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糸を渡す

先日、祖父の訃報の知らせがあり、急いで支度を済ませ釧路を発った。祖父は言葉通り『優しくて強い人』だった。人への礼儀や、山での暮らし方、地域の文化や風土に至るまで、田舎暮らしにおける知恵をたくさん教えてくれた。地域の地区会長まで務めた祖父はことあるごとに、地域の人に支えられた自らの人生を、大好きな日本酒を片手に私たち家族へ熱く語ってくれた。葬儀は親戚・近隣住民をはじめ、多くの人で会場が埋め尽くされた。久しぶりに再会した親戚と話す中で、祖父は生前、遠く離れた地で暮らす孫(私)が心配で会いたい、と病床で語っていたと教えられた。「じゃあね、また来るからね」。生きていたらなんてことない些細な約束が、もう叶うことのない願いとして変わる瞬間が突如現れる。安らかに眠る祖父の顔を眺めながら、祖父の最後に残した願いが再び繋がれた気がした。「また会えたね、じゃあね。」氾濫する瞳の奥で祖父から孫へ家族の糸が渡された。


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