リモート社会の綻びと、“場”で創られる文化の価値と
リモートワークが世界中でいっきに普及してから1年半ほどが経ち、各所からこれが上手くいった/これが上手くいかないの話や、組織としてのネクストステップへの挑戦もよく聞くようになってきました。
この期間のうちに個人の生活も変わり、キャリアチェンジやライフシフトを選択した人も少なくないと思います。その裏では、一見うまくいっているようでも実はすれ違いが積み重なっていて、綻びが見えてきてしまったチームもあります。人の気持ちの変化は「突然」起こるわけではないのですが、リモートでしか接していないと「突然」のように感じられてしまうことがよくあります。
そういうリモートワークと組織内のインナーコミュニケーションについて、ちょっと最近考えていることを書き出してみます。
リモートワーク5年目、組織のコミュニケーション
私は5年前くらいからリモートを取り入れながら自分で仕事をしていて、この3年ほどは海外や地方に住んだこともあり、ほとんどフルリモート(対面で会わない)でやってきています。
PRやコミュニケーションを軸に、職種単位でいうと本当にいろいろになってきました。最初はPR会社の延長線上に想像できるような仕事だったのが、フルリモートであることを最優先にすると、おのずと内容も移ろっていった感じです。複数社・複数プロジェクトに同時に関わる形なので、ベストバランスをずっと模索してきました。
日本に帰ってからは、少し対面の機会もありました。しかし結局住まいが都内から遠かったり、たまに集まってしまうことで逆に上手くいかない気づきもあったりし、思ったほどリアルの割合は増やせずにいます。(ここはあとで書きます)
自身がフルリモートをやりつつ、仕事としては「組織のインナーコミュニケーションはPR(Public Relations)の一環 ※かつてのEmployee Relationsの領域」という考えもあるので、自分の働き方を置いておいても関心が深いトピックです。インナーコミュニケーションの不足による組織崩壊や誰も幸せにならないお別れも多々見てきて、フルリモート時代だからこそ考えることもいろいろあります。
フルリモートで仕事を進めるのはけっこう難しい
リモートワークの導入が進んだとはいえ、実はフルリモートで仕事を滞りなく進めるだけでも、かなり高度なスキルがいるといまだによく思います。
具体的には、高いレベルの「言語スキル」と「デジタルスキル」が必要です。日本人でも日本語が通じない人は多いし、ITリテラシーが高くないと成り立たない連携は増えるばかりです。実際に、スタートアップ(もしくはそれに準ずるマインドを持った組織体)とでないと、デジタルスキルの面でフルリモートはまだまだ厳しいなと感じます。
音信不通や納期遅れ、言った言わない問題、認識のすれ違い。こういう部分に割くコミュニケーションコストは大きいので、発生させないに越したことはないのですが、問題なくクリアできる人材はかなり少ない気がします。
複数社が絡むとそれぞれリモートワークの前提条件が違うので、使用ツールの違いといった細かい部分で想像しなかった障害がたくさん現れるなどのリスクもあります。関わる者全員がどの程度の「共通言語」を持てているかというのもとても大切。
仕事はスムーズに進んでも、文化醸成には“場”が必要
リモートで一切会うことなく仕事がスムーズに進められるコワーカーに恵まれたら素直に喜びたいところですが、やはり長期的に見ると「場」や「空間」のもつ力は大きいなとも感じます。
1年や2年のリモートワーク体制であれば、それまでに築いていた文化貯金の切り崩しで、空気や雰囲気がキープできたかもしれません。しかしそれが3年や5年となっていったり、人の入れ替わりが増えてきたり、新たに組織やチームを立ち上げたりとなると、必ずカルチャーに綻びが出てきます。
文化の醸成には、必ず実体をもった「場」が必要。これは歴史が証明しているし、インターネットが普及してからを見ても、やはり共有する場が一切ない文化というのは存在感が薄めです。
ここでいう「文化」とは「企業カルチャー」の一部を含むけれどそれだけではなくて、仕事を進める上でベースとなるバイブスだったり、チームメンバーの中に流れる「常識」や「前提」みたいなものだったりします。仕事への向き合い方や捉え方は、大企業出身なのか新卒からフリーランスなのか、その人のキャリア的な出自によっても実は元が大きく違っています。
文化なき仕事はビジョンやモチベーションが共有されづらく、要所要所で発生する違和感をやわらげてくれる空気みたいなものが流れないので、続けるほどに本質的価値ややりがいが霞んでいく宿命にあります。何かしらの形で「場」を共有することは、長い目で見ると必要なのかもしれません。
ただ、ここでいう「場」や「空間」は、オフィスを持てとか週1回集まれとかそういう話でもなかったりする。これについては最後に。
複数プロジェクトを掛け持ちする働き方ってどうなんだ
リモートワークの常態化にともなって、会社員でもフリーランスでも、プロジェクトベースの仕事が増えてきたと思います。
必要に応じてプロジェクトワーカーが集まって、ワッと仕事をして、目的を達成したら解散して、またそれぞれのプロジェクトに向かっていく。効率も生産性もよく、個人の働き方としても注目されています。
だけど、みんながみんな「他の案件がバタバタしていて」などと言って、片手間で関わるプロジェクトベースの仕事って、どうなんだろう?
最初にも言ったように、複数のプロジェクトに同時に関わりつつきちんとコミット量を割り振って、自分のワークポートフォリオを組めるスキルがある人って、そんなに多くありません。だいたいが自分か相手かどちらかの何かしらが問題で、オーバーワークになったり進め方に違和感を覚えたりし、どこかでスタックしてしまいます。
少しダイレクトな表現をすれば、セルフマネジメントができない大多数の人間を管理して社会全体としての創出価値を大きくするために「会社」という仕組みがあったはずだけど、そういう人でもさらりと独立し稼いでいくことが簡単な世の中になってしまった。個人の働き方優先でみんながプロジェクトワーカー化していく未来は、なんだかGDP的にいいのかどうか疑問です(適当)。
そして、そこにあるべき文化は誰がつくるのか、という問題もあります。文化なき仕事は〜(以下繰り返し)。
「フルリモート&社員ゼロのギルド型組織」は成り立ったのか
ここまでと重複する話も多々あると思うのだけど、「フルリモートで社員を雇わず全員業務委託などでチームを組んだギルド型組織」というやり方は正解だったのか、というのも気になっています。一時期流行ったけど、最近はどうなんだろう?上手くいっているところもあるかもしれないし、ないかもしれない。(それは知らない)
私自身もそういうチームとの関わりはあるほうで、社員ゼロとまではいかなくても、今や社員数よりも業務委託で関わる人数のほうが多いチームも普通になりました。
成り立つのか?という問いに対しては、「事業カテゴリや職種によっては成り立つ」と思っています。デザインやWeb制作系のチームや、コンテンツ制作やメディア運営が主事業の会社、クライアントの課題を解決する代理店、事業自体がオンライン完結していて予め決めた業務フローに沿って進めていく場合、など。昨今フルリモートの良さを掲げ推奨しているのは、実はほとんどこういう会社の人だけです。
逆に成り立たないと思うのは、新たな事業を作っていきたい場合や、文化やコミュニティがその事業に欠かせない場合。または何をやるべきかあまり決まっていないけれど、ビジョンやストーリー、実現したい世界や解決したい社会課題がはっきりとある場合。それから、大きく古い産業や地方の産業における課題解決に切り込みたい場合。社会へのインパクトが大きく喫緊性も高いのは、こちらです。
これに現実的な契約や報酬の話も関係してくると思います。前者はフルリモートの業務委託でも比較的簡単にチームが組めるけれど、後者は難しい。業務委託とは基本的に、ある程度やるべきことが明確になった業務を切り出して、納品物に対して相応の報酬を支払う形です。それ以上の仕事はしないし、することによって自分に蓄積される価値が見えづらいためメリットが感じられず、時間コスト意識もシビアにならざるを得ません。
しかし事業づくり・文化醸成が必要なジャンルであれば、未来の可能性にかけて今のコミット量を上げる「時間と知的財産の投資」が人材レベルで見ると必須になります。十分な金銭報酬が支払えなくてもこれをしてもらえように、従来の会社の仕組み(具体的には、ストックオプションのような先行投資ができる体制や、各種保険のカバーなどや福利厚生の充実、帰属意識や仲間意識の醸成による精神的な充実感向上)がある。
その仕組みを使わずに「フルリモートで業務委託だけで」とやっていたら、たしかに目の前の仕事は全然回るのだけど、回るだけっていうか。曲線を描くような組織の成長や課題解決は、先行投資なしには起こり得ないことが私でもよくわかってきました。小さな会社として心地よい範囲で、着々とリニアに伸びていくようなスタイルを望むのなら、問題はないけれど、社会全体での価値創出を考えるとダメそうな気もしたりするんですよね。
心のケアは誰が担うべきなのか
ややこしい話になってきたけどそんなことより、このリモートワークでマルチタスクな時代には、心のケアは誰が担うのだろう?というのも大きな課題かも。
私たちはまったく完璧な人間ではないので、クライアントの何気ない一言に傷ついたり、ちょっとしたことでやる気を失ってしまったり、今日は働きたくないなーなんて日があったりします。プライベートの変化や、天気の良し悪しが仕事に影響することも、全然あります。
オフィスで毎日顔を合わせていれば、なんか辛そうだな、元気ないな、どうしたのかな、と思ったらランチに誘い出したり、コンビニで冷たい飲み物を買ってきてプレゼントすることもできます。ちょっとした移動時間の電車でも、その人のいろんな面を知ることができます。(なんだかありきたりな話ですが)
オンライン会議で仕事の話だけをして、メッセージをすれば全部ログが残ってしまい、トランスペアレンシーのためにDM禁止と言われ、余白がうまれない環境では、そういう心の機微を誰が捉えてケアしてあげるのかな。余白って、大事ですよね。無駄も大事です。
「よく働いてくれていたスタッフが突然離れてしまって理由がわからない」
そんなことを最近よく聞き、心が苦しいのです。PRやコミュニケーションの力で解決できたかもしれないなぁと。そういう課題を解決するサービスも出てきているけど、結局同じ仕事に関わっていて同じ世界を見ている人じゃないと、わかってあげられないことってたくさんあります。
私のメンタルと相手のメンタルは全然違うので、想像したからといってわかるものでもないし、「この人は何を日々感じ、どんな違和感をもっているのだろう」という想像も、言ってしまえばこれまでの対面で人間関係を築いてきた体験の貯金を切り崩しているのだとすると……。持続可能性が心配です。
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まとまらないまとめ
みなさんのチームやプロジェクトは、どうでしょうか。
リモートワークのデメリットのようなことを書いてきてしまったけれど、実は私はオフィス復帰推進派ではなく、むしろ今後はもっとフルリモートでいくべきだと思っています。そう信じる理由としては、これからの地球環境をわりと悲観的に捉えているのが大きいです。
気候変動などの影響で、出社するスタイルは現実的でなくなってくると思っています。夏は暑すぎて通勤どころか、外に出るだけで命が危険に晒されるような日も増えてきます。雨がずっと降り続ける季節や、台風が連続で到来する季節も長くなり、南海トラフ巨大地震や富士山噴火はそう遠くない未来に必ず起きます。(それと比べれば小さい、でも十分大きい)自然災害はもっともっと当たり前になります。
世界規模で見ればカナダ西部のように熱波が襲ったり、オーストラリアやカリフォルニアのように山火事によるスモークで外に出られなくなったりし、とてもじゃないけど毎日出社なんて無謀すぎて考えられない地球へと一直線です。感染症もこの先消えることはなく、変異しながらずっと共存し続けることになるので、また従来のように出社して……という未来はあまり想像していません。人の移動を減らすことは社会全体の課題であり続けます。
しかしだからといって、間を取って出社回数を減らすやりかたは一過性のものだと思っている。顔を合わせられる機会があると「そこで話せばいいや」となりそれ以外の日がスローダウンしてしまうし、オフィスに来る人と来ない人がいれば、情報量に差がつき業務進行に支障が出ます。それに結局、出社できる物理的距離の人しか採用しなくなり、地方活性化などの意味で働き方改善にもつながらないし、ちょっと郊外に引っ越したくらいでは従業員の生活クオリティもさほど変化せず、価値観のダイバーシティも生まれないのでイノベーションの可能性も増えない。だから個人的には、フルリモートの形でもっとコミュニケーション手法を探っていくべきという考えです。
先述のとおり「場」や「空間」が大切ではあるのですが、必要なコミュニケーションをデジタル空間上で創造できるようになるテクノロジーの進歩のほうを期待しています。具体的にそれがどういう形状をしているかは、まだ見ぬ形なのでいろんな妄想をしているのですが、たとえばアバターが行き交うバーチャルオフィスや、まるで同じ空間に相手がいるかのように映し出されるミラーデバイスのようなものは、その黎明期の形状として近そうです。今なんとなくやりづらさを感じているオンライン会議も、数年もすればテクノロジーが追いついて、リアルとそう変わらない体験になるはずです。
会社という組織体や、1日8時間などの既存の労働体制、職と住の切り分けなど、すべてが崩壊していくんだろうし、ここでようやく話が戻ってくるのですが、こうした変化を起こしていく中でPRやコミュニケーションの重要性がもっともっと高まるはず。その可能性も感じています。
まとめが長くなってしまったし全然まとまらないけど、今日は疲れたのでこのへんで。
私は最近、東京にはもう出ない方向に本格シフトしたほうがいいかもしれないなぁと思っていて、その発想に至った流れの中に、今回シェアしたような感覚もあったのですが、とりあえず整理することもなく発してみました。長期的に見てサステナブルなやりかたを考えていければと思います。
おわり。
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