【読んでみました中国本】巣立つ息子たちに捧げる台湾人作家父の中国うんちく学:呉祥輝『君と共に中国を歩く』

『君と共に中国を歩く』呉祥輝・著/東 光春・訳(評言社)

アマゾンができて便利になったわぁー、と思ったりもするんだけど、それでもやっぱり自分で書店の書棚を眺めてみたりもする。でも、そこに並ぶ主観バリバリのタイトルにアテられてさっさと撤退したくなる。

なぜ、人は中国について述べる時、自分の結論をまず押し付けるのか? そんな本がずらずら並んだところで、素直に自分が体験できない、あるいはまだ触れたことのない中国、あるいは中華圏を知りたいと思っても、手を出す勇気をそがれてしまう。アマゾンで検索した時、ランキングトップに並ぶのはだいたいがそういう本だ。なのでわたしはさらさらっと見て閉じてしまうことが多い。

書店の書棚にも同様の本が目立つところに置かれていて、だいたい隣の書棚に並んでいる韓国本も同様のパターンが多いが、たとえばベトナムやシンガポールなどの本ではそんなタイトルの本は少ない。その自己主張の強さは明らかに中国や韓国をテーマにしたときだ。 

それであっても、わたしは個人的には書店の書棚のほうがまだアマゾンのランキングを眺めるより落ち着く。「売れ筋」ランキングには上がってこない、失礼だがランキングの熱気から放って置かれたような本が並んでいるのが、ときおり目に入るからだ。

へぇ、こんな本が、と手にとって、目立つつもりもなく、主張するでもなく、それでもそれを出版したい、読んでもらいたいという著者とそれを後押しした出版社はなにをそこに見いだしたのか?と考えてみる。自己主張本はタイトルで中身が判断できてしまう物がほとんどだが、自己主張しない本にはなにが書かれているかがわからない。だから、思わず手にとってパラパラとのぞいてみる。

今回取り上げる『君と共に中国を歩く』も、そうやって見つけた本だった。サブタイトルは「ある台湾人父子の卒業旅行」。2010年にイギリスの大学を卒業した長男とアメリカで学ぶ次男に「中国学」を授けるため、作家の呉祥輝さんが提案した。

「中国がわからなくて、国際感覚があると言えるのかね?」両兄弟は何秒かぽかんとした顔をして、押し黙っていた。考えてみて、二人は自分たちの盲点に初めてはっと気がついた。中国経験がないのだ。彼らには、ヨーロッパ、アメリカ、日本及び台湾の経験はあるが、それだけでは世界に対する理解は決して十分ではないのだ。

そうして、まずは長男と黒龍江省の黒河、ハルビン、遼寧省瀋陽、旅順、大連から北京、青島、上海、そして香港を歩いた。

勇ましいわけでもなく、またむやみにこちらの感情を揺さぶることを目的とせず、中国を見て歩く。台湾人の若者の目に中国大地はどんなふうに映るのか…そんなことを期待しながら、喧嘩を売るようなタイトルが並ぶ書棚に背を向けた。

●沿海地区はなぜ重要なのか

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