広報は「原稿確認させてください」と言ってはいけないのか
広報の「原稿確認」について、ちょっと話題になっていました。
この記事によると、
って感じです。(意訳)
だけど私個人としてはツイートのとおり、言い方とスタンスの問題であって、原稿確認できるかどうかを聞くこと自体がNGなわけではないと思っていまして。
こんな調子で、立場をわきまえながらよく聞いています。
怯えてひるんで原稿確認できなくなってしまう広報さんがいると業界のエコシステムがしんどくなるので、実際のところを書いてみます。
その編集記事は誰のものか
大前提として、企業などをメディアに取材してもらってその記事ができあがる場合、あくまでその記事の編集権・著作権・所有権はぜーんぶメディア側!にあります。
企業側は「材料を提供しただけ」であり、もちろんお金の取引も発生していません。金銭を払って掲載してもらう広告やタイアップ記事なら口出しはできますが、広告出稿しているわけではない以上、内容にとやかく言う権利はありません。
とはいっても、どう書かれるかは気になります。ネガティブな情報が世の中に出てしまったら、広報の自分に責任がくるかもしれないし。
「原稿確認させてください」
と言いたくなる気持ちはわかるのですが、本来の前提を考えると、言い方としては「確認させてもらえませんでしょうか」くらいのほうが正解だと思います。
原稿確認できるのが当然の権利みたいなスタンスだったり、赤字を入れまくって戻してもOKと思っていたり、そういう広報さんが実際にいるので、メディア側も「迷惑だな〜」という気分になってしまっているだけなのです。
本来は、立場関係を履き違えていなければ、「記者」と「広報」は対等にコミュニケーションが取れるはずです。
原稿確認に関する「常識」というのはない
これは以前「メディア取材を受ける個人に、知っておいてほしいこと」という記事にも書いたことなのですが、
原稿確認に関して何が常識というのはありません。
と、さまざまな意見がありますが、メディアによっても記者個人によっても考え方が違います。同じメディア内でも場合によって違うことすらあります。
昔々は、取材後に原稿確認できるほうが稀でした、今でも新聞媒体だと、たいていの場合は原稿確認ができません。記者さんと仲良くなれた場合、「一回きりの電話での読み上げ確認」という古風なやり方で確認させてもらえることもあったりします。
雑誌であれば、一応ゲラは送ってきてくれるものの、「もう校了近いからよっぽどじゃなければ修正しないでくださいね」という圧をなんとなくかけられたりします。(悪意はない)
さらにまちまちなのがWeb媒体です。
紙媒体を踏襲しているような報道系・ニュース系媒体だと、確認はあまりさせてくれないところが多いです。あくまで報道なので……みたいな強めスタンス。
一方、新興系のWebメディアは、当然のように原稿確認を依頼してきます。何か間違いがあってあとから指摘されたら怖いので、取材対象者にもきちんとチェックしてもらって、間違いや誤解のない記事を出そうという意図があります。
捉えようによっては、責任の所在をあいまいにしているとも考えられます。取材対象者側に原稿確認をしてもらうことで、「事前に見せましたよね?」という免罪符になるから。炎上しても、あとから文句は言えません。
まあ見せるも見せないも自由だし、媒体によって本当にそれぞれなのです。
原稿確認の可否を聞くのは「取材前」
だから、広報の立場として原稿確認をさせてほしいとお願いすること自体は、そんなに罪ではありません。
言い方とスタンスの他に気をつけたほうがいいと思うのは、確認できるかどうか尋ねるのは「取材前」にしておきましょう、ということ。
取材の依頼が来た時点で、「ちなみにこれは掲載前確認ができるものですか?」と聞きます。内容によっては、確認できるかできないかが、取材を受けるか受けないかの判断材料となります。
会社・事業に関するセンシティブな内容だったり、社長などのインタビュイーが初めて話す内容の取材だったりして、それが「一切確認できないまま夜に出る」となると、ちょっと受けるのが怖いですよね。
原稿確認できない取材であれば断る、という判断もありですし、辞退の理由としてそれを嫌味なく伝えてみるのもよいと思います。
原稿確認はできないけど受けよう!という判断をした場合は、広報はいつも以上に気を張って取材に同席します。そこで、
など、要所要所で対応を考えられるといい感じ。ちなみに、補足情報を伝えたりするのは、取材の終わり際がいいです。
余談ですが、プロ広報になると、取材中にうまいこと話をそらして際どい話題に触れさせないようにしたり、社長の話しパターンを熟知して相槌を入れつつ話を誘導していったり、ということができます。
(うちの社長、この話になると長いし逸れるんだよな……)みたいなことを心の中で思いつつ、すごーくナチュラルに次の質問を促してくれる広報さんもいるので、まじでプロ。最適なタイミングで会社のパンフレットがスッと出てきたりとかね。
すると、記者さん側も取材しながら「あれ、なんかもう記事構成できたな?」みたいになってしまいます。同じ取材でも、対応する広報さんによって90°くらい違うアウトプットが出てきたりします(このコントロールこそが広報力の真髄とか思っているのですが)。
これはキャリアだけでなく、その会社での広報歴が大事になってきます。メディア取材の場数を踏むことで広報側も成長させてもらっているので。うまくできるようになると、取材時間中に記事のアウトプットがお互いある程度見えている状態なので、取材後も記者さんともあうんの呼吸的な感じで原稿確認が必要ないくらいになるかも。
少なくとも「ぜんぜん書いてほしくないこと書かれたー!」みたいになることはあまりないです。プロの業はスゴイ。
原稿確認でやっていいこと・わるいこと
話がずれましたが、とはいえ最近はやっぱり、原稿確認できるケースのほうが多いように思います。
メディア側も間違った情報は出したくないですし、広報との距離が近くなりつつあるというのもあります。特にインタビュー取材の場合は、向こうから「来週くらいに原稿送りますね〜!」と朗らかに言い去ってくれます。
ただし、確認時にやっていいのはあくまで「ファクトチェック」のみ。事実の誤認、つまり明らかな間違いであるとか数字のズレとかの修正です。
あとは、誤解を招きそうな表現、パンチのありすぎるキャッチコピー、イメージとどうしてもあわない言い回し、映りの悪い写真などもまあ許容範囲。
原稿修正するときは、「①修正依頼(どうしてもお願い!)」「②ご相談(できればお願い!)」の2段階くらいにわけて赤入れするといいですよ。赤入れといっても、本当に最低限に絞ってですが。
最近は編集能力の高い広報さんが多いので、インターン生から上がってきた社員インタビューの修正と同じノリで、メディアの記事にも真っ赤に修正を入れてしまったりするのです。。
しかし相手はプロなので、ちょっと粗さのある表現も、実はその記者さんの持ち味・独自の文体だったりします。間違っても、"ベター提案"はしないように。
中〜小規模のWebメディアだと、けっこう日本語のおかしいライターさんもたまにいるのですが笑、ほどほどに修正しつつ目を瞑りましょう。
原稿確認にまつわるコミュニケーションはうまく使うとよい
原稿確認の頼み方、赤の入れ方ひとつで、記者さんには広報のレベルがばれてしまったりするものです。
「この広報さん、わかってるな」「コミュニケーション取りやすいな」
という印象が持たせられると、また取材したいなと思ってもらうこともできます。気持ちよく記事を公開していただくためにも、原稿確認にまつわるコミュニケーションはうまく利用するといいかなと思います。
ちなみに、原稿がアップされたら各SNSでシェアし、メディアさんにもお礼を言うのを忘れずに。社内やSNSでの反応などを後日シェアして差し上げると、ますますお互いにいい感じに関係が築けてゆきます。
地道中の地道なリレーション構築ですが、楽しく積み重ねてまいりましょう。
おわり。
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