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「新撰組」「水戸黄門」「次郎長三国志」 東映時代劇春の3本立て:変化球気味。

春日太一の「あかんやつら」 手にとられた方も多いだろう。

東映京都撮影所の隆盛から落日までを、入念な取材・考察の元に描いた一大ノンフィクション。
もちろん、本書の中で称賛されている作品だけ見るのでは、もったいない!

「あかんやつら」で触れられていない、またはボロクソにこき下ろされているマイナーな作品、さまざま、ピックアップして今後、紹介してみようと思う。
まずは「新撰組」「水戸黄門」「次郎長三国志」という贅沢な定番 三本だてから。


銀ちゃん、修羅に飛び込む。 「新撰組血風録 近藤勇」。


※あらすじ・キャスト・スタッフは、こちら!

新撰組を描く作品は数あれど、これは異色だ。
どう異色か。
東映京都撮影所が、新撰組を映画にする。主役・近藤勇を演じる市川歌右衛門は銀ちゃんよろしく、太眉毛・巨きな眼・大きなツラの存在感に加え、元田舎郷士に不釣り合いな優雅な所作の演技をする。
「蒲田行進曲」の世界だと思ってほしい。 それが、冷血の物語を展開する。 
モノクロームの画面の中で、銀ちゃんが返り血を浴びる。 
このギャップが恐ろしい。

と同時に、近藤勇 以外の隊士や浪人たちは、みんな野望でギラギラしている。
ヤスら「蒲田行進曲」の大部屋俳優たちの様に、エネルギッシュで脂っこい。
そんな彼らが、銀ちゃんもとい近藤勇の出番を少しでも奪わんと、画面の闇の奥で、暗躍するのだ。

ひときわ強い印象を残すのが、木村功演じる新撰組隊士・篠原泰之進だろう。
篠原は近藤に期待していた。それが「導いていく力がない」と失望に転じるや、即座に裏切る。(所謂慶応3年(1867年)3月の御陵衛士結成だ。)
迷った挙句、近藤は伊東甲子太郎ら御陵衛士の一部を斬殺する。(慶応3年11月の油小路事件)
この事件を契機に、新撰組が「京都の警察」から「破れかぶれのテロリスト」へと堕ちていく過程がドロドロと描かれ続ける。

要は、新撰組の前中盤の成り上がりを一切描かず、後半の内ゲバの挙句破滅していく姿をひたすら描いた点で、珍しい。主役が陽性のキャラクターだというのに、このギャップ。
物語は慶応3年12月7日、新撰組が天満屋で海援隊士らを惨殺する(所謂天満屋事件)で終わる。
たまたま天満屋に滞留していた篠原は、階上から冷たい目で、血塗れの近藤を見下ろす。まるでメフィストのような目つき。「関係ない」と言っても、近藤は篠原から目を離さずにはいられない。
そして

これが新撰組、最後の勝利であった

のナレーションと共に、侘しく、映画は終わるのだ。

脚本を務めた加藤泰は、新撰組に徹底して批判的であり
この3年後に他社(松竹)で脚本を担当した 当時大人気のTVドラマの劇場版「燃えよ剣」(本作同様、司馬遼太郎原作)も妙に陰鬱な作品に仕上げている。

さらには、自身で原作・脚本を起こし、「幕末残酷物語」を監督している。
(これは、また別の機会に書きたい)



いつもより多く斬っています。 「水戸黄門」(1978)。

「柳生一族の陰謀」「赤穂城断絶」ら70年代後半の東映時代劇超大作 の流れで作られた、と思われる一作。創立60周年記念事業という建前で、松下電器にカネを出させて製作したものだ。
なお封切当時は「トラック野郎 一番星北に帰る」との誰得二本立てだった。

初代黄門様:東野英治郎が銀幕に登場。
御隠居一行が加賀百万石を目指す、いつも通りのはなしだ。
最後の舞台は金沢城…ならぬ「松の大廊下」。なのでゴージャス。
敵も、いつもより多く出るので、いつもより多く斬っている。

もう一つ重要なのは、60年代東宝の屋台骨を支えながら、ついぞ共演の機会がなかったクレイジーキャッツと三船敏郎が、東映系で共演していることだろう。
(といっても、同じ画面に一度に現れることはないのだけれど…。)
ハナ肇&植木等&谷啓 のゴールデントリオが演じるのは、偽黄門様。
植木等の助さんは、どう見ても無責任男もとい居残り佐平次。
ゴマスリ・ホラフキ・ヨイショを重ねる軽佻な演技が、見てて心地よい。
ハナ肇は黄門様:ただし殆ど喋らないので、これは、銅像だ。
谷啓の角さんは(クレージー映画もとい釣りバカの役柄よろしく)助さんと黄門様に挟まれ振り回される中間管理職のかなしみを、遺憾無く発揮する。
三船敏郎演じるは言わずもがな、威厳ある一本調子の城代家老だ。

そんな東宝が誇るヒーロー二人に、黄門様は頭を下げさせる。
これができるのは、初代黄門様・東野栄次郎ぐらいのものだろう。

水戸光圀 ................  東野英治郎
佐々木助三郎 ................  里見浩太朗
渥美格之進 ................  大和田伸也
うっかり八兵ヱ ................  高橋元太郎
風車の弥七 ................  中谷一郎
六兵ヱ ................  ハナ肇
助八 ................  植木等
格三 ................  谷啓
奥村作左衛門 ................  三船敏郎
ナレーター ................  芥川隆行


兇状旅へと様変わり。 マキノ版「次郎長三国志」四部作。


あまりにも有名な東宝版9部作
マキノ自ら、籍を移した東映でリメイクしたのが、これだ。
神格化された東宝版と比べられがちだが、こちらも中々良い作品だ。

まず、殺陣も台詞も仁義も出来るスターばかり揃えているのがよい、
台詞の流暢さが、唄のように聞いてて心地が良い。これはセンスという他ない。

清水次郎長:鶴田浩二
お蝶:佐久間良子
お千:藤純子
新吉:堺駿二
関東綱五郎:松方弘樹、曽根晴美
桶屋の鬼吉:山城新伍
大政:大木実、中村竹弥
江尻の大熊:水島道太郎、山本麟一
法印大五郎:田中春男
森の石松:長門裕之

そしてそれぞれのキャラが立っている。
年に合った役者が演じた次郎長は言わずもがな、新吉はひょうきんだし、関東綱五郎は初々しいし、お蝶はヤクザの女らしくない気品の良さ。
石松は「どもり」で、言いたいことを言えないという葛藤があって、それがドラマを動かす:次郎長以上に主人公として物語をリードする。

また、シリーズ通して遊び心に溢れているのが、良い。
例えば二作目でいうと、前半に石松らが博打と女で「からりと」失敗する経緯、後半には牢屋に一家が打ち込まれて牢名主とのユーモラスなやりとりと、二回爆発する箇所を用意しているし
三作目で言うと、在野のお堂の扉を開けて見ると、中に食いっぱぐれた力士たちが詰まっているシーン になるだろう。
意外に切った張ったは少ない:ユーモラスなやりとりだけで遊んでいるのだ。


ただし間を置いて作られた4作目「甲州路殴り込み」は、まるで雰囲気が変わる。
物語が侠客ものらしく、硬質になる。具体的に言えば、全編これ兇状旅であり、お蝶も次郎長一味も追い詰められていく過程。前3作の陽性の雰囲気はない。全編常に重苦しい。
ついでに言うと、石松の「あれだけ面白かった」どもりも治ってしまう。片目を失うのと引き換えに。


ラストは:やりすぎと思えるほど、憎たらしい敵の親分をなます斬りした後、
闇に浮かぶ御用提灯と切り結びながら、画面奥へと消えていく。
「お蝶!清水に帰ろう!」
の台詞が、終わりを感じさせる。
そしてこの1年後には、東映はテレビに時代劇制作の舞台を映すのである。


続きは別の機会に書きます。お楽しみに。


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