「スター・トレック」第1シリーズのThe Original Series(以下、TOSと略す)は、
というオープニングのナレーションに、そのコンセプトが端的にあらわされた1話完結型のSFドラマ。
西暦2263年に地球を旅立ち、5年間の深宇宙探査に赴いたエンタープライズ号。異星人との対外折衝に艦内のドラマ、中でも冒険家で型破りなカーク船長、論理を重んじ感情を示さない副長のスポック、人情味あふれる医師のマッコイの3人が織り成す人間模様が最大の魅力といっても過言ではない。
さて、第1シリーズが終了後、アニメ「まんが宇宙大作戦」を途中に挟みつつ雌伏10年、本編監督にはロバート・ワイズ、特殊撮影にはダグラス・トランブルとジョン・ダイクストラが担当。ジェリー・ゴールドスミスの音楽を添えて劇場版としてよみがえった1979年の映画「スター・トレック」より。
西暦2272年、神秘的なエネルギークラウドが地球に向かって接近する。提督に昇進していたカークは地上任務に就いていたが、この危機に乗じて、再びエンタープライズ号の指揮を執る。スポック、マッコイも乗り込み、エネルギークラウドが自ら名乗る「ヴィジャー(V'Ger)」の正体は何か、その意図は何か、を解き明かすべく、エンタープライズ号のチャレンジが始まる。
「2001年宇宙の旅」ふたたび!といえる見事な視覚効果に、「未知との遭遇」に当時話題をさらったNASAのボイジャー計画を掛け合わせた陳腐なプロットはさて置いて。
本作、ワイズが演出した理知的で男臭い世界、特にスター・トレックの世界観でもリアルタイムでも10年ぶりに再会した、カーク、スポック、マッコイの熱い友情も、また一つの魅力といってよいだろう。
カークが艦長になったために、副長に格下げされたウィラード・デッカーは
「2年ぶりに船に乗るあなたに、船の指揮を執る資格はありますか?」と、現場のリーダーの資質を問う。そもそも、例えば未確認の物体を前にしたとして、デッカーはリスク回避型。我らがカーク艦長は「とりあえず行ってみよう」の精神で、まったく考え方が合わないのだ。
窮地に立つカーク艦長の前に、転送装置で颯爽と黒づくめの恰好で登場するスポック(様)。まるでアラン・リックマンの様な立ち姿に、観ている私もメロメロだし、途端にスゲエ嬉しそうな顔をするカーク船長もまた、たまらない。…すぐに、仕事仕様の気難しい顔に戻るけれども。
ともあれ、科学主任に再度就いたスポックとマッコイの力も借りて、調査を粛々と進めるエンタープライズ号。カークとスポックの噛み合わないようでちゃんと噛み合ってる会話、チャチャを横から入れるマッコイのシーンも見どころの一つだ。
カークにも中盤、見どころが与えられる。改装後のエンタープライズの特性をカークが理解していなかった為、ワームホールに陥り、エンタープライズ号に危機が迫っていた際にカークが出した実行不可能な命令を即座に撤回し艦の危機を救ったのだ。その直後の会話より。
この好青年:デッカーも、堂々とエンタープライズ号に乗り込み艦内のデータから地球のことを調べ上げたエネルギークラウドが、帰還ついでにデッカーの理解者といえる(本作のヒロイン)アイリーアを誘拐する段にあたって悲嘆にくれる。
次いで、アイリーアの格好をした生命体が、エネルギークラウドのメッセンジャーとして乗り込んでくる。「あれはコピーだ」と冷静に告げるスポックと、「あれはオリジナルだ」と信じたいデッカーの論争。デッカーが今度は感情的になる。
アイリーンを失い、エネルギークラウドの正体は掴めど目的はわからず、調査は滞る。事態を打開すべく、スポックは独断先行でエネルギークラウド内に乗り込み、マインドリンクを試みる。それを「彼なりの考えがあるのだろう」と位置情報を知るにとどめるカーク。カークのスポックへの信頼がうかがえる一幕。
実はスポック、直前まで故郷:バルカンで感情を完全に捨て去る境地に至るコリナールの修行に入っていた。それを達成直前で打ち切ってまでエンタープライズ号に馳せ参じた理由を、「非論理的」と口では切って捨てつつも、心の中では彼の価値観の一つを占めるものにあることに、ヴィジャーとの邂逅を経て、改めて確信する。
帰還したスポック、不覚にも声を高ぶらせて、自身が横になっているベッドの傍に立ったカークの手をぎゅ、と握りしめて
そして、ヴィジャーは母なる地球を求めているのだ、と告げる。
と、このように不和と友情、出逢いに別れ、安泰から冒険といった、感情を揺さぶるドラマの積み重ねがあるからこそ、ヴィジャー(V'Ger)の正体が判明する段は、不覚にも、泣かされるのだ。
最後、ヴィジャーが得たくて止まなかったものを与えるために、デッカーは自らの身を捧げる。
以下、デッカー、スポック、カーク、マッコイのやり取りから引用。
ヴィジャーは進路を変えて、外宇宙へと再び飛び去って行く。これにて任務完了。次の任務に向けて、エンタープライズ号もまた旅立つこととなる。発信の命令、最後の台詞を放つ前に、カークがくいっとスポックのほうに椅子の向きを寄せるのが、なんかステキ!