そこから韓国ポップスの世界に深入りすることもなかった。韓国コスメももらってありがたく使わせてもらったけれど、自分からリピートしたものは一つもない。韓国料理のチゲやビビンパは大好きだが、その他焼き肉系の韓国料理は嫌いでこそないけど、「食べたい!」という思いを抱いたことがない。晴れ、ときどきパスタかチゲ、みたいな感じである。

とにかく触れたことは多少あるものの、自分にひっかかるものがここまでないことも珍しい。だが、それは決して「嫌い」という思いでもない。文字通り興味へとつながっていかない。

この状況を本書でも触れられている「感情温度」(「中立」を50とし、「好き」なら51から100まで、「嫌い」なら1から49までの数字で表現する)を引用していうならば、50という感じ。それも51にも49にもほぼぶれないほどのガチぶりなのだ。

もう一つ、心のどこかに、「自分がかかわる『面倒くさい』国は一つでいいや」という思いがずっとあることも認めておこう。

この「面倒くさい」というのは、別に相手の国のことを「面倒くさい国」と責めているわけではない。すでに長く付き合ってきた中国を見ても、日本人がこの国とかかわるときの「面倒くさ」さは中国側だけが理由ではなく、両者のボタンの掛け違いによるところが大きく、ひたすら「自分が理解できない」からといって相手を責めてもだめなのが外交なのである。

そして中国でも深く入り込めば入り込むほど、両者の間であまりにも掛け違えた部分が多いことが日に日に明らかになる。そしてその上にまた新たに掛け違いを続けており、そんな「掛け違い」からくる誤解を解くために消費するエネルギーは半端ではない。ときにはすでに掛け違えた状態にすっかり慣れきり、そのことを疑うことすら知らない人たちからの反撃も食らう。「掛け違えてるのはあっちだ!」と。迷惑なことに。

中国に関っていくうちにそんなことにはある程度の免疫が出来ているが、新たにもう一つ、そんな対象を抱え込む余裕はさすがにない。

日本語で流れる韓国情報をさらりと読んでいるだけであまりにも辻褄が合わないことが多すぎる。中国に関する日本語記事(要注意、ここでいいたいのは必ずしも報道ではない)の書き手の多くが、自分でもよくわからずに、そしてなにをどう深堀りして書くべきなのかすら気づかずに書いているのと同じ匂いがする。

巷で渦巻く「韓国といえばすぐに激昂する」人たちを見るたびに、あーあ、と思ってきた。そして同時に、「韓国といえばすぐに持ち上げてキラキラにしてしまう」人も苦手である。

感情を刺激される記事ばかり読んでいるとそうなりやすい。「理解」が出来ていないので、第三者に対しても自分の感情を押し付けるしか手段を持てなくなるからだ。そこが、そしてそういうクラスタ自体も苦手だった。

だが、哀しいかな、わたしは長年の習性から「掛け違い」を読み解きたいという関心は高い。昨今では中国以上にゴタゴタが頻発している韓国との間には、どんな掛け違いがあるのか?

だからこそ、この本を手に取った。著者はわたしもツイッターで言葉を交わしたことがある毎日新聞の韓国特派員経験者という点は重要なポイントだった。ちなみに毎日新聞の韓国報道はどこぞの新聞のようにばんばん著書を書いている名物記者が担当するわけではないが、安定し、また落ち着いた筆致で信頼感がある。

結果から言うと、この本は期待通り傍観者であることを選んだわたしの、漠然とした視野の先をかなりスッキリとしてくれた。多少なりとも韓国との「掛け違い」についてきちんと理解しておきたいと思う人には、おすすめしたい一冊である。

●二つの民主主義の成り立ち

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