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"惨めでも疲れ果ててもいないのだな、私の若いころと違って。"_"Breaking Away"

日本では「ヤング・ゼネレーション」という絶妙にダサい邦題で公開された1979年のアメリカ映画「Breaking Away」より。インディアナ大学の学生たちが自転車競技に情熱を燃やす姿を描いている。監督は「ブリット」で当時絶頂のスティーブ・マックイーンを主役に、ロケ撮影で映画史上最高と言われるカーアクションを演出したピーター・イェーツ

アメリカ合衆国のインディアナ州ブルームトンで暮らす4人の若者、デイブは、ハイスクールの課程を終えたばかりだが大学に進む気はあまりない。彼の父親は、昔はストーン・カッター(石切工)であったが今は中古車の販売業を営んでいる。デイブの趣味は自転車レースで愛用の自転車を乗り回していた。彼はイタリアのレーシング・チャンピオンに憧れ、その影響でイタリアかぶれになっており、ことあるごとに怪しげなイタリア語を口にし、イタリアのクラシック音楽ばかり聞いていた。
やがて4人はチームを組んで、共に競技大会に挑戦することを決意するのだが…。

あらすじ

ピクサーの「カーズ」原語版において1942年型ウィリスMB、退役軍車のサージ役を演じたポール・ドゥーリイが、仕事に家庭にもほとほと疲れ果てたデイヴの頑固な親父を演じている。そんな彼が、溌剌と自転車に打ち込むデイヴの姿を見て、ふと漏らした「若さへの憧れ」のため息から、引用。

Dad: He's never tired. He's never miserable.
Mom: He's young.
Dad: When I was young I was tired and miserable.

https://www.imdb.com/title/tt0078902/quotes/

この台詞の裏側には、かつてストーン・カッターを仕事としていた時にぴりりと感じた苦い挫折がまぶされている。

Dad: I was proud of my work. And the buildings went up. When they were finished the damnedest thing happened. It was like the buildings were too good for us. Nobody told us that. It just felt uncomfortable, that's all.

https://www.imdb.com/title/tt0078902/quotes/

だからこの親父、自分が若い頃はそうじゃなかったからと、最初はデイブの最大の反対者、それが終盤にはデイブの最大の理解者になる。デイブが頻出したトラブルの前に挫けそうになった時、その背中をぐいと押すのだ。


ともあれ、基本あらすじは、周囲との断絶から和解を得て、若者が未来に向けて一歩踏み出して終わる、典型的なサクセスストーリー。一歩間違えれば80年代的甘々なティーンエイジものになりそうなところ、そこはイェーツの演出、自転車競技の硬質な描写、エッジの利いたスピード感で押して押す。とりあえず、

鞍は尻をかけるための鞍にしてペダルは足を載せかつ踏みつけると回転するためのペダルなり、ハンドルはもっとも危険の道具にして、一度ひとたびこれを握るときは人目を眩ませしむるに足る目勇ましき働きをなすものなり

「自転車日記」夏目漱石 青空文庫より引用

を(漱石の意に反して)文字額面通り受け取った時に解釈できるであろう、自転車を駆る競技のだいご味そのものも、描かれていると言ってよい。

「ロッキー」や「ロンゲスト・ヤード」などアウトローが現況を脱するためにスポーツに打ち込んだ70年代ニューシネマの時代から、青春最中の若者が自己の殻を破るために打ち込む「スポーツ映画」のジャンルのはしり、と言ってもよい本作。ぜひご覧あれ。

キャスト
デニス・クエイド、ダニエル・スターン、デニス・クリストファー、ジャッキー・アール・ヘイリー


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