「人々は救世主を求めている。だがそれは、平和の王子じゃない…全く別のヒトラーさ。」_『The Stranger』(1946)
オーソン・ウェルズが「第三の男」の3年前に奇しくも「追われる男」を演じた、1946年に自身が監督・主演したフィルム・ノワール『The Stranger』より。
逃亡中かつ米国に潜伏しているナチ高官、という当時としてはスキャンダラスで生々しい題材。とはいえ、「市民ケーン」の様な圧力を受けることもなく、興収は制作費の2倍を回収する、そこそこの成功を収めた。
物語は第二次世界大戦後のアメリカで展開される。オーソン・ウェルズ演じる元ナチスの指導者フランツ・キンドラー(オーソン・ウェルズ)は、新しいアイデンティティを使って小さな町で学校の教師として生活している。
しかし、彼の過去の行動が誰かによって暴かれ、キンドラーを追う連邦捜査官ウィルソン役(エドワード・G・ロビンソン)が登場。
ウィルソンはナチス戦争犯罪委員会の一員であり、キンドラーの戦争犯罪を暴くために町にやってくる。キンドラーは、彼が実際にナチスの残虐行為を指揮した強力な戦犯であり、ナチスの指導者の中でも上位に位置する人物だという事実を隠すために、悪巧みを織り交ぜる。方や、ウィルソンはキンドラーの過去と真実を暴くために町を調査し、キンドラーが戦犯を逃れるために何をしたかを解明しようとする。
映画は緊張感ある展開とミステリアスな雰囲気の中で進んでいく。とはいえ、注目すべきはクライマックスだろう。ついに本当の姿をあらわしたキンドラーは、「第三の男」の地下水道とは天と地、時計台のうえで追いつめられる。露骨にバロック趣味が露出する。
時計台に身を隠す巨体の男キンドラー。ロレッタ・ヤング演じる愛人が差し入れを持ってくる。二人きりの世界が展開される。
甘美な世界は持続しない。ウィルソンはウェルズの居場所を突き止める。
銃撃、時計台が崩れ始める。右肩を撃たれたキンドラーは観念して、時計台の外に崩れ落ちる。だが、最後は時計台の人形の「刃」に貫かれて、息絶える。キンドラーが死んだ後も、時計は狂ったように回り続ける。キンドラー以外の「悪」は、まだアメリカの中で生き延び続ける、そう暗喩するかのように。
もうひとつ。ウェルズの映画を象徴するのが、ガツンと頭をシェイクしてくる、印象深い台詞回しだろう。本作、ウェルズは脚本を手掛けていない。それでも、彼の口から発される台詞は、ハリー・ライムの「鳩時計」云々の含蓄を有している。以下、キンドラーの台詞より引用。
このセリフ、現代社会を暗示している様だと思うか、オーソン・ウェルズらしい冗談だな、と思うかは、貴方次第だ。
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