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読書感想文「夜明けのすべて」瀬尾まいこ

地味だけど、すごく優しい日常が柔らかく描かれている小説でした。
好きな文章がいくつかあったので、引用しながら好きだと思った理由を書いていきます。

一緒ですね、と言いかけて、やめにした。藤沢さんは俺と同じではない。この会社に来た事情は似ているのかもしれないけど、仕事の仕方は全然違う。

夜明けのすべて 瀬尾まいこ

この一文が好きです。
共感する時代と言われながらも、少し似ている(と、一方的に感じた)から「わかる」「同じだね」と言われるの、違和感を覚える。
ちょっとした気持ちの問題を一人称で丁寧に書いてくれる小説が好きなので、ここで大きく引き込まれました。

美容院に行けなければ髪くらい家で切ればいいし、映画館に入れないのならポップコーンを食べながらサントラを聴けばいい。電車が無理でも自転車がある。代わりではなくそのほうがずっと楽しいことも多い。

夜明けのすべて 瀬尾まいこ

俺はパニック障害なのだ。集団行動に、電車移動に、外食。苦手なことはやる必要がない。無理をしてしんどくなれば、もっと重い症状を抱えることになる。そうやって、いろんなことを自分から切り離していた。だけど、好きなことまで遠ざける必要はない。

夜明けのすべて 瀬尾まいこ

好きな文章その2。
ものの見方を変化させることは、外野からいうのは簡単でも自分が腹落ちするには時間がかかるもの。
その腹落ちするまでの時間を、小説全体の半分以上かけてゆっくり描いてくれたところに好感を持ちました。

働かないと生きていけないし、仕事がなければ毎日することもない。だから会社に勤めている。けれども、仕事のもたらすものはそれだけではない。自分のできることをほんの少しでも、何かの役に立ててみたい。自分の中にある考えを、何らかの形で表に出してみたい。そういう思いを、仕事は満たしてくれる。

夜明けのすべて 瀬尾まいこ(太字はnote筆者によるもの)

最近思ったことと似た結論が書かれていたので引用しました。

仕事を語る時によく聞くのが「仕事内容が好きでやっている」や「やりたいことをするにはお金がかかるから働いている」あたりだと感じます。
けど、なりたいものややりたいことが特にないような、山添くん思考のほうが普通なんじゃないだろうか。

山添くんも言葉としては「仕事が好きだから」と言いますが、
「仕事が好き」って何なんだろう、と思います。

コンサルが好き、金属が好き、会社が好き、どこに当てはまるのかと言われるとどこにも当てはまらない。
じゃあ会社の人たちが好きで、その人たちのためにやっているのかというと、そういうわけでもない。

仕事は「自分ができることで人の役に立ちたい、をかなえてくれる」。
だから、”仕事”を好きになるんじゃないだろうか。

やりたいことって、できることと必ずしもイコールではありません。
やりたいのにできないことを、どうしたらできるようになるのか、チャレンジすることもあると思います。
できないことをするわけですから、それなりの努力が要りますし、努力したからには結果を求められます。
なので、やりたいことをするぞ!って思いながら何かをするのって疲れてしまいそうです。
(そうして疲れたひとたちが、この作品の登場人物たちとも思えます。)

その点、「できることをする」って楽だなと思います。
できるという自信があるなら、結果が保証されています。
できると思えることにかかる努力は、できないことをする努力と比較すればきっと軽いことが多いでしょう。
(習慣化されているとか、マニュアル化されているとか、できるためのメソッドが出来上がっているから「できる」わけです)

私は最近、やりたいことやしたいことをしなさい!と言われると
やりたいことが特にないのに、やれって言われてもな…と疲れてしまい、
休日も満足に動けなくなっていたところでした。

そこで、できること――例えば学生時代の趣味に戻ってみようか…
と思っていたところにこの一文を見つけたので、勇気をもらいました。
そうだよね。

noteを書き始めたのも、振り返るとこの気づきがきっかけかもしれません。
日記帳に、ブログに、ラノベに純文学、小学校から大学までとにかく文字を読み書きして過ごした学生時代でしたので。

蛇足ですが

山添くんが気づきを得て元の自分を思い出していく過程でプロセカのまふゆや瑞希を思い出してしまい、しんどくなりました。しんどい。
けど、このしんどさからしか摂れない栄養があるので摂り続けます。

プロジェクトセカイはいいぞ。ニーゴはいいぞ。

余談:読んだきっかけ

『カリギュラ』の第一報が出た時から山中拓也Pの思想が大変すきなので、映画化したときに山中Pが作品を褒められていたツイートを見て、興味を持ったのがきっかけでした。

映画は残念ながら見損ねたのですが、原作読んでからこの感想を読んでみると、作品の中にある地味だけど優しい感情を丁寧に掬い取ってくれたのかなと感じます。


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