コミュニケーションのスイッチ
仕事をしていると、人とのコミュニケーションスイッチがオンになる。
適当な雑談だってお手の物。バカみたいな冗談だって言う。この世のモノとは思えない、上司のつまらないフリにもちゃんと答える。だって僕は営業マン。スイッチをオンにすれば笑顔マシマシで働く。
社外の人と話す場合は、さらにマシマシだ。笑わんでいい所でも笑ってしまう。声だって張り上げるゾ。目をじっと見て話すことだってできる。100人の女子大生の前での講義だってへっちゃらだ。場数は踏んできたし。だって僕は営業マン。
取引先との飲み会だって最後までこなすゾ。全くしゃべってくれないキャバ嬢にだって、話題を振りまくる。その時は「一体僕は何をしているんだ・・・」と思うけど。話を聞かせたいおじさんの相手は大変ですよね。
・・・なんだけども。
会社を出た途端、スイッチはオフになる。
昔のWindowsをシャットダウンしたときのように、ピロロロンという音とともに僕のコミュニケーションスイッチはどこかに行く。「インテル入ってる?」と聞かれても、「会社に置いてきました」としか言いようがない。インテル置き忘れである。
スイッチオフになった途端、それはもう酷い。
人と話したくなくなるのだ。
もう、コンビニで「ポイントカードありますか?」と聞かれること自体が億劫になる。「ポイントカードあったらご提示ください」でいいよ。「ありません」って言うことすら面倒だ。最近のセブンイレブンの、レジをタッチして支払い方法を決めるタイプ。大変助かっています。
スタバの注文も億劫だ。あのレジ前のアクリル板、仕方ないんですけど声が届かないんですよ。「PayPayで」の声も、家でまったく声を出さないもんだから「PayPayで⤴」って上ずっちゃうよ。まだ28歳なのにたんが絡んで声が出づらいよ。モバイルオーダーにしよう。
自分でも、このオンオフの差には驚く。
そもそも、人と話すことは好きだし、人の話を聞くことはもっと好きだ。その人が一体どんな人生を送って来たのか、三者三様の物語には惹かれる。聞いていくうちにどんどん話を聞きたくなる。
でも、一人になると、どうしようもなく話したくなくなる。
普段、結構気を張って喋っているからだと思っている。話している人のリアクションはすごく気になるし、自分のリアクションにも気を付ける。コミュニケーションの後は、仕事であればなおさら、グタッとする。
だから、会社を出た途端、誰かと離れた瞬間にスイッチを切る。過熱したPCのように、一旦シャットダウンしてやり過ごすのだ。
会社に、どんな人にも「熱い人ですね」と言われるような、尊敬する上司がいる。どんな人とでもコミュニケーションを取っているのを間近で見てきたし、社内でもかなり信頼されている人だ。
でも、その上司も家では全く喋らないらしい。どこか、共通した部分を感じる。意外と、いつも明るくて元気な人に限って、実はどんよりしているものを隠していたりする。オンとオフの差がある人。
そんな人にはなおさら興味を持つ。どうやり過ごしているのか。どうやって日々のストレスを受け流しているのか。ちなみにその上司はガンプラを作ることらしい。
誰でも、自分の役割を演じている。自分を使い分けている。社会に順応するために。そりゃ生きづらさも出てきますよ。
僕は実家でも全然しゃべる子どもではなかった。億劫というか、気恥ずかしさみたいなものがあった。でも、友達とはよく話すし、書いているとおり営業の仕事も普通にしている。
僕は、どの自分も自分だと思うようにしている。未だにオンオフのギャップに驚きながらも、使い分けることを受け入れた。どれも自分だとわかると、ちょっと楽になる。
ただ、自分のスイッチをオンかオフにするか。その権利だけは一生自分で持っていたい。
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