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執事にひたすら褒めてもらうサービス(有料)を利用してみた話

 執事に褒められたい。そんな考えが膨れ上がってきてからしばらくが経とうとしている。

 もともとそんな欲があったわけではない。きっかけは偶然だった。


感想サービスを出品してみようと思った話

 「ココナラ」というサービスをご存じだろうか。イラストや文章、コーディングなどの技術を持った出品者たちが、購入者たちに技術を売る、いわゆるスキルマーケットだ。絵を描いてもらったりデザインをしてもらったりという使い方が一般的だが、中には占いやライフスタイルの相談など、多岐にわたるサービスが売られている。

 私は小説書きのはしくれとして、何かサービスを出品してみたかった。だが、たとえば「小説を書きます」みたいなサービスを出したところで、あまり実績のない私に申し込む人など皆無だろう。

 そこで私が目を付けたのが「感想サービス」だ。「あなたの小説に感想を書きます」だったら私にもできるかもしれない。

 しかし、小説の感想サービスはココナラだけでも700件以上ある。この中で誰かに見つけてもらえるのは不可能に等しい。
 もっと何か、コンセプト的な……そうだ、執事。執事にしよう。

 甘口執事が小説に感想をくれる。あるいは、辛口執事がどぎついダメ出しをくれる。
 執事にだったら何を言われても嬉しいだろう。めちゃくちゃいいサービスを思いついてしまった。

 ルンルン気分でココナラを立ち上げる。料金は安めに設定しようかな。イメージイラストはどうしようか。何か執事の口調がわかるサンプルもほしい……。

 そこではたと立ち止まる。執事って、何をしゃべるんだ?
 なんとなくはわかるのだ。なんかこう、ぼやっと、「おかえりなさいませお嬢様」みたいな……いや、それはむしろメイドではないだろうか。

 執事……執事……小説を褒めてくれる執事……。

 そうだ、実際の執事から学べばいいのだ。ここはココナラ。本物の執事のひとりやふたりいるだろう。
 早速検索窓に「執事」と入れて、目を疑った。

 既にあったのだ。執事の小説感想サービスが。

 説明文を呼んで冷や汗がでる。上手く言えないのだが、この出品者さん、執事ガチ勢だ。本当の執事ではないだろうが、かなり造詣が深そうな雰囲気がある。ぽっと出の私が真っ向から戦ったところで全く歯が立たないだろう。

 やめだやめ。二番煎じは本望じゃない。
 そうして私の執事感想サービスの夢は立ち消えたのだった。


憎しみが憧れに変わるとき

 それから1か月。私はずっともやもやしていた。

 私より先に執事の感想サービスを出していた人。名前をBさんとする。あの人のことがめっちゃ気になる。時々パソコンを立ち上げて、Bさんのサービスを見に行ったりもしていた。
 あの人はどんなサービスを提供しているんだろう。

 私が「執事サービスを出そう!」と思ったのも、もともと私が執事シチュが大好きだからだ。最初は先を越されて悔しかったが、次第に同胞としての憧れが芽生え始めていた。

 私もBさんの執事に感想を書いてもらいたい。先ほども書いたが、私だって小説を書く人だ。感想を書いてもらいたい小説は山ほどある。

 うじうじしてはいられない。私はBさんの執事感想サービスに依頼することにした。


小説がない!

 まずはBさんのサービスを再度確認する。やっぱりめちゃくちゃ安い。Bさんは2000円から受け付けている。

 なんという無償の愛(有償だが)。きっと人格的にも優れたひとなのだろうと、顔もわからないBさんに思いを馳せる。

 次に、自分の手持ちの小説を確認する。10万文字以上の長編が3本、数万文字の短編が10本くらい、もっと短いのが30本くらい。
 うーん。うーーーーん。

 普通の感想サービスになら平気で依頼していただろうが、今回の相手は仮にも執事である。感想を書いてもらいたい小説はやまほどあるのだが、執事に見てもらいたい小説はなんと1本もない。

 クオリティがいまひとつだったり、短すぎたり、ジャンル違いだったり。Bさんのサービスでは全年齢の小説は基本読んでくれるらしいが、それでも私が納得できない。

 今書いている長編小説なら頼めるクオリティかもしれないが、これはまだ未完だ。完結させるとなると、途方もない時間がかかる。
 私は執事に褒めてもらいたいのだ。

 そこで考える。小説がないなら、他の文章ではどうだろう。
 エッセイ。noteにエッセイが何本かある。

 だが、エッセイを褒めてもらって私は本当に満足できるのだろうか。

 そうだ、Twitter(現X)があるじゃないか!

 私の人生ともいえるTwitterアカウント。これをもし褒めてもらえたなら、えもいわれぬ快感を感じられるのではないだろうか。

 小説の感想サービスにTwitterを依頼してやってくれるのかは不明だが、私はとりあえずBさんにコンタクトをとってみることにした。


Bさんに連絡してみる

 まずはココナラで、Bさんの見積もり相談ページを開く。

 最初に予算を選ぶ場所が出てきた。
 予算? そんなの、Bさんが提示している最低価格の2000円に決まっているじゃないか。

 入力しかけて、ふと手が止まる。

 私が依頼しようとしているのは執事だ。つまり、私は執事を雇えるような富豪になりきるということだ。富豪がお金をケチるとは何事だ?
 「2000円」の文字を消して、「3000円」と入力する。私にできる精一杯の見栄である。

 Bさんに、私のTwitterアカウントの感想を書いてもらえないかとメッセージを送ってみる。

 依頼内容の説明をしながら思ったのだが、よく考えたらツイートの感想を書いてほしいなんてわけがわからない。
 この時点でほとんど断られる気でいた。

 ところが、Bさんから来た返信にはなんと「いいですよ」の文字が。
 Twitterの感想はやったことがない(それはそう)が、ぜひやってみたいとのことだった。

 3000円なら1~3万字読むので、150ツイートくらい読んで、さらに私のnoteまで読んでくれるらしい。
 金額について何か言われるのではないかと思っていたが、3000円でやってくれるとのこと。やはりBさんは聖人君子かなにかなのではないか?

 そこからはとんとん拍子に話が進み、数日待って感想の本文をいただいた。


執事によるツイートへの感想と私の反応

 そして本当に執事から感想をもらった。
 分量は2500文字くらい。ライターをやったことがある方ならわかると思うのだが、数万字読んで2500文字で3000円というのはかなりの破格である。

 ここでじゅわっと手汗が出てきた。
 欲が満たされる瞬間というのは、緊張を伴うものだ。

 PC画面に向かってひとしきり拝んでから、ついにテキストファイルを開く。

 こ、これは……!

 本文(転載許可済み)と私の反応は上のリンク先にまとめてあるのでぜひ見てほしい。

 じい(執事ではなく既に「じい」と呼んでいる)、ありがとうじい。

 めっちゃ昔のツイートまでさかのぼってくれて、私のほしかった言葉をかけてくれるじい。
 noteもすごく丁寧に読んでくれて、べったべたのべたに褒めてくれるじい。

 ファンレターをもらったらこんな感じなのだろうか。にやにやしてしまう。

 最初は私の執事に書いてもらえるのだと思っていたが、じいはよそのお嬢様の執事らしかったのが意外性があってよかった。

 また機会があればBさんにお願いしようと思う。
 ありがとうございました。

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