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How are you? の文字以上の意味

“How are you?”
“I’m fine thank you, and you?”
“I’m fine, thank you. Please have a seat.”

中学生の時に英語の授業が始まってから、授業の冒頭であいさつがてら、このやりとりを先生とクラス全体が必ずやることになっていた。
いちいち面倒くさ~、と思いながらも、この決まり文句をクラスみんなと揃って声に出してから授業が始まった。

初めてアメリカに行った時のことだ。
現地の人に、“How are you?” と言われ、「そう言われたらこう返すしかないよな! 授業の度に口にしていたこのフレーズには自信があるもんね!」と張り切って、

”I’m fine thank you, and you?”

ところが、予想だにしなかった答えが。

“You’re welcome!”

え?! なぜどういたしましてなんだ?

あっけにとられていたが、よく考えてみたら、私が”Thank you” と言ったことに対して、「どういたしまして」 と返してくれたのだということに気づいた。
そんな返答、学校の授業で習わなくて焦ったわ。

その一件があってから、現地の人の”How are you?” のやりとりを観察していると、教科書の決まり文句であった”I’m fine thank you, and you?” と言っている人は全然いなかった。

How are you? と聞かれたら、単にFineとかGoodとか、Not so bad(悪くはないね)ということもあれば、Tired(疲れてる)などといった、短いけれどもその時のその人の調子に合わせた受け答えをする。
それであなたはどうなのさ? といった具合に、続けざまに”How are you?” と聞き返す、といった感じだった。

また、単に「元気だよ」で済ませたくなくて、その時の調子や共有したい話があるときには、受け答えは短く本人の状態を表す言葉だけにとどまらず、そこからすかさず話が始まっていくという感じだった。

なるほど、そうか。
だって、”How are you?” って、「あなたどう?」「調子はどう?」って聞いてるんだった。
だから、授業で毎度繰り返していたように、必ずしも毎度Fineとは限らない。
元気ってほどでもないけど普通なときもあれば、元気じゃないときもある。
それから、そんな挨拶の一貫のやり取りにいちいち「ありがとう」というお礼めいた言葉を言うのも、改まった場面でないとちょっと違和感かもしれないな。
教科書に載るようなフレーズは、きちんとした言い回し代表みたいなもので、日常的に使われているかどうかは別物なんだと気づいた瞬間でもあった。

ちなみに、観察の結果もう一つわかったことは、”How are you?” は挨拶の言葉のあと、ほぼセットで使われるということ。
すれ違いざまに挨拶を交わすだけのような、時間がない場合を除いて、「おはよう」とか「こんにちは」といった挨拶フレーズのあとに、すかさず”How are you?” が続く。
それは、相手との関係性を問わず、例えばスーパーで買い物をするときに初めて会う店員さんなどですら、挨拶+”How are you?” なのだ。
日本語の会話でも、「おはよう! 元気?」なんていうやり取りはあるけど、私の中では友達に会うときのノリくらいだったけれど、なるほど英語の挨拶はこんな感じなのか、と思うのであった。

さて、場所は日本。
ある日の朝、私は職場に出社して、”How are you?” のすごさに気づく。

その日はもう出社するまでにクタクタになっていた。
私は電車通勤だが、いつも使っている鉄道の一部区間が訳あって2日前の始発から運行中止になっている。
その区間を除けば電車は走っているが、その区間を越えないと会社に行けないし戻っても来られないので、別の迂回する路線を使って通勤して2日経過。
前日のうちから、その一部区間はまだ復旧しそうにないと聞いていたので、この朝も同じく迂回ルートを使って出社した。
迂回ルートを使うと、片道プラス30分の通勤時間になる。
更には、私と同じように、運行停止中の路線から通勤客が迂回ルートに流れるため、迂回ルートも混雑して結構大変なのだ。
それでも、この3日間、迂回ルートを使っていつもより時間をかけて通勤した割には、朝起きてからは高速で身支度を済ませて、朝ごはんも食べずに家を出ることで時間を稼いだため、会社の出社時刻に一分たりとも遅刻することもなかった。

私は会社に着いたらいつもと変わらぬ時間に「おはようございます」 と挨拶して自分の席に着いていたが、正直3日目の迂回ルート通勤、体はクタクタでヘロヘロだった。
私の「おはようございます」に反応して、チームの方たちも「おはようございます」と返してくれる。

その時に思ったのだ。
なんか、なんか……それで終わらないで、その先聞いてほしい。

今日は元気? 調子はどう? って聞いてほしい。
“How are you?” って聞いてほしい!

もし聞かれたら、「それが、実はこの3日間、迂回ルートを使ってて、通勤時間は長くなるし、電車も混雑するしで、もう朝から疲れちゃって……」って話始める!
でも、何も聞かれていないのに自分からこの話しても、周りの人にとっては興味ない話かもしれないし黙っておくか。

朝から大変でしたストーリーを言いたきゃ言えば良かっただけだろうが、遠慮なのか、ただのシャイなのか、当時の私は結局仕事に関係ない話だし、遅刻して言い訳を考える必要があるわけでもなかったので、電車がどうこう迂回してどうこう、という話はしなかった。

しかし、英語での挨拶の後に続く”How are you?” ってすごいな、ありがたいな、と気づいた瞬間だった。
「元気だよ」と返すただの挨拶の一貫なだけのときもあるかもしれないし、
元気でも元気じゃなくても、相手と会話をスタートさせるきっかけになる何かを引き出す一言になるかもしれない。
ただの挨拶の延長ではなく、ものすごい可能性を秘めたツールかもしれないと思った。

そんなことから、日本語の会話で日常の挨拶の後にすかさず「元気ですか?」と聞くのは、なかなか時と場合を選ぶことがあるけれど、できる場面で相手に聞いてみようと思うことになった。

そしてもしあなたが英語を学んでいたら、How are you? と聞かれたら、せっかくなら教科書テンプレート的な応答に留まらず、その先の会話の糸口になりそうなツールとして活用してみるのもありかも。

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