見出し画像

▍"いま目の前にある壁"から逃げた先に待つ未来


※注釈※
本記事では、「目の前の壁から逃げる」という表現を使っておりますが、「転職は悪」と説きたいわけではありません。この転職時代、若手のビジネスパーソンを取り巻く転職市場への警鐘になれば幸いです。


▍はじめに

私は、新卒で入社したベンチャー企業のとある部署で、入社してわずか数年で最古参となりました。

自分より先に入った人が全員転職やら異動やらで、
全員組織を去っていき、先輩がいなくなったということです。

そして、自分よりあとに入った人々も、一桁に収まらない人数を見送ってきました。

中には心から背中を押せる理由で組織を去る人もいましたが、
正直な話、私の目には「キャリアの下方修正」としか思えない選択をしている人が大半だったように映っています。
(なお、転職や異動自体には、一切ネガティブな思いはありません)

この時代にあって、キャリアを最大化することそのものに否定的な人が一定数いるのは理解した上で、

去っていった人の仕事を回収して役割と責任が増え続ける、
一見「コスパ」の悪い環境に居続けている自分が、簡単に場所を変えることのデメリットを自分なりに整理しようと思います。



▍ジョブホッパーを取り巻く「キャリア論」


"ジョブホッパー"

この記事において、この言葉はあまり良くない意味で用いています。

健全な意思決定の結果として転職回数が増えた人を指すのではなく、
別に環境を変える以外にもより良い選択肢がある中で、
異動や転職をある種の「リセットボタン」として、環境や場所を移動して回る人のことを指します。

世の中では、「年功序列・終身雇用の時代は終わった」という"事実"と、
「転職は当たり前」という"言説"が、必要以上に紐づけて語られている
ように思います。

就活生の大半が将来的に転職を前提として会社選びをし、
面接に出てみると「御社からどんな会社へ転職する方が多いですか?」と
純粋な興味として当然のように質問されます。

年功序列で給料が上がっていくわけでもないし、終身雇用もないから、
どんどん転職するのが当たり前であり模範であるとする記事や広告は後を絶ちません。

果たして、本当にそれは正しいのでしょうか。

私も人材ビジネスに関わっている身なので、
競合各社の打ち出し方や、SNS上にはびこっている野良の転職エージェントの売り方を見るに、我々人材会社がこの状態に少なからず手を貸してしまっていることは、強く反省しているところです。

「転職することは悪いことではない」
「転職を選択肢にしたうえでキャリア形成をすべき」

このような考え方は至極真っ当であり、私も同感です

一方で、決して賛同できない言葉も流布されています。

「辛いのは環境があってないから」
「転職すると年収が上がる」
「今のままでいいのか?」
「逃げたいときは、逃げていい」

本当でしょうか。

これらの言葉をあなたに投げかける人や企業は、
あなたのキャリアに責任をとってくれるのでしょうか。

これらの多くは、
語弊を恐れずに言うなれば、「人の不幸の上に成り立つビジネスを、人の不幸を生み出すことで成り立たせるマーケティング手法である」と考えます。

キャリアや待遇はあなたの能力と、それを生かした他者貢献の実績によって成り立ちます。
(いわゆる "情弱ビジネス" で食っていく覚悟があるならばその限りではありませんが…。)

環境を変えることは、時には有益な選択になることもありますが、
多くの場合「課題解決」や「他者への貢献」、それに伴う「評価」は環境が決めるものです。

つまり、環境を変えることで得られるポジティブな感情は、
求められるものが変わったこと=ゴールやハードルが変わったことによるものであることが多いのです。

そうです。
場所を変えてもあなたの能力や他者貢献の価値は変わりません。

あなたは何も変わっていないのに、評価が変わることがあるのです。

これを逆手にとり、
転職時代だとか、ラクして金を稼げるとか、市場価値を上げようとか、
そういう甘い言葉で若手のキャリアの「当たり前」を、自分たちの利に寄せた形の既成事実として作ろうとしている業者がいるのです。

そういった悪意が、若者たちのキャリアを取り巻いていることを、
みなさんにはぜひ理解していただければと思います。


▍転職時代のジョブホッパーたちの思考回路

上述の通り、環境を変えると、
一定の確率で能力が変わっていないのに評価が上がることがあります。

これが話をややこしくするのです。

転職や異動直後に偶然良い思いした人は、
「そうか。自分が前の職場で活躍できなかったのは環境のせいなのか。」という思いを抱くでしょう。

前の章でも書きましたが、
残念ながら転職した「だけ」ではあなたは何も変わっていないのです。
何も変わっていないのに、環境が変わることで自分が変わったと錯覚するのです。

転職先にいった途端にそのドメインの専門知識でマウント取ってくる方も多くいますし、なぜか突然自分は優秀だと言わんばかりに饒舌になる方もいます。
(心当たりがあるのではないでしょうか…?)

これはダニング=クルーガー効果に言われるところの「馬鹿の山」にいるのでしょう。

『ダニング・クルーガー効果(優越の錯覚)』

「馬鹿の山」は本当に登りやすく景色の良い魅力あふれる山です。
ただその先にある「絶望の谷」のことは、登っている間には誰しも考えないものなのです。

そしてジョブホッパーの思考回路の最も危険な部分が、
この「絶望の谷」への危険な認識にあります。

本来、初学者故に認知の錯覚が生まれた「馬鹿の山」から、
学びを深めるうちに壁にぶち当たる「絶望の谷」を経験して自身の無知を自覚し、継続した努力への向かっていく過程を示した図であるのですが、

本記事で話すようなリセットボタンの快感を知ってしまうと、
この「絶望の谷」を「環境のミスマッチ」として認識し、自分の人生から排除すべき不自然であると一蹴してしまうのです。

一度でもこう思ってしまうと、
次の壁にぶつかったときにも「これは環境が悪いのか」と挑戦することを辞めてしまいます。自身の能力を開発するまでもなく、リセットボタンを押すことで、いま目の前にある壁からは逃れられるからです。

本当は、いま自分の能力を上げることが正解であるにもかかわらず、
そうでない道を選んでしまう事があるのです。

▍環境を変えようとする若者に贈る言葉


「活躍できないのはあなたのせいじゃない」「環境がマッチしていないだけ」「強みをみつけて年収アップ!」そんな広告を見ない日はありません。

大きな声で言葉巧みにあなたのキャリアに介入してくる人や言葉が、
いま世の中にははびこっています

彼らは何者でしょうか…?

大半は転職エージェントではありませんか…?

彼らはあなたが転職するとお金をもらえるのです。
故に夢を語り、天職を語り、そして高い年収を謳います。

業者ではない友人や、自社を辞めて転職したばかりの先輩はどうでしょう?

「お前も他の会社やったら年収あがるよ」
「◯◯(自社)のここがだめだよな」
「転職して良かった、めっちゃ楽やで」

これらの言葉にそそのかされてキャリアチェンジをした人を何度もみました。ただ残念なことに、リセットボタン的に転職した人は、転職後わずかの期間の「開放された感」以上の幸福は享受していないように思います。

転職して1ヶ月後に飲みに行くといきいきしているのに、
半年後に飲みに行くと涙を流していたりするのです。

なぜでしょう?

理由は1つです。
能力が上がっていないからです。


キャリアのことを「待遇」「評価」によって測る人は、
多くの場合年収が上がる転職を「キャリアアップ」と捉えます。

ただ、本質的なキャリアとは「他社に貢献できた価値」の結果でしかありません
どれだけの人の問題を解消できるか、それにつきます。

ここを履き違えて、乗り越えるべき困難や解決すべき問題、そしてなにより受け入れがたい自身の能力不足から逃れた先に、あなたが笑っている未来はありません。

いま目の前にある壁から逃げた先の未来は、
「絶えず迫りくる壁から逃げ続ける人生」でしかないのです。

▍おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございます。

一貫して「環境を変えるのは悪」とも受けとられかねない書き方をしていますが、もちろんそれそのものが一概に悪いとは思っていません。

一方で、文中に述べるような転職推奨に使われる言葉たちと同じ程度のパワーを出すには、多少強い言葉が必要と考えています。

自分の人生は自分で決めるべきです。
だからこそ、自分で困難な道を歩めるようなキャリアを築いてください。


「逃げたっていい。」「頑張りすぎないで。」


そんな優しくも無責任な言葉には、未来の困難を取り除く力は一切ないことを、ぜひお伝えできればと思います。

未来ある若手の皆さんが、本質的に充実したキャリアを歩めることを願ってやみません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?