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“聖書を学びなさい…答えを見つけられるでしょう。“_だが、無かった。“Boy Erased”(2018)

「こいつはビョーキだ!」のレッテルばり。それは心に大きな傷を残す。
真の姿を見せること。人の前ではむずかしい。

まして、支配的な親の前で、息子が告白することなど到底叶わないだろう。
特に、どの時代でも父親というものは、息子に「男らしさ」を期待するものだ。そこから溢れてしまったすべての息子は、人扱いされなくなってしまう。

この映画は、少年が「あるがままの自分」を受け入れるまでのゆらぎの過去、
そして現在。2部構成で「自分のことは自分で決めるしかない」強さ、したたかさを身につけるまでを描いている。父と母の視線も交えつつ。

アメリカの田舎町。牧師の父と母のひとり息子として愛情を受けながら、輝くような青春を送ってきたジャレッド。彼は、あるきっかけから自分が同性愛者であることに気づく。戸惑った両親は矯正セラピーへの参加を勧めたが、それは、〈口外禁止〉だという驚くべきプログラム内容だった。自らを偽って生きることを強いる施設に疑問と憤りを感じ、ジャレッドは遂にある行動を起こす…。
スタッフ
監督・脚本:ジョエル・エドガートン
原作:ガラルド・コンリー「Boy Erased」 
撮影監督:エドゥアルド・グラウ
衣装:トリッシュ・サマーヴィル
編集:ジェイ・ラビノヴィッツ
音楽監修:リンダ・コーエン
キャスト
ジャレッド・イーモンズ:ルーカス・ヘッジズ
ナンシー・イーモンズ:ニコール・キッドマン
マーシャル・イーモンズ:ラッセル・クロウ
ゲイリー:トロイ・シヴァン
ヘンリー:ジョー・アルウィン

NBCユニバーサルエンタテインメントジャパン 公式サイトから引用


本作の舞台となる矯正施設は、「カッコーの巣の上で」に出てきた様に、不気味で潔癖だ。
この施設でどんな教育を強制されるかは、皆さんの目で確かめてほしい。
はっきりいえるのは、

Pastor Wilkes: Nobody talks about the Therapy outside the Therapy!
https://www.imdb.com/title/tt7008872/quotes/?ref_=tt_trv_qu

神の名の下に、秘密めいた教育によって、入所者は、自我をばらばらに破壊されるところまで、追い込まれるということ。
治療が叶えば施設の手柄。
治療に耐え抜くことができれば「神に選ばれた」「神に選ばれなかった」と平気で口にする、酷薄な世界。

本作は、この不気味な潔癖症の施設に入れられた息子:ルーカス・ヘッジズの苦痛、父:ラッセル・クロウの苦渋。母、ニコール・キッドマンの苦悩。三者三様が丁寧に描かれる。

息子は最初は信じていた、父を憎んでいるわけではなかった。
「父は良かれと思ってやっているものだ」と。
だが「ありのままの自分を棄てる」指導には耐えられず、這々の体で逃げ出した。

父は息子を多数の信徒に向けた説教中、婉曲的に批判した。何も事情を聞かないことへの憎しみが、不意に湧いた。

Jared Eamons: [to his father] I'm gay, and I'm your son. And neither of those things are going to change. Okay? So let's deal with that!
https://www.imdb.com/title/tt7008872/quotes/?ref_=tt_trv_qu

と時が経てば、息子は丁寧に己の感情を伝えられるところ:
一方的に突き放してしまう。

他方、
「まともな男であれ」
それが父が子にかける望みだった。
家業は自動車ディーラー。息子に後を継いで欲しかった。
長老会の牧師。キリスト教の教え通り、許嫁と結婚して子を成すことを当たり前だと思っていた。
父が子にかけた望みは、二つとも叶わない。それは

Marshall Eamons: Study the Bible. Study his word. I guarantee you, every question you have... You gonna find an answer in this book.
https://www.imdb.com/title/tt7008872/quotes/?ref_=tt_trv_qu

という父の教義に反すること。一族の恥。あってはならないこと。

真っ向から対立する父と息子。
光が見えない物語の中で「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」で見せた様なニコール・キッドマンの演技:芯のある、強い母だけが、光だ。
それでも、父と息子の間の溝は埋められない。やがて息子は一方的に絶交を告げる。

4年経った、息子は大人になった:今は故郷から遠く離れた土地で、生計を立てていた。ある日、母は、息子を呼び寄せる。そして息子に、父と二人で話してほしい、と告げる。何を今更と反駁する息子と、父を繋ぎ止めようとする言葉が、印象的だ。

Nancy Eamons: [to her son Jared] I love God. God loves me. I love my son. That's it. I think for your father it's a little bit more complicated.
https://www.imdb.com/title/tt7008872/quotes/?ref_=tt_trv_qu

母の言葉に後押しされて、父と息子は対話する。和解は叶うのか。ぜひ本編を見てほしい。

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