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【新連載】御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記 第1回 社会運動から見た香港の変化、そしてわたしの変化

今朝は香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの新連載をお届けします。2014年、世界中から注目を集めた「香港雨傘運動」に17歳で参加し、「学民の女神」と呼ばれた女の子は、あれから仲間たちと新しい政党を立ち上げ、政治の世界へと足を踏み入れました。今年20歳となる周庭さんが、香港で取り組んでいる政治活動、大学生活、香港の文化などについて語ります。
◎翻訳:伯川星矢
▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)

1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。

日本のみなさん、はじめまして。
わたしは香港で社会運動の活動家をしている、周庭(アグネス・チョウ)といいます。今年20歳になる大学生で、香港で新しくできた若者の政治団体「香港衆志(Demosisto)」の副秘書長を務めています。

社会運動を始める前のわたしは、学校に行く以外は、自宅で日本のテレビアニメやドラマを観ているような、どこにでもいる政治に無関心な女の子でした(もっとも、そのおかげで日本語を習得できたのですが……笑)
そんなわたしが社会運動に目覚めたのは、ある日、香港の中高生が組織していた学生団体「学民思潮」(学民)のFacebookのページを見つけたことがきっかけです。その活動を目にしたとき、突然、憧れの気持ちが湧き起こりました。まだ中学生なのに凄いと思いました。わたしはすぐにボランティアスタッフとして参加し、そこから、社会運動家としての道が始まりました。

日本のみなさんは、香港の政治運動といえば、2014年に起きた「雨傘運動」を思い浮かべると思います。当時、わたしは学民思潮のスポークスウーマンを務めていました。あの運動は、香港における民主的な普通選挙を求めるもので、中国共産党と香港政府による政治的権利の弾圧に抗議するため、民間投票やストライキ、占拠などの方法で権力に対抗しました。

香港で行われた社会運動は雨傘運動だけではありません。たとえば2003年に起きた「反基本法23条」の50万人デモは、国家転覆罪の導入による言論統制への反対運動です。2007年〜2008年の「保育運動」は盲目的な自然開発への反対運動。2012年の「反愛国教育運動」は、批判精神を認めない愛国教育に反対する運動です。そして、この反愛国教育運動は、わたしの政治参加の原点であり、わたし自身を大きく変えた出来事でもあります。

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▲2012年の反愛国教育運動の集会。当時15歳だった(写真:Peter Kong)

学民に入る以前のわたしは、カンニングシート片手にクラスの40人の前でプレゼンするだけでも震えてしまうような子でした。それほどシャイな性格ではないつもりですが、大勢の前に立つと、どうしても緊張してしまうのです。

中学4年生(高校1年生)で学民に参加したわたしは、毎週かならず1度は街の宣伝スポットに立つことになりました。最初は、道を歩く通行人になかなか話しかけられず、苦労しましたが、そのうちカンニングシートがなくても流暢に話せるようになり、やがて毎日、街頭に立って一般市民に向けて運動への参加を呼びかけられるようになりました。

その後、わたしたちは愛国教育に反対している親や教師、大学生たちと共同でデモを組織し、合わせて約9万人の人々が街に出ました。さらに、学民思潮はハンガーストライキを決行。約12万人が政府本庁前を占拠し、座り込みを行いました。そのあまりに巨大な民意を目の当たりにした香港政府は、ついに愛国教育を撤回したのです。
この話の続きをする前に、わたしの家族についての話をしましょう。
中国共産党に対抗する危険な政治活動に身を置いているわたしを、家族は心配しないのか、反対したりしないのか、みなさん気になっていると思います。
学民に加わった当初、わたしはそのことを家族に黙っていました。それまで政治に関心がなかったからこそ、両親がそのことを知ったらどう反応するか、怖かったのです。一ヶ月が過ぎて、弱虫なわたしは、そのまま家族に隠し通したままでいるつもりでいました。でも、6月30日を迎えたときに、わたしは隠し続けることに限界を感じたのです。なぜなら、翌日は7月1日。この日は香港の返還記念日であり、毎年恒例のデモの日でもあったからです。

6月30日の夜、家族と夕食を食べたあとで、わたしは何度も深呼吸をして、すべてを家族に打ち明ける決心をしました。わたしは両親の部屋の前に立ち、珍しくノックをしてからドアを開けました。部屋を片付けていた両親は、深刻そうな様子のわたしを見て何かを感じたのでしょう、すぐ椅子に座ってわたしの話を聞こうとしました。さらにもう一度、深呼吸をしたわたしは、学民思潮に参加したことや、反愛国教育運動のことなど、すべてを洗いざらい話しました。実は、そのときはまだ怖かった。隠していたことを叱られるかもしれない。活動自体を反対されるかもしれない。でも、街に出てたくさんの人々の前で話しているわたしが、親の前で自分が決めたことも話せないなんて、何の言い訳もできません。
わたしの話を聞いた両親はとても驚いていましたが、わたしの決めたことを尊重し、むしろ国民教育(愛国教育)の方に問題があることを認めてくれました。
それからの4年間は、学生運動から新しい政党を作り上げるための活動に費やされました。
その間、どれだけの葛藤や恐怖を味わったことか。それは、先ほどのお話のような小さな決心とは比べものになりません。政治に参加して運動の最前線に立つには、とても強い覚悟が必要です。だからこそ、社会運動に参加している若者たちに対して、「ただの目立ちたがり」だとか「注目を集めたいだけ」といった声が浴びせられるのは、とても不愉快です。スポットライトの中にいる人たちが、どれほどのストレスに晒されているのか、あの人たちは理解できないのでしょうか。社会活動家は常に法的に責任を問われるリスクを背負っていることを、あの人たちは知らないのでしょうか。若者たちは不平等な社会を変えるために戦っています。それを時間の無駄だと言うのか。ただの目立ちたがりなどと言えるのか。

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▲2016年の香港衆志の選挙活動

幸いにも、そういった考えの香港人はだんだん少なくなっています。それは同時に、社会運動を支持する層が増えていることを意味します。特に学生運動の成果からは、その傾向が顕著に見えます。反愛国教育運動や雨傘運動が、その好例のひとつです。雨傘運動は香港史上、もっとも多くの人々が参加した運動であり、もっとも長い期間、占拠が継続された活動です。しかし、それでも香港政府は、民意に応えることはなかった。それは雨傘運動が、反愛国教育運動のような政策を変えようとした運動ではなく、香港政府の議会の構成、さらには中国共産党の影響力にも関わる普通選挙制度を変えようとした運動だったからです。それゆえに、これほど大規模な運動が起きたにもかかわらず、結局は失敗に終わりました。

当時のことについて、わたしたちはいつもこう聞かれます。「悔しいか?」と。もちろん悔しいに決まっています。でも、このような悔しさと絶望の中で、新しく進むべき道を見つけるのが、わたしたち社会活動家の役目だと思います。そして、一年間の沈黙と、その間の無数の会議と熟慮の末に、わたしたちは新しい政党を立ち上げました。
わたしたちの新しい政党「香港衆志」。その主席である羅冠聰(ネイサン・ロー)は、香港の議会である立法府の選挙への出馬を決めました。長く苦しい選挙期間を経たあとで、意外な結果が出ました、なんと彼は候補者の中で二番目に多い獲得票数で当選したのです。もちろん、その道のりは険しく、選挙期間中は困難の連続でした。あまりにも仕事が多すぎて、一日2時間しか寝られない月もありました。なによりも、わたしたちが政党を立ち上げて選挙に出ると決めたときから、周囲の人々はそれまでのような目線では見てくれなくなりました。より成熟した政策提言や、大人の対応が求められるようになったのです。

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▲立法会議員のスタッフであることを証明するカード

これからは議会の仕事が増えて忙しくなりますが、わたしたちは一般大衆による社会運動から始めて、ここまで来たことを忘れることはないでしょう。もっとも、議会で発言できるようになっても、実際に社会を変えられるのは、まだまだ先のことです。この不公平な議会制度の下で、建制派(親中派)はいまだに議会の過半数を占めています。わたしたちが立ち向かっているのは、あの強大な中国共産党政権です。だからといって、わたしたちが社会運動や抗議活動を止めることはありません。わたしたちはさらに深く政治に入り込み、いかに上手く議会と社会を連携させ、政府にプレッシャーを与えるかについて考えています。
選挙活動中に財務を担当していたわたしは、今、来週提出する選挙活動費の申告書類で頭を悩ませています。それと同時に、わたしはネイサン・ローの未来の議員アシスタントとして、議会の流れや各種政策のリサーチをしなければなりません。それ以前に、わたしは大学生であり、高校生に英語を教える家庭教師でもあるのです。これからの生活はとても忙しくなるでしょう。でも、より民主的な社会にするために、自分がもっと大人になるために、わたしはがんばります。日本のみなさんに、いつかわたしの変化と成長を見せられるように、誠心誠意やっていきます。

(了)


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宇野常寛が編集長をつとめる〈PLANETS〉の公式noteです。政治からサブカルチャーまで、ざまざまな分野のスペシャリストが集まっています。独自の角度と既存メディアにはできない深度で、読むと世界の見え方が変わる記事を月に20本以上の記事を配信しています。

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