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『PERFECT DAYS』を観たらあまりにperfect daysすぎて涙した


はじめに

『PERFECT DAYS』という映画を友人に勧められて観てきた。とにかくいい映画であった。普段であればネタバレありで詳細に考察を書くのだが、みんなに映画館に行って欲しいので、極力ネタバレを排除して感想を述べたい。

主人公はパッとしないおじさんのトイレ清掃員だ。(といっても、役所広司が演じているのでめちゃくちゃカッコイイおじさんだが)

東京渋谷にある公共トイレの清掃員として働いている。毎朝同じ時間に起き、支度をし、植木に水をやり、缶コーヒーを飲みながら仕事にでかける。カセットで音楽を聴き、古本を買って読む。その日々は穏やかで、同じことの繰り返しにみえる。

PERFECT DAYS 公式サイト

一応言っておくと、ここ最近の流行?であった「エモくて楽しい日々、わら」なんてものではない。孤独な清掃員のおじさんの、なんでもない日常の話だ。

正直、この作品は人をかなり選ぶと思う。「これ、俺 / 私じゃん!」となる人と、「自分もこうなりたい」と思う人と、「全く意味がわからなかった」という人の3パターンだろうか。

意味がわからなかった人についても、"Not for you."というだけであって、落胆する必要は全くない。むしろ健全なのかもしれない。

「平山」の慎ましくも豊かな生活

主人公「平山」について書きたいのだが、これを書きすぎると映画のネタバレになってしまう、というか「平山」の生き方そのものがこの映画のテーマだからだ。

なんでもないおっさんが、変わりない(ように見える)日常を送り、その中で時たま起こる変化に心を動かされたり、振り回されたりする、ただそれだけの話なのである。

詳しく書くとネタバレになるので控えるが、彼は知的で勤勉(読書家、仕事の真面目さ)で自閉的な傾向(無口さやこだわりの強さ)があり、かつ分け隔てないやさしさや寛容性を持っている。

いわゆる「不器用な男もの」ではあるのだが、エンタメ性を極力排除して、独身で何者でもない中年男のゆるやかな日常を徹底的に描いているという点でリアリティレベルが高い。

職業がトイレ清掃員というのもまたオツなところだ。仕事服のデザインが青基調であるところから、明らかに「ブルーワーカー」という概念を意識しているだろう。住んでいる場所もそこまで良くはなさそうなアパートだ。(これは作中でも言及されている)

だが、ここで主張したいのは、この映画がブルーワーカーや貧困を揶揄したり、卑下したりしているということではない。

むしろ、人が豊かな暮らしをするにあたって、あるいは知的・文化的な生活をするにあたって、職業や賃金というのは些細なことであり、小さな幸せや文化資本をかき集めて暮らすことは十分可能であると言ってるように私は思った。

立場や金銭的な現実も表現

ここまでの感想の流れでは、「ハッピーなヒッピーになろう」といった印象を持たれてしまうかもしれない。だが、そんな生半可な表現では終わっていないのがこの作品の凄いところであり、良さでもある。

詳しくは書かないが、彼自身、自分の立場や金銭的事情によって振り回されてしまう事案が日常の中で何度か発生する。

独身で何者でもない知的で自閉傾向で優しい中年男のゆるやかな日常、がただハッピーなだけなわけがないのだ。

しかし、この幸せと不幸せの見せ方のバランスが巧妙で、それも含めての「Perfect Days」だと思わせてくれる。常にハッピーだなんてありえないし、常にアンハッピーなこともない。でも総合的には豊かな生活こそが、「完璧な日常」なのだ。

おわりに

私はこれを観て、「こうなりたい」と思うと同時に、「もうこれじゃね?」とも思い、さらには「このままだとヤバくね?」とも感じるなどした。

日々の生活の中で感じる小さな感動を大切にしたいし、社会的・経済的にも十分自立したいという、ただそれだけのことだ。

個人的にはラストシーンが最高で思わず涙目になってしまったのだが、人によっては意味が解らない終わり方かもしれない。

ぜひ映画館で観ていただきたいと強く思う。

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