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「N国」とインターネットポピュリズムの現在

■はじめに

 これは僕らPLANETSが毎週放送しているインターネット番組 #ブループリント の9月3日放送分の準備のためにつくったメモを再構成したものだ。そしてこの文章は僕のオンラインサロン「PLANETSCLUB」で先行公開している。こうした放送の下準備のメモのような文章は、よくクラブ限定のFacebookに投稿しているので、もし興味があったら(と、いうか僕らの活動を面白いと思って、支援してくれる人がいたら)ぜひ、クラブにも加入して情報発信を支援して欲しい。

 さて、今日のお題は「N国」だ。この文章を書いている9月9日の夕方、NHKから国民を守る党、通称「N国」の党首の立花孝志が脅迫の疑いで警察に事情聴取されるというニュースが飛び込んできた。僕は思わず、この記事の内容を最新の状況に合わせて更新しないといけないと考えたが、すぐにその必要はないことに気づいた。なぜならば、この文章の趣旨は「N国」や立花の行く末そのものは些細な問題であるという前提で書かれているからだ。そして本当に重要なのは、先の参院選で「N国」と立花があることを証明してしまったことの方だと僕は考えている。僕の考えでは、こうしたスキャンダルは政党としてのN国、政治家としての立花を危うくするかもしれないが、彼個人の人生と影響力そのものについてはそうは言えないだろう。そしてそれ以上に、この選挙でN国が確立した方法論は、この先この国の民主主義に模倣者や、発展的な継承者を生んでいくだろう。僕がウンザリしているのは、どちらかというとこの問題についてだ。では、あらためて始めよう。

■戦後史にとって「N国」とはなにか

先の参議院選挙で、そのトリッキーなインターネットでの情報発信で注目を集め、まんまと一議席を獲得した「N国」とその党首の立花孝志の存在がこの国の人々のうち、民主主義を通じて社会改良を志す人々に衝撃を与えている。僕はこの党の主張に少しも共鳴しないけれど、かといってこの党の存在を泡沫政党として切って捨てる気にもなれない。「N国」の存在が直接この国の国政を左右するとはもちろん思わない。しかしこの党の議席獲得は、今日のこの国の民主主義が置かれている状況の、それもかなり、まずい部分をえぐり出してしまっているように思えるのだ。

これはさんざん言われていることだと思うのだけれど、N国のやったことというのはこの国の選挙制度のハックだ。比例代表と、いびつな中選挙区を組み合わせた参議院の選挙をN国は実によく研究し、立花党首の当選と政党要件の獲得を実現した。この辺の事情については、検索すればいくらでも詳細な解説が出てくるだろう。僕がこのN国という現象に注目しているのは、もう少し別の理由がある。それは、このN国の出現はこの国のインターネットポピュリズムの第二シーズンの開幕を告げたように思えるからだ。

では第一シーズンはなにか? それは津田大介の言葉を借りるなら「動員の革命」の時代と呼んでもいい。国内では2011年の東日本大震災をきっかけに、Twitterが大きく普及して、インターネット社会の中心に躍り出た。そこでは、週に1度生贄を選んで石を投げ、自分たちは「やらかしていない」「まともな」人間だとユーザーが安心するという醜悪な文化が定着した。これは、前世紀の後半に確立されたテレビワイドショーの文化のコピーだと言える。つまり、新聞やテレビのマスメディアのアンチテーゼとして出発したはずのインターネットが、テレビの文化のそれも一番醜悪な部分をコピーしてしまったことを意味する。実際にこの10年間、インターネットの、特にTwitterの言論人の多くが行ってきたことはワイドショーの二軍としての「いじめ」「大喜利」だったことは間違いない。

津田大介が震災後に「動員の革命」を主張したとき、それはテレビポピュリズムにインターネット、とりわけTwitterのポピュリズムで対抗することを意図していたはずだ。しかし、その結果は無残なものだった。そこで発生したのは第1にテレビワイドショー的ないじめ文化の再現であり、第2では「ネトウヨ」「放射脳」などが代表する陰謀論者によるデマやフェイクニュースの拡散だった。これが日本におけるインターネットポピュリズムの第1シーズンだった。では、第2シーズンはなにか。その手がかりがN国の発生を分析すると見えてくるように思う。


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僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

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