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これから先、広報PRは溶けてゆく

このフレーズが気に入ったので書く。

私は昔から気になった分野はごりごり本を読むタイプで、お仕事においてもそうでした。「広報PR」というジャンルでもたくさん本を読んでいます。

でも最近、新しい本があまり出てこないなーって気がしてて。

少し前は「経営に広報視点を」みたいな広めの本や、小さい会社の実務に寄った「リアルな広報担当者の声」ていうバイブルだったり、その前は「戦略PR思考を身につけよう」て感じのビジネス書だったり、時代を反映していろいろ出ていたと思うんです。

最近見つからないのでTwitterで聞いてみたのですが、やっぱりなさそうでした。

時代の節目感があって、おののいています。

「広報PR」という枠組み

「広報PR」という括りに違和感のある人は多いと思います。

言葉のアヤと言われてしまえばそれまでだけど、こうやってカテゴライズすることに無理があるほど、本家のPublic Relationsのカバー範囲は広域に渡ります。

アメリカのPublic Relationsが戦後日本に輸入され、行政がラジオで国民に呼びかけるようになったあたりで「広報」という和訳が充てられて、それが民間企業にも適用されて。その名残りで日本における「PR」と「広報」にはズレがあり、「広報とPRの違いってなんですか?」という問いが出てくる始末です。

それもあってか、日本の広報PR業界って、「宗派」が分かれている感じがずっとあります。

総合PR会社の人、特化型PR会社の人、広告代理店の人、大企業の広報担当、中小企業の広報、BtoBの広報、BtoCの広報、スタートアップ広報、フリーランスPR、PR協会関係者、など。

同じ話をしているはずが、立場が違うと「ん?」と感じる経験は、けっこういろんな人から聞いたりします。

さらに、概念としてのPRはマーケティングの上位概念だけど、手法としてのPRはマーケティング4PのうちのPromotionに含まれるとか、多種多様な主張があって。さらにこの手の話において「私はこう思う派」という信念を持っている人も多く、「あの人とは宗派が違うから」なんてセリフを聞くことすらある世界です。

わりと面倒だったりしますが、「広報PR」という枠組みの下で何かを考えたり学んだり議論したりしたいなら、どこかで直面する問題です。

PRに接点のある新しい職種

そんな背景がありつつも、2018〜2019年はPRが多職種に融解しはじめた時期だったと思います。

「PRエージェンシー」は「統合型コミュニケーションファーム」になり、広告代理店やクリエイティブエージェンシーがPR会社の業務まで広げだし、事業会社におけるコミュニケーション系業務の役割は多様化しました。インハウスエディターやコミュニティマネージャー、採用広報といった新しい職種もたくさん生まれ、周辺領域との境がだんだん滲みつつあります。

私は以前から「PRって一言でいうとなに?」と聞かれたら「情報開発(もしくは情報編集)」と答えてきたのですが、まさに従来の「編集者」まで企業活動に関わるようにもなってきました。

企業をまるっと編集する。社会にあわせてチューニングする。コミュニケーション領域に関わるすべての人が、こういう視点をもってPRに接しやすくなってきています。

そうなると、もう一度「PRってなに?」というところに帰ってくるのですが、メディア露出の価値が相対的にどんどん下がっている現代において、今までどおりに「ステークホルダーとの良好な関係構築」と言っていると、その範囲も手段もえげつないことになりますよね。もはやこれらを統合的にカバーできる人材は、今をときめくスタートアップのCMOレベルで探してもなかなか見つからない状況です。

やっぱりどこに絞るかって言われたら「情報開発」なんだよなーとも思いつつ、もう少し上流から入れていく「思考開発」、それを突き詰めると「コーチング」みたいになっていくかなと思ったりもします。

「経営にPR視点を」は新しい発想ではなかった

本の話からだいぶずれてきましたが、かつての上司からの教えで、印象に残っているものがあります。

「私たちが要らなくなるのがこの仕事のゴールだよ」

PRパーソンなんて、究極的には要らない社会が理想的。真の意味で社会のためになる事業を、みんなが最初からやっていれば、“PR発想”や“PR視点”とかいうものもなくなります。

最近は、この世界に近づいているんだろうなと思います。倫理観を持ってエシカルに社会をよりよいものにしていくことは「企業活動」の絶対条件で、ここが抜けている起業とかって、成り立つはずがないんです。

偉そうで申し訳ないですが、「案件を選ぶ責任」を念頭に置いてやっていると、社会起点でものごとを考える発想を誰に言われるでもなくナチュラルにできる起業家・経営者が増えていると感じます。そういう人って、PRの立場であれこれ言わなくても、手法面をちょっとお手伝いするだけですぐにメディアに取り上げられるし、ファンも口コミもついてくる。

私ごときがマイナスから引き上げていかなければならない状態だと、そもそも事業自体にポテンシャルがないことも多いです。PRはインナービューティーアドバイザーのようで、内面から磨き上げるためのアドバイスだけが本質的にできることなのかなとか考えます。

だからもう「広報PRの本」がないのも納得

社会が行き着くところまで行き着いて、もう手法にはあんまり価値がないのかもしれません。

これで終わると現役広報PRマンとしては虚しいだけなので補足すると、「人間の感情の機微を読み取り、働きかけられる人」は変わらず(というか今まで以上に)求められていて、そのスキルは何にも代えがたいと思います。どんなものを社会が求めていて、今なにで人々の感情は動くのか。何が遅れていて、何が流行っていて、何が炎上してしまうのか。

この感覚って、SNSを見まくったり、エゴサして丁寧に反応を観測したり、メディアの方からのフィードバックを受けたりすることで、じわじわと磨かれていくものです。企業ごとにオーダーメイドが必要なので、外部コンサルで代用するのはむずかしく、時間もある程度かかります。

もはや言語化できない領域に入ってきているのかも。だから本にならないんでしょうね。

けど裏を返せば、言語化できないスキルほど価値の高いものはないはずで。

これをどう伝えるかというのは究極的に至難の業だけど、だからこそやっぱり面白いなと思ったりするのでした。

おわり。


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