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おれは、はやりに乗り遅れまいとサンデル氏の新刊(ウスクナイブック)を手にした『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

■マイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?(原題:The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good?)』という本の邦訳が出たので、読んでる。読書に時間をとられるので、今日は簡単に「読んでない段階での」解説を行う。野心的だ。頓珍漢だったらスマナイ。

■能力主義の弊害、能力差別といったものが、少し前からチラホラと話題に出るようになっている。自分がこれに注目しているのは『トレイルブレイザー』を人に勧める理由と同じで、例によって、これについて正しいか正しくないは正直知らないが、たぶん流行るだろうと思っているからだ。なぜかというと、格差の問題を解決するうえでは、不遇な人も別に悪くない、という考え方が必要になってくるだろうからである。格差の問題を放置するとマズそうという話は、みんななんとなく知ってるだろうから省略する。

■この本の話のポイントは、高い地位についたりお金を稼いでいい暮らしをするためには、努力が必要である、という多くの人に当然の常識として受け止められている価値観が、裏側では、あまり評価をされない仕事をしていて稼ぎも多くない人は、なにかしら自業自得でそうなったのだ、という差別を含んでいる、ということを可視化することにあると思っている。(まだ2割ぐらいしか読んでないが)

■「努力が報われる社会」というのは、それ自体は悪くないように見えるが、昨今よく知られるようになったとおり、階級制度が無くても、経済的な資本や文化資本の差など様々な要因により社会階層は結局は固定的であり、「努力が報われる社会」というのは思ったほど成り立っていない。それを捉えにくくしている原因がMeritocracy的な価値観・・・暗黒面であるといったようなことなんじゃないかと思う。(まだ2割ぐらいしか読んでないが)

■余談だが、能力主義、実力主義という日本語がピッタリ来ているかどうかはちょっと疑問で、メリットというのは「よい報いを受けるに値するような性質」のことを言っているはずである。反対はデメリット。両方まとめると、日本語で言う「応報」が示す概念に近いように思う。インガオホー

■ともかく、そういう実力主義的なものがはびこることによってどうなるかというと、エリート側は、正当な努力は報われるのだ、そして努力を奨励することは正しいことだ、というように考えが強化される一方で、非エリート層に対して、あいつらは結局堕落している的な差別感情を内に抱き、対する非エリート層は、自分たちは努力できなかった落伍者である的な卑屈な感情を内心に抱くとともに、エリート層への憎しみみたいなものを持つようになる。そうなると社会はどういう風になるか、というようなことがNowアメリカとかで起こっているようなことなのだろう。

■要するに、適切な「応報」が行われるほど社会は流動的ではないにもかかわらず「応報」的精神だけは広く人々に行き渡っていて、そこから問題が生じていると考えることができる。人々に善行を行わせるためのフィクションとしての「努力が報われる社会」はいいとしても、社会システムが因果応報を思想的ベースとして作られることには問題がある。日本ではまだマシだが、要するに病気をするやつは、ヘルシーなライフスタイルを守れない本人が悪いのであって、そこに税金を突っ込むなんて馬鹿げてる、といったような考え方は、特に米国では実際に根強いらしい。いわゆる自己責任論みたいなものだろう。最近日本では言われなくなったな自己責任論。

■つまり、人々の価値観に自業自得的なものの見方が深く強く根を張っていることに着目すると、様々な問題をそれと絡めて説明することができる。そこを分析して見せたうえで、さあどうする?という問題提起をする。たぶんそういった内容なんだろうと思う。(まだ2割・・・)

■仏教にも因果応報という概念があるし、キリスト教でも天職の概念があるし、プロテスタンティズムが資本主義を発展させたという歴史もある。つまり、この「努力は報われる精神」は、人類にとっては洋の東西を問わず伝統的で、とても親しみやすいものの考え方なのだろう。長く生きのこってきたものにはきっとそれなりに理由があるはずだとも思う。しかし、それに対してビッグネームが新刊をぶっこんできたというのは、あってるか間違ってるかはともかくとして、この問い直しがそれなりに大きなムーブメントになる、ということを示しているんじゃないだろうか。

■つまり、もう一回言うと、なんか流行りそうだから読んだほうがいいと思う、ということである。ちなみに、話題になっているので手に取った人はそれなりに多いようだけど、なんとなく、これを最後まで読む人はあんまり多くないんじゃないかなという気がしなくもない。文章はとても読みやすいんだけど、ちょっとテキスト(教科書)っぽいかなあ、という感じ。全部読んだ結果、自分が間違ってたことがわかったり、意外な発見があったらまた書こうと思う。


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