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おれはバーフバリをテレワークすることによりテレワークパワーを得て無限にテレワークする


■『バーフバリ 伝説誕生』は2015年公開のインド映画である。内容については、全く説明する必要を感じない。誰がどうみても開始まもなくおおよその展開がわかってしまう。それぐらいシンプルでパワーあふれる作品だ。

■物語は、それなりに身分が高そうな女性が、赤子を抱いて逃亡するところから始まる。もうこの時点で、この赤子は、どこからどうみても、運命づけられた勇者であると確信できる。赤子は自らの身分を知らないまま心のあたたかい田舎の村で育てられ、たくましく成長する。そして偉大な勇者となり、自らの出自の秘密を知り、美女と出会い、とってつけたようにダンスし、そして強大な敵と戦い勝利する、きっとそんなストーリーだろう。ここまで察するのにおよそ1分もかからない。むしろ、見る前にわかるといっても過言ではない。つまりこれはネタバレでもなんでもない。

■そこまでわかってしまうと、もう何ももったいぶる必要はない。約5分で成長を遂げた主人公は、なぜかわからないが、デカい滝に魅了される。滝の上にはどういう世界が広がっているのか、緑の地、宇宙・・・そしてクジラ、なんかそういうことでも思ったのだろう。滝を登り始めた主人公シヴドゥは、何回か落ちたりしながら、あっという間に笑顔のまぶしい髭のタフガイへと成長する。

■こういう、壁を登り切ったら何とかなる的なエピソードは英雄譚にはつきものだ。高名なソン・ゴクウも物理がはなはだ怪しい細くて高い塔を登ったし、波紋の修行にはぬるぬるの壁登りとかが欠かせない。ショーネン・ジャンプ的神話のステレオタイプに見られるとおり、壁登りは主人公の成長や強さを表現する試練の象徴であり、それはインドでもほとんど変わらないようだ。

■水の流れる岩壁は普通に登るのが難しい。影の同盟的なNinjaの里で修業したブルース・ウェインであっても100回は滑落して背骨がズレるだろう。所詮はお坊ちゃん育ちだ。予め王者となる運命が約束された青年シヴドゥとは格が違う。たぶん、恐怖をコントロールしたり、暗闇を味方につけたり、死をまじかに感じたりとかそういうことも必要ない。圧倒的な英雄力だ。

■だいたいこういうクライミングシーンは、挫折した主人公がリベンジするために物語中盤以降に配置されるものだが、バーブバリではこのシュギョーのクライマックスシーンがほぼ冒頭にやってくる。圧倒的なスピード感だ。デス・ロードにより圧倒的なタフガイであると証明されている、頑丈なマスクが似合うトム・ハーディに殴り倒されたりするエピソードも一切必要ない。開始10分で、主人公であるたくましい青年シヴドゥのタフさはほとんど完成され、滝を制覇する。命綱も無し、目立ったケガもなしだ。

■滝を制覇したシヴドゥは、なんか天女めいた幻に導かれ、結構あっさり何の後ろ髪を引かれることもなく、育った村や家族を捨てて旅にでる。そして、まんまと美女に出会い5分で虜にする。ことを始めるのにわざわざNinjaの里を爆破する必要もない。英雄は、運命に導かれるまま、なんとなく美人に加勢したいからみたいな理由で、強大な敵との戦いにカジュアルに参加するのである。やっかいなウェイン産業の役員会を誤魔化したりするような面倒なプロセスは、英雄には一切存在しない。

■本作の敵は、銀河帝国のごとく強大で無情な王国。マヒシュマティ王国だ。王はやたらとタフでイケメンな360度評価でどこから見ても性格以外はナイスガイなバラーラデーヴァ。めちゃくちゃ強い忠義の奴隷戦士カッタッパを従え、猛り狂った野牛を素手でねじ伏せたうえに、一撃で殴り倒すほどの力を持っている。バカでかい黄金像も作るし、決して寛大ではない。どうみても強敵だ。たぶん、そのうちこいつと戦うのだろう。

■物語は進展し、王国にまつわる因縁が描かれ、そしてシヴドゥは王たる運命を自覚する。ここまでが今回のエピソードだ。次回作を見なくてもおおよそその後何が起こるかは想像がつくが、それは野暮というものだろう。筋書きなどどうでもいいのだ。もしかしたら、ヒース・レジャーのような魅力的な敵が現れないとも限らないので・・・たぶんないと思うが・・・また機会を伺ってテレワークしようと思う。

■『バーフバリ』は一作目を見る限りまったく複雑なところを感じさせない直球中の直球のような作品だ。良いのだ。ややこしい人間を描くだけが能じゃない。昨今の物語は複雑すぎるきらいがある。今、世界中で求められているものは安心。そしてパワーだ。傷ついた心をいやすのは、深い、頭を悩ませるストーリーとは限らない。なんのひねりも無くていい。ストレートで、ただただ楽しく、観た後でこれといって何も発見がないような、そういうスーパーな娯楽作品こそは我々に無限の力こそパワーを与えてくれる。『バーフバリ』はいわばリポビタンDだ。疑問を持ってはいけない。ただただ何も考えずに飲み干せば、明日のテレワークを戦う活力が得られるであろう。


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